【明治薬科大学】最先端医療を、さらに高めていく薬学の研究、異分野のエキスパートが知識を“融合”させる意義|大学Times

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大学Times Vol.24(2017年4月発行)

【明治薬科大学 薬学部】最先端医療を、さらに高めていく薬学の研究、異分野のエキスパートが知識を“融合”させる意義

さまざまな医療分野の研究者によって支えられる最先端医療。いま、時代の注目は患者の遺伝子をベースに、その特性に合った治療薬などを提供する"個別化医療"に集まっている。母親のがんをきっかけに薬学、研究畑の道に進んだ、鈴木俊宏准教授の話を伺った。

抗がん剤が効かなくなることに疑問を持つ

Q.薬学にすすんだきっかけをお教えください

抗がん剤が効かなくなることに疑問を持つ

 私が幼稚園のときに母が乳がんにかかったんですね。当時、大半の人は、がんになったら、死んでしまうと思っている時代でした。母は幸いなことに手術で治すことができました。この頃から病院に行くことも多く、医療の仕事に興味を持つようになりました。もともと理科の実験は好きでしたので、この頃の生活が薬学部に進んだきっかけだと思います。しかし、私が高校3年生の時に、母の乳がんが再発したんです。既に肺に転移が認められ、その後七年間、化学療法を受けることになったんです。すでに薬学部に進学していた私は、医師から母の病状を直接、聞くこともあり、ある時、医師から「今回は薬があまり効いていない」と、言われたんです。なぜ、今まで効いていた薬がなぜ効かなくなったんだろう?と疑問を持ちました。このことも薬剤耐性などの研究をはじめる動機になったと思います。

薬剤耐性を司るトランスポーターを見つける研究を

Q.国立がんセンター(現:国立がん研究センター)に在籍されていたそうですが、そこではどういったことを?

 国立がんセンターの研究室は遺伝子分析や発がんの研究などさまざまな部署に分かれていて、その中で私は薬効試験部という、薬の効能を研究する部署に在籍していました。そこの部長、西條長宏先生は、肺がん治療と研究の第一人者で、その先生の書いた薬剤耐性の本を学部時代に読み、薬効試験部にどうしても入りたくて直談判したんです。、当時、そこの部署に薬学部の出身者はおらず、私が初めて入った薬学出身者だったんです。周りの人たちは医学部を卒業して研修医を経験してきたお医者さんばかりなので、ほとんどの人が30〜35歳で、25歳だった私は完全に子ども扱いでした。

 薬学の出身ということもあって、耐性研究室の室長の西尾和人先生(現、近畿大学医学部教授)が気にかけてくれて、研究に自由度を持たせてくれたんです。それで、学部時代から、興味を持っていた薬剤耐性を司る輸送体(トランスポーター)の研究をはじめました。

 実験してみると、シスプラチンの効かない肺がん細胞(耐性細胞)では細胞内の薬の量が減っていました。自分は、それを現象論で追うのはつまらない、薬を運ぶ分子、トランスポーターを見つけようと考えました。

 2004年〜2005年にアメリカのがんセンターに留学したんですけど、そこにもシスプラチンの耐性を研究している先生がいたんです。その先生は60歳くらいで「20年以上、研究を続けているけど、輸送体は見つからない。おまえはそれを探すのか?まだ若いな」って笑われてしまいました。それが約12年前のことです。しかし、私は、今でもその輸送体を見つけることは諦めてはいません。

’70年代の治療薬シスプラチン
良いものは現代にも引き継がれている

Q. 先ほどのお話しで、出てきたシスプラチンとは?

 シスプラチンというのは、古くから使われている抗がん剤です。1970年代に開発された薬ですが、現在も最先端薬の分子標的薬が効かない人、あるいは効かなくなった人にとっても必要とされているも重要な薬です。高校での模擬講義などでも、シスプラチンと耐性の話をよくします。物って、良いものが出てくると、どんどん古いものがなくなっていきます。私が子供の頃あった「カセットテープって、見たことありますか?」と聞くと、ほとんどの高校生が見たことないんです。そこで、私はシスプラチンとほぼ同年代なんですが、70年代に開発された薬が今も使われているっていうのはどういうことだろうね?と話しをします。良いものはなくならないので、それはそれで大事に使っていくべきだと考えています。私は、そんなシスプラチンがどのようにがん組織に運ばれて、効いたり、効かなくなったりしているのか、まだ部分的にしかわかっていないということはとても興味深いと思います。

今後、患者さん一人ひとりの特徴に合わせた個別化医療に

Q.研究室ではどのような研究をされていますか?

