【星薬科大学】共感を“協関”にかえて、薬剤師としての第一歩を踏み出す|大学Times

大学Times Vol.24(2017年4月発行)

【星薬科大学】共感を“協関”にかえて、薬剤師としての第一歩を踏み出す

創立者、星 一の「人づくり」への想いを、一世紀以上にわたり、継承し続ける星薬科大学。研究と教育を礎とした伝統的な同学の薬剤師育成に情熱を注ぐ、亀井淳三教授にお話しを伺った。バイタリティあふれる教授の医療人と薬物治療の研究に対するイズムとは……

患者の病態と生活パターンを知る

Q.教授が研究されている薬物治療とは?

患者の病態と生活パターンを知る

 糖尿病を例にお話します。糖尿病は、簡単に言えば高血糖の状態が続く病気ですが、実はその治療の過程で一番怖いのは、血糖値が下がり過ぎてしまうことなのです。グルコース(ブドウ糖)が脳細胞にいかないと、昏睡状態を起こして脳細胞が死んでしまい、危険な状態に陥ります。だから、糖尿病の治療においては、単純に血糖値を下げるのではなく、適正な血糖値を維持し、血糖値の急激な変動をなくすことがとても大切です。そのためには、患者さんの生活パターンを良く知った上で投薬する必要があります。例えば、食生活の全く異なる二人の糖尿病患者がいた場合、同じ治療で良いわけがありません。いくら糖尿病の薬が向上して長く続き、すぐ効くなどといっても使い方を間違えるとその患者さんに危険が及ぶこともあり得ます。つまり、病態と生活パターンに合せた薬の投与が重要であり、そこを研究するのが、薬物治療学です。

神経障害に効く薬を研究

Q.これまでの研究成果をお教えください

 糖尿病の患者さんは血糖値のコントロールを放っておくと三大合併症(神経障害・網膜症・腎症)を引き起こします。

 私が専門とする糖尿病の神経障害とは、痛みを感じなくなったり、痛みが感じやすくなったりすることです。糖尿病初期にすごく痛みが出る場合がありまして、糖尿病患者さんの1〜2割にその症状が現われています。昔のことですが、その痛みはどんな薬を飲んでも効かなかったんです。モルヒネでさえも。そのことで悩んでいる患者さんは、かなりいました。当時、糖尿病でなぜ、痛みを感じるのかということは誰も研究していませんでした。私はその研究を続ける中で、既に市場に出ていた薬の中から痛みを抑える機序と同じ薬を発見しました。そして、このメキシレチンという薬がナトリウムキャンネルのブロッカー、リドカインと同じ役割を果たし、糖尿病の痛みに効くのではないかとの考えに至ったのです。そこで、その薬を製造するドイツの製薬会社に連絡したら、ドイツでは有効性が認められているので、日本でも効能適応の認可に向けた動きが出だしたところでした。そうしたことから私がその役目を担うこととなり、メキシレチンが厚労省に認められて、不整脈と糖尿病性の神経障害に効く薬の第一号になったということがありました。

やめられない研究、論文を書く喜び

Q.研究の醍醐味とは?

 かれこれ40年間、研究を続けていますが、この仕事はやめられなくなります。やはり、結果が出たときは何ともいえない達成感があります。実際、研究は結果に反映されないことの方が多いのですが、最初に描いていた図が、研究の中に表れてくるとすごく嬉しいですね。続けてきた甲斐があったなと思う瞬間です。また、それをもとにして書いた論文を化学誌に出して採用、掲載されたものをみたら本当にやめられなくなる。学生たちにも研究を続けることの意義や論文を書く喜びというものを教えてあげたいなと思っています。

研究と教育をベースに

Q.貴学の特色をお教えください

研究と教育をベースに

 本学の創立者、星一は教育者であり、星製薬を設立した企業家でもあります。その星製薬のなかに教育部門をつくって、それが発展して星薬科大学になった歴史があります。最初から学問ありきの大学ではありません。新しいことをいかにして創造していくかという発想をもつ創立者の理念を引継ぎ、研究と教育をベースに新しい可能性に挑戦し、未来を切り拓くことの出来る人材を育成していく、ということを特徴としています。

