【特集】文系でもない理系でもない新しいリベラルアーツとは|いま注目されるリベラルアーツ教育の新しい波|大学Times

大学Times Vol.2(2011年7月発行)

【特集】文系でもない理系でもない新しいリベラルアーツとは
従来の「教養系」との違いは何か
いま注目されるリベラルアーツ教育の新しい波
教育ジャーナリスト 友野 伸一郎

選り好みをしなければ誰でも大学に入学できる「大学全入時代」が叫ばれて数年が経とうしている。学生の選択の幅が広がるため、大学は必然的に魅力ある学部・学科が求められ、特徴あるカリキュラムも多い。そのうちの一つとして「リベラルアーツ教育」を取り入れる大学が増えている。ここでは従来の教養系リベラルアーツだけでなく、広く深く学ぶ学際系の新しいリベラルアーツまでを取り上げていく。

日本でも根強い人気のリベラルアーツ・カレッジ従来の伝統的な「リベラルアーツ」とは

リベラルアーツとは、奴隷制を有した古代ギリシャやローマで「人を自由にする学問」として生まれた。5〜6世紀の帝政ローマの末期には、言葉に関わる「文法」「修辞学」「論理学」の3つと、数学に関わる「算数」「幾何」「天文」「音楽」の4つで、併せて「自由7科」という考え方が定着した。これらが奴隷でない自由人として生きていくために必要な素養とされたのである。古代では、音楽も数学的な知識として分類されているのが興味深い。このリベラルアーツは日本では教養と訳されることが多い。

大学の教育は一般的に専門教育と教養教育で構成される。経済学部なら経済学、法学部なら法学、理学部なら物理学や数学等の専門を学ぶと同時に、社会人として必要な教養を身につけるために、専門以外の知識を幅広く身につけるための「教養科目」が置かれているのだ。だから大学に入学すると、この教養科目群と専門科目群の双方から一定の単位数を卒業までに修得する必要がある。

そしてこれまでは、日本の多くの大学では一般的に、この「教養教育」のことがリベラルアーツ教育と呼ばれてきた。あくまでも、専門教育の前提となる幅広い教養という位置づけであり、1?2年生に集中している教養教育を終えると(一部では並行するが)、3〜4年生では専門教育中心に移行していくのである。

ところが、こうした専門教育とセットになった教養教育を行うのではなく、4年間を通じて教養教育のみを行う大学がある。アメリカではこのような大学をリベラルアーツ・カレッジと呼ぶが、ハーバード大学などの名門アイビーリーグなどがそれに該当する。

日本ではリベラルアーツ・カレッジと言えば国際基督教大学が有名だが、ここ10年程の間に秋田の国際教養大学、大分の立命館アジア太平洋大学、早稲田大学国際教養学部等が誕生している。これらの4大学・学部は「グローバル・リベラルアーツ」を掲げ、1年間の海外留学が必須であったり、すべての授業が英語で行われていたりするなど、英語能力と教養的な能力の育成の双方に力を入れているところに大きな特徴がある。

ただ知っておくべきことは、このようなリベラルアーツ・カレッジはアメリカでは、大学院進学を前提にしているという点である。大学の4年間で幅広く教養を学び、専門は大学院でという考えが定着しているアメリカに比べて、日本ではリベラルアーツ・カレッジを卒業した学生の大学院進学率は低い。その点で、リベラルアーツ・カレッジ出身者は日本では十分に通用するが、グローバルな人材として見た場合、アメリカのリベラルアーツ・カレッジ出身者と比べると専門知識が弱いことを指摘する声もある。

「教養系から学際系へ」リベラルアーツ教育の最新事情深く学べる多様な「新」リベラルアーツ

日本の伝統的な教養教育は学士課程教育の前半で教養教育を終え、後半で専門教育に移行するというパターンである。これは以前は大学設置基準によって制度的に決められていたが、今では大学ごとに自由に決められる。しかし、現在でも多くの大学ではその考えが踏襲され、教養教育は前半に集中している。ここで大切なポイントは、「late specialization」の考えが導入されているかどうかである。そうでなければ、教養教育を大学生活の前半に行う必然はない。専門を学びながら教養を身につけていっても構わないからである。

