【特集】新設大学・学部・学科特集|大学Times

大学Times Vol.4(2012年2月発行)

【特集】新設大学・学部・学科特集 2012年度新設大学・学部・学科に見る傾向は地元就職を意識した大学づくり〜通信制のユニークな体育大学も誕生

少子化による大学・短大の定員割れが深刻化している昨今。本年も新たに開学、また学部・学科を新設する大学がある。カリキュラムのユニークさ、就職に有利、資格取得に強い等、各大学とも特色を前面に出して、学生を募集している。今回さんぽうでは、2012年4月に開設した通信制のスポーツ系大学の学長への取材や、学部・学科を新設する全国の大学にアンケートを行い、その新しい取り組み、今後の展望等を特集としてまとめた。また、本年度における新設大学・学部・学科の傾向と期待される教育の取り組みを教育ジャーナリストの友野氏に分析していただいた。

新設の強みは「教育重視」にシフトできること アクティブラーニングを取り入れた立教大学経営学部の成功事例 教育ジャーナリスト 友野伸一郎

新設大学は7校
医療・福祉・教員養成系が増加傾向

2012年度の新設大学・学部・学科を概観すると、次のようなことが言える。
まず新設大学は7校と比較的少なく、すべてが私立大学である。医療系学部がその内の5大学に含まれている。
国立大学での動きを見ると、東京外国語大学で外国語学部が言語文化学部と国際社会学部に改組され、山梨大学では生命環境学部が新設される。
また獣医系で、帯広畜産大学と北海道大学、岩手大学と東京農工大学、山口大学と鹿児島大学というペアで2つの大学が連携した共同教育組織が新設されるのが新しい動きだ。

この背景には畜産や食品安全を司る公務員獣医師の不足があり、また近年のペットブームによる臨床獣医師の不足もあって、それぞれに強みを持つ大学が相互を補い合う形で連携している。ただ、これらの連携する大学は相互に距離も離れており、その連携効果やスケールメリットがどこまで活かせるかが注目される。
公立大学では、大阪府立大学において現状の7学部28学科が、現代システム科学域、工学域、生命環境科学域、地域保健学域の4学域13学類に再編される。島根県立大学には看護学部が新設される予定である。

全国の新設大学/学部/学科(PDF)

地方大学の魅力は
地元企業への太いパイプ

私立大学については、首都圏の主要大学のうち、青山学院大学が文学部に比較芸術学科を新設するのが目立つ程度である。
むしろ地方の大学で、人材のニーズを反映した看護・福祉・教員・保育系の資格取得を目的とした学部・学科の新設が多い。これらの資格取得には密度の濃い実習やインターンシップなどが不可欠であるが、その点で地域の病院、福祉施設、学校、認定子ども園などとの密接な連携ができることは大きなアドバンテージになる。もちろん卒業後の就職にも有利だ。

就職に有利で全国で通用する国家資格だが、それを取得するためには大都市の大学である必要はない。地方の資格取得系学部・学科の新設は、不景気をも折り込んで当面続きそうな傾向であると言えそうだ。
また、心理系の学科の人気も続いているが、学問それ自体の面白さと同時に、学校、企業、子育ての現場等でのカウンセラー需要が期待されているという背景がある。

2012年度に新設される学部・学科数と系統

新設学部の課題は学生募集
「学習者中心の教育」への転換をめざして

問題は、新設学部・学科がどのように「教育力」の強化に取り組んでいるかである。
学生募集は、現在では単に広報に力を入れれば解決するという問題ではなく、「あの大学はいい教育をしている」という卒業生や周囲の評価が、長い目で見て学生募集に強い効果を発揮する。
では、「教育力」とは何か。これまで大学教育では、「教員が何を講義で喋ったか」を問題とする「教授者中心の教育」が主流であった。しかし近年、「学生が何を出来るようになったのか」を重視する「学習者中心の教育」への転換が重要視されつつある。そして、このような「学習者中心の教育」の実効性を高めようとすれば、必然的に学生が受動的に聴くだけの講義型授業だけでカリキュラムを埋めるのではなく、学生が授業に能動的に関わる「アクティブラーニング」「PBL(問題解決型授業)」「グループワーク」などの授業方法を導入していかなくてはならない。

しかし、ここで大きな問題にぶつかる。こうした授業方法は大学教員にとって身近なものではないのである。そもそも日本の大学教員は、教授法の専門的なトレーニングを受けた経験がない。大学や大学院で自分の担当教授が行っていた授業の経験しかなく、多くの場合、その方法をそのまま踏襲している。そして、「アクティブラーニング」などの、教員にとって未経験の授業方法を実践するためには、試行錯誤や同僚による授業検討会などの教員間の協働作業が不可欠である。

ところが、こうした取り組みを阻害しているのが、既存の大学では教員の研究者意識や既得権意識である。「改革しようとすると、教員の抵抗が大きい」。これは、改革に熱心に取り組む多くの大学人が異口同音に語ることだ。
教員の研究者意識については、最新の調査では大学教員の約6割は教育よりも研究を重視している。これは1990年代のカーネギー財団の調査で7割以上が研究重視であったことと比較するなら大きな改善にも見えるが、大学進学率は5割を超え、大学はごく一部を除いてエリート養成機関でも研究機関でもなくなった時代に対応できているとは言えない。しかも、基礎学力が身についていない学生を教育することも求められているのである。
つまり教育重視にシフトすることが求められているのだが、既存の大学では抵抗が強い。しかし新設学部・学科では、それが弱い。そこが新設大学・学部の最大の強みなのである。

教育重視で成功している
新設学部の実例

そうした実例として、2006年に新設された立教大学経営学部を挙げることができる。同学部の「ビジネス・リーダーシップ・プログラム(BLP)」では、経営学部の学生に1年前期から3年前期までの連続した5科目を正課として提供する。高学年になると選択科目になるが、1年次の2科目は必修科目で、そこでは連携する企業から与えられたテーマに対し、学生がグループワークで解決策を考え、プレゼンテーションして競い合う。そこに1学年上の学生スタッフがファシリテーターとして関与し、大きな成果をあげている。

その結果、同学部は評価を高め、新設7年目にして立教大学の中で最も人気のある学部の一つに数えられるようになっている。それが可能だったのは、私の観察では新設学部であったが故に教員同士が伝統的な縄張り意識を排し、チームティーチングに取り組めたからである。そうしてアクティブラーニングによる問題解決型の新しいプラグラムを学部として編み出していったのである。
新設大学・学部には、このような教育力重視の取り組みをぜひとも期待したい。

友野伸一郎

【プロフィール】

友野伸一郎(とものしんいちろう)

教育ジャーナリスト。教育分野のほか、経済・経営、ブランディング、住宅など幅広いジャンルをカバー。河合塾教育力調査プロジェクトに参加し、2008年には国立大学教養教育調査、2009年には「全国大学初年次教育調査」、2010年「大学のアクティブラーニング調査」に取り組む。著書に『対決! 大学の教育力』(朝日新聞出版社)などあるほか、多数の教育関連本に執筆。