今後、患者さん一人ひとりの特徴に合わせた個別化医療に

 シプラチン耐性の研究も続けていますが、現在の肺がん治療が変わりつつあることを受けて、学生たちと一緒に分子標的薬を使用する前に、それが効く、効かないが判別できる分子(バイオマーカー)を探す研究をしています。昨年、肺がんの一次治療薬が効かなくなったときに再度、肺の組織をとって遺伝子検査で遺伝子に変異があった場合、次に使える治療薬が見つかりました。それによって、患者さん一人ひとりの特徴に合った治療をする個別化医療が現実味を帯びていきました。

 個別化医療は夢のような話といわれてきましたが、実際、肺がんなどの耐性研究をしていると、薬が効く遺伝子変異、薬が効かない遺伝子変異の違いが、かなり明確にわかります。そのことを踏まえて、できることなら肺の組織をとらないで採血だけで薬の効果が予測できたらと考えています。

研究者に求められるのは、コミュニケーションスキル

Q.研究を続けていくために、大切にされていることはありますか?

 研究の仲間というのが非常に大事です。がんセンター在籍時、周りは医師ばかりだったという話をしましたが、みなさん私より10歳くらい年上の人ばかりなので、今は病院の部長や大学の教授になっています。私の研究は試験管の中で行うものですが、それを臨床まで繋げることはとても大事なことです。実際に臨床まで持っていくことはものすごく難しいのですが、昔の仲間だと割と相談しやすくて、会話の中で良いヒントを得ることもしばしばあります。アメリカ留学時の仲間もそうです、現在は世界中で活躍していますが、今でも交流が続いています。専門家として活躍している人に意見を求めることは、どんな本を読むより有効だったりします。研究を進める上で人との会話がとても重要なので、コミュニケーションスキルは必要不可欠と言えます。具体的には、お医者さんは診断学が中心なので、薬学が得意とする有機化学や薬物動態は苦手な方が多いようです。その反面、薬理学や生理学などは、ものすごく詳しい方が多いため、お互いの持っている知識やスキルをうまく融合させて、自分の研究に役立つことを吸収できるのです。薬学部の良い点は、廊下を歩いていけば有機化学の専門家がいたり、薬理学の専門家がいたりと多分野の専門家が同じ建物の中に大勢いることです。学生にはぜひ、有効に活用して欲しいです。

薬学は薬局に限らず、さまざまな方面に道が開かれている学問

Q.最後に薬学部卒業後の進路、この学問に向いている人物像などを

薬学は薬局に限らず、さまざまな方面に道が開かれている学問

 薬剤師の仕事は病院とか薬局での調剤のイメージが強いと思いますが、実はもっと多様なんです。新しく開発された医薬品の審査を担う仕事や、国内で流通する医薬品の品質を保つ試験法を開発したり、大気や飲料水など環境から国民の健康を守るのも薬学部の進路です。もちろん、薬を開発したり正しい使い方を築き上げることもです。薬学は、実に色々な方面に興味が向けられる学問なんです。だから、化学が好きだから理学部に行くではなく、医療に携わる化学分野、製薬会社で薬をつくりたいとかを含めて、調剤だけの固定概念にとらわれず薬学部も選択肢に入れてもらいたいと思います。

 薬学の進める道は一つではないので、将来はまだ決めてないけど、自分の力で見出したい、または、視野を広く持ちたいという人には向いている学問だと思います。

鈴木俊宏

明治薬科大学 分析化学研究室

鈴木俊宏准教授

1996年4月明治薬科大学博士課程進学、同年4月より国立がんセンター研究所にて研究。
1999年博士(薬学)取得。
1999年4月より、明治薬科大学在職。
2004年〜2005年 Lab. of Cell Biology,(Chief: Dr.M.Gottesman) 米国国立がん研究所(NCI),NIHにて博士研究員。
2016年4月より現職。