「late specialization」とは大学入学時には細かな専攻を決めず、教養教育を行う過程で専攻を決めるという制度で、日本では東京大学や国際基督教大学がこの制度を取り入れている。教養を学びながら専門を決めて行くという「late specialization」の考えは、2年間と4年間の違いはあるがリベラルアーツ・カレッジ終了後に専門の大学院に進むというアメリカの考えに近いことが分かるだろう。これに対し、4年間を通じて教養教育を行うのが日本の伝統的リベラルアーツ・カレッジであるとすると、最近はそれ以外の新しい傾向も生まれてきている。

それは専門分野を教えながら、その専門へのアプローチを学際的に行うことを掲げた「新リベラルアーツ系」とでも呼ぶべき傾向である。

近年、社会で要請される知識は、「理系」「文系」の枠に収まらないものが増えている。また同じ文系にしても、様々な専門分野を融合した能力が求められる職業も増えている。理系の知識も文系の知識も学ぶ文理融合系や、学際系の学部が生まれている所以だ。一つのテーマを、複数の学問的(学際的)な視点から学んだり、一つの専門領域を深く学びつつ、それを支える複数の学問領域を学ぶという考えで運営される学部である。この先駆けとしては慶応大学SFCの総合政策学部が有名だが、それ以降も名古屋大学情報文化学部、東京女子大学の現代教養学部をはじめとして、多様な学部が続々と誕生している。また最近では「観光」が名前につく学部・学科なども誕生しており、これらは典型的な学際系と言えよう。こうした「新リベラルアーツ系」は多様であるがゆえに、一括りにして言及しにくいが、「情報」や「環境」、「社会」「人間」「文化」などが対象となり、「現代」「総合」などがキーワードとして加わる場合が多い。

また、同じような目的から、副専攻制度やダブルメジャー制度を導入している大学もある。副専攻制度は「メジャー・マイナー」とも呼ばれ、メジャーである主専攻以外にマイナーの副専攻も体系的に学び、2つの領域について深い知見を身につけるという考えである。ダブルメジャーは主と副の比重が同じ程度ということであり、こうした制度を導入している大学には室蘭工業大学や福井大学、桜美林大学などがある。

リベラルアーツ教育を行う大学・学部の例
教養系リベラルアーツ教育を行う大学/文理融合・学際的なリベラルアーツ教育を行う大学

リベラルアーツ教育でも異なる教育方法−早稲田・国際教養学部と関大社会安全学部を例に−

ここでは、伝統的リベラルアーツ・カレッジの早稲田大学国際教養学部(以下、早大国際教養学部と略)と、新リベラルアーツ系を代表して文理融合の学びを展開する関西大学社会安全学部(以下、関大社会安全学部と略)について紹介してみたい。

早大国際教養学部の場合は、前述の通り英語でほぼすべての授業が行われたり1年間の外国留学が必須化されているなどの特徴が知られているが、教育に対する考え方は次の通りだ。1年生の時は幅広く学び、また学ぶ内容も上級学年に進むほど入門→基礎→発展と深化していき、幅広く学んで次第に専門を絞っていく「積み上げ型」のカリキュラムとなっているのである。

一方、関大社会安全学部(2010年開設)の場合、主に1〜2年次に基礎教育を、学年が上がるにつれて専門教育を学ぶという、一見すると「積み上げ型」のカリキュラムとなっているが、早大国際教養学部との違いは、4年間で専門分野を絞るのではなく、4年間を通して一つのテーマを学ぶということだ。「安全・安心な社会の構築に寄与する人材の育成」を掲げる同学部は、災害やその防止、危機管理の分野について、法学、政治学、経済学、経営学、心理学、社会学、理学、情報学、工学、社会医学などの科目を体系的に学ぶ文理融合型のカリキュラムを組んでいる。多方面からアプローチしていくことで、専門知識はもとより、その知識を生かすための幅広い教養を身につけることができる。

もちろん、双方とも数ある中の一例でしかないが、併願も少なくない両学部である以上、少なくとも受験生は自分の適性を踏まえた向き不向きを考慮する必要があるだろう。

このように、リベラルアーツ教育や文理融合型の学際的教育を志向する学部でも、その教育方法には大きな個性差があることを踏まえておきたい。

ただ両学部に共通している点を幾つか挙げれば、グループワークで問題発見・解決に取り組む、積極的にディスカッションを取り入れる、頻繁なプレゼンテーション等がある。これらは両学部だけでなく、一般にリベラルアーツ教育を掲げる学部・学科に共通の傾向でもある。

なぜ、いまリベラルアーツ教育なのか
企業は学生に何を求めているのか

ところで、こうしたリベラルアーツ教育で身につける教養とは、どんな力なのか。 教養は「自分の人生を豊かにするもの」という考え方もあるが、同時に教養とは「自分とは専門の異なる他者と協働する時に必要とされる能力」であるという考え方もある。今の世の中では、何事かをなそうとするならば、必ず異分野の人とチームを組んで取り組むしかない。その際に、異分野の人がどのような論理で発想し課題発見・解決をするのか、それを理解し一緒に働けるキャパシティの幅広さが求められる。それが即ち「教養」の力なのである。

では、なぜいまリベラルアーツ教育が注目されるのか。
文部科学省の中央教育審議会は、2002年に「新しい時代における教養教育の在り方について」という答申を出して、大学の教養教育をもっと重視すべきという方向性を打ち出している。

これには伏線があり、1991年の大学設置基準の大綱化によって、各大学はカリキュラムを以前とは比較にならないほど自由に決められるようになった。その結果、多くの大学で専門科目の単位数が増加し、反対に教養科目の単位数は大幅に減少したのである。そうしたプロセスの中で、専門知識はあるが社会性や常識、教養を身につけていない卒業生が社会に送り込まれるようになった。

他方で、そうした卒業生を採用する企業からは、学生に求める能力に関しての「企業と大学との認識の差」が指摘されるようになった。例えば、就職する学生に自分に何が不足しているかアンケート調査をすると、「専門知識」や「パソコンのスキル」が不足していると回答する学生が多いが、採用する企業の担当者からは同様の調査で学生の「コミュニケーション能力」や「考える力」などの不足が指摘されている。

こうした能力を、学生にいかに身につけさせるべきか。一方では経済産業省を中心に「社会人基礎力」を大学で積極的に育成しようという動きがある。専門知識だけに偏らない、社会人に必要とされる汎用的な力(ジェネリックスキル)を養成しようという発想だが、少し角度を変えれば、こうした社会人基礎力を学生に身につけさせる大学側の取り組みとしてリベラルアーツ教育の重視も位置付けられる。

リベラルアーツ教育を受けた学生の進路
物事を多角的に捉えられる人材は社会からの期待も熱い

リベラルアーツ系の学部・学科を卒業すると、どのような能力が身につくのだろうか。
一概には言えないが、教養的、学際的を問わず、リベラルアーツ系の学部ではグループワークによる問題発見・解決型の授業が多く取り入れられ、討議やプレゼンテーション・フィールドワークが頻繁に行われる傾向があることから、それらのスキルが身につきやすいと言うことができる。

また、一つの専門を深く狭くではなく、幅広い視点や学際的な視点での教育が重視されていることから、社会からは複数の分野にまたがる問題解決をコーディネートする能力が期待されるだろう。

では、どんな活躍の場が待っているのか。
これも一概には言えないが、幅広い教養とジェネリックスキルを身につけた人材となると、必然的に汎用性の高い人材となる。例えば簿記や会計などの固定した実務というよりも、企画や制作、調査などの創造的な仕事に能力を発揮することが企業や社会からは期待されていると言えそうである。

続々と増える新しい教養系・学際系リベラルアーツ(PDFが開きます)

【プロフィール】

友野伸一郎(とものしんいちろう)

教育ジャーナリスト。教育分野のほか、経済・経営、ブランディング、住宅など幅広いジャンルをカバー。河合塾教育力調査プロジェクトに参加し、2008年には国立大学教養教育調査、2009年には「全国大学初年次教育調査」、2010年「大学のアクティブラーニング調査」に取り組む。著書に『対決!大学の教育力』(朝日新聞出版社)などあるほか、多数の教育関連本に執筆。