 近年、新設の薬科大学が増えてから薬剤師養成より国家試験の合格率ばかりを方針に掲げる風潮がありますが、私は、この風潮はいかがなものかと思っています。研究をベースとした教育を忘れたら薬科大学ではなくなってしまいます。例えば、研究を進める過程では、たくさんの論文を読みますが、そこで培われる力は、将来、医療の最先端で活躍しようとしたときに必ず役に立つでしょう。

 本学は“教育研究大学”であり、その意思表示として、2014年に「先端生命研究所」を設置しました。学生には、大学の研究環境を最大限に活用し、薬学を牽引する力を養ってほしいと思っています。

道を示す、薬科大学の役割り

Q.薬剤師の活躍の場は広いと思いますが、学生たちはどのように選択を?

 本学は、学生間の距離が非常に近いことも特徴の一つです。それは、同輩だけでなく、先輩後輩間も同様で、学生は、早いうちから先輩からの情報を見聞きし選択肢を広げているようです。ただ、各人がより明確な将来ビジョンをもった就職を実現させるのには、もっと早期に将来をイメージさせる機会も必要であると考えています。

 今、計画していることは1年生からのインターシップです。薬局、保険薬局、病院薬剤師などの仕事内容は一日、二日の見学や説明だけでは、自分に合うか、合わないか見当もつきません。そこで早い段階に一週間程度の職業体験を考えています。その職業体験とは、大学と薬局が協議会のようなものをつくり、しっかりとした枠組みの中で、薬剤師を育てていくのが理想です。一方で、実習先での指導などクリアしなくてはならない課題は山積ですが、系統立てた教育をして、将来、この薬局に入りたいというような薬剤師を育てること、また、自分の理念で薬局の経営をし、また会社のマネージメントができる薬剤師をめざしたりなど、同じ薬剤師でも色々な発想が出てくると思うのです。それを1年生の時からある程度の経験をさせて、思い描いた将来像を目標に進む、志の高い薬剤師を育成したいと考えています。ただ卒業させるだけではない、また国家試験合格を目指すだけではなく、その先のいろいろな道を示してあげることも、大学の役割りではないかと思います。

共感ではなく“協関力”

Q.最後に薬剤師になるために大事なことは?

共感ではなく“協関力”

 国家試験が受かったら薬剤師が務まるというものではありません。薬剤師には、患者さんと協力関係を築く力が求められます。このためには、医師の出す処方箋や患者さんとの会話から、病態や生活背景を知り、患者さんの気持ちに寄り添うことが、まずは大事です。ただ、それだけでは真の協力関係は築けません。例えば、子宮筋腫の女性の患者さんに、男性の私が「おつらいですね」といっても相手が心を開いてくれることはないでしょう。そうでなくて、しっかりとした知識を培った上で、「自分がもっている知識を全部出すから、一緒に病気を治しましょう」と働きかけていくことが重要なのです。私は、このことを共感力ではなく“協関力”と表しています。
是非、学生のうちに、同級生、先輩後輩、先生たちとの関わりを多く持ち、本物の協力関係とはどういうことを指すのか、その答えを探してほしいと思います。

亀井 淳三

星薬科大学 薬学部 薬物治療学教室

亀井 淳三(かめい じゅんぞう)教授

1956年、香川県生まれ。'83年星薬科大学大学院博士後期課程修了。2002年より、星薬科大学教授。厚生労働省医道審議会専門委員、厚生労働省薬剤師試験委員会委員など学外委員も多く歴任。研究テーマは「慢性咳嗽の発症機序および病因の解明」「糖尿病、肥満、メタボリックシンドロームに伴う中枢および末梢神経系の機能変化とその分子機構の解明」。