連載シリーズ高等学校インタビュー
学校長が明確なビジョンを示し“自信のない高校”を“自慢できる高校”へ転換する仕掛けとは
~東葉高等学校~
大学Times Vol.48(2023年4月発行)

千葉県の東葉高等学校の教育改革に今、注目が集まっている。進学面では大学進学の希望者が急増、難関大学に複数の合格者を輩出し、少子化の中でも今年度は新入生が大幅に増加。数年前までとは明らかに変わり始めているという。話題性と実績の両輪が動き始めた秘密は何か、西村 桂校長に話を伺った。

学校法人 船橋学園 東葉高等学校 校長
西村 桂(にしむら かつら)
他校と違うワクワクすることをやる学校
楽しい企画を学校長が陣頭指揮
生徒にとって学校生活が面白く、楽しいことは、最も大事なことです。そのための施策の一例として、校長企画「この指と~まれ」というイベントがあり、年間で10回程度開催しています。内容はコーヒーのバリスタチャンピオンを学校に招いて目前で技を見たり、クリスマスには4mのクリスマスツリー点灯式で校長サンタがプレゼントを配ったりしています。市内の運動公園でホタル観賞や、Bリーグ・千葉ジェッツ観戦もあります。これらはすべて校長が企画して学内に告知し、申し込みは校長室で受付しています。「自分が生徒だったらこんな企画に参加してみたい」ことを原点にしています。そのほか、毎年1回は体育館でよしもとのお笑いライブを開催(写真)しています。この時は生徒だけでなく、希望する保護者や地域の方がご参加するときもあります。
「学校なのにこんなことがあってもいいの?」という企画も含め、「みんなで楽しむ」ことを目的としていますが、生徒たちにとってどのイベントも“本物に触れる”機会となり、主体性を育むきっかけ作りになっているかもしれません。よしもとライブは、保護者や生徒には「他校にはない、学校自慢」に、さらに地域の方々には「東葉高校が変わった」今の姿を知っていただきたいという思いもあります。

高校でお金や投資について学ぶ意義
本企画では娯楽性の高いイベントだけでなく、従来の教育現場ではタブーとされてきたお金についても、学ぶ機会を設けています。稼ぐ、節約する、投資や起業などお金を活かす術を保険会社や証券会社の方に講演してもらいます。今や貯蓄だけで生活できる時代は終わり、貪欲に稼ぐことを考え、起業することに関心を持つきっかけになればと考えています。
秋の学校説明会の「楽しい学校」への約束が第一志望者数アップに
10月に中3生への入学説明会を行っていますが、楽しい学校行事などは、可能な限り発表しています。次年度の芸術鑑賞会は東京・赤坂ACTシアターで上演中の『ハリーポッター』を予定しています。魅力のある企画を常に考え発信することが、生徒募集の秘訣だと考えます。
説明会だけでなく、Webサイトでも、「他の高校とは違う。面白い、楽しい」魅力を受験生にわかりやすく伝えるよう工夫しています。今年度は本校を第一志望とする生徒が大幅に増えて、この4月からは1年生のクラス数を増やすことになりました。
生徒に「選択肢を持たせる」改革として制服をリニューