次世代を見据えたグローバル人材育成が始まっている~上智大学~|大学Times

  1. 大学Times
  2. 特集記事一覧
  3. 次世代を見据えたグローバル人材育成が始まっている~上智大学~

大学Times Vol.25(2017年7月発行)

次世代を見据えたグローバル人材育成が始まっている~上智大学~

三年後の2020東京オリンピック・パラリンピックを契機に、日本社会のグローバル化がさらに加速すると言われる昨今。 グローバルな視点を持ち、世界で活躍する人材は今後ますます必要となるが、大学におけるグローバル人材育成の現場では今、どのような改革が進められているのだろうか。
日本の大学におけるグローバル教育の先駆的な役割を果たし、今日まで数多のグローバルリーダーを輩出している上智大学の新学長・曄道(てるみち)佳明氏に話を伺った。

志を持って学生全員が”集う”ユニークな総合大学

本学は付属の高校を持っていないため、学生全員が「大学入試」を経て本学に集います。これは日本の私立の総合大学の中でも珍しく、とてもユニークな点のひとつです。志のある多様な学生が集い、多彩な議論をするというこの形は、本来の”大学の本質”を表しているのではないかと思います。

また開学当初から今日に至るまで、留学生が多い国際性豊かなキャンパスであり、現在では約260校の海外の交換留学協定校があるなど、留学制度も整っています。さまざまなバックグラウンドを持つ学生たちがお互いの多様性を認め合いながら、それぞれの志に向かって切磋琢磨できる環境も本学の特徴です。

宗教を通して世界をみる重要性

コミュニケーションの中で、「宗教」が見え隠れするのが世界です。たとえば海外でのビジネスなど交渉事でも、聖書の文言を引き合いに議論がなされることは珍しくありません。これまで宗教が果たしてきた役割や宗教が起こした軋轢など、宗教を通して世界が読めることは重要な資質であり、今の日本人に欠けている部分でもあります。本学はキリスト教ヒューマニズムに基づいた人間教育を行っていますが、キャンパス内にはイスラム教徒の祈りの場や学食でハラル食も用意しています。また、東日本大震災の追悼は仏教者と合同で執り行いました。宗教を通して日本と他国の文化の比較ができるという点も、本学の大きな強みだと考えています。

20年先を”展望する力”を身につけるための
「次世代型の教養教育」を推進

本年度入学式の式辞で、私は新入生に「展望力を身につけるべき」と述べました。不確実で不透明な世界情勢の中、社会のグローバル化によって人間の尊厳が尊重され、多様性が尊ばれる共生社会を実現させるためにも、社会の変化を見通し、自分自身の将来をデザインする力が必要です。この「展望力」は、グローバル人材の備えるべき力としても重要です。

展望するためには「今を切り取る」ことと「過去を知る」ことの双方の学びが不可欠です。現代社会の流れを理解するため、本学ではこれまでの「教養教育」のあり方を見直しました。時代が大きく変化し、「教養」自体も変化しているため、新しい社会を理解したうえで社会を読むための力をつける、次世代版の教養教育が必要となるからです。

これまで、グローバル人材とは「多様性を理解し、相手の立場に立ち、コミュニケーションがしっかりとれること」と議論されることが多くありましたが、他国の人にとって、これらは生まれ育った環境下で既に備わっている資質です。私たちはグローバル人材のあり方の議論そのものが、早くこの段階から脱却しなければならないという考えのもと、現在、教養教育の体制を整えています。

学問を横断的に学ぶ「総合グローバル学部」

2014年にスタートした総合グローバル学部は、第1期が4年生になりました。グローバル社会におけるリーダーを目指し、国際関係論と地域研究の二つを専門として学んでいます。密度の濃い講義と実践型学修を両輪として、ユニークなグローバルセンスが磨かれています。

本学は全学部全学科が四谷キャンパスに集結していることで、学生は自分の将来を見据えた学問を、横断的に学ぶことができます。実際に、学生たちからは「他学部他学科の学生と一緒に学んだことが良かった」という声も多く聞いています。ある課題に対して、発想の違う者たちが議論し学ぶというのは、グローバルな課題を解決するためにも重要ではないか、と考えます。

本学では学生へ、自分のオリジナルな”道”をつくるための多様なチャレンジの場を提供しています。すべての学部が一つのキャンパスに集約していることは、グローバル教育においてとても重要であり、こうした体制を早くから整えていることは、本学の大きな強みであると考えています。

TEAP入試は語学教育の”先”を見据え
多様性をもって学生を受け入れるために導入

本学は2015年度入試から、これまで実施していた「学科別一般入試」に加え、「TEAP利用型一般入試」を導入しました。この入試制度の最大の特徴は、「英語の試験を行わない」点です。事前に、TEAPもしくはTEAPCBTを受験し、学科が設定している基準スコアを満たせば出願できます。合否は、学科が指定する選択科目のみで判定され、試験内容は、文章理解力や論理的思考力など、より総合的な学力到達度を測るものとなっています。

「TEAP」を利用することで、本学が求めるアカデミックイングリッシュの技能別の力を事前に測ることができます。これは「読み書き英語」だけで学力の優劣をつけないという、本学のメッセージでもあるのです。

特に理工学部は将来的に、論文や学術発表など英語力を必要とするシーンが増えますので、ぜひともTEAPを利用して入試にチャレンジしてもらいたいと思います。

2020年とその先の共生社会をめざして

1964年の東京オリンピックでは、本学学生が通訳ボランティアで活躍したという素地があります。2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、2016年4月にソフィアオリンピック・パラリンピックプロジェクトを立ち上げ、すでに160人を超える学生がボランティアとして登録しています。

昨年のリオデジャネイロパラリンピックにも調査団を派遣しましたが、ポルトガル語学科の学生の中にはボランティアとしてリオに行き、通訳ボランティアなど自主的に活動する学生もいました。これまで国際パラリンピック委員会会長の講演会、義足ランナーとの交流の場を通じて「共生社会とは何か」を考える場など、多くの学びの機会を提供しています。

本学の教育精神は「他者のために他者とともに」ですが、2020年の先の共生社会のあり方を学ぶ場として、東京オリンピック・パラリンピックを位置付け、活動しています。

高い志を持った高校生に来てほしい

「社会の役に立ちたい」という強い思いがある、志の高い高校生に本学に来てもらいたいという思いがあります。高度な専門教育や教養・語学教育、留学やスタディツアーなど、学生のチャレンジを後押しする卓越した教育環境が本学にはあります。

これらの環境を使い切って、グローバル人材として次なるステップに進んでほしいと思います。

上智大学 学長 曄道 佳明氏

上智大学 学長 曄道 佳明(てるみち・よしあき)

1962年生まれ。1985年慶應義塾大学理工学部機械工学科卒、1994年同大学大学院理工学研究科機械工学専攻博士課程満期退学。1994年7月同大学大学院博士(工学)取得。
2004年上智大学理工学部教授
2005年学生センター長
2010年入学センター長
2011年学務担当副学長
2014年グローバル化推進担当理事補佐
2015年国際協力人材育成センター長等を経て、2017年上智大学学長に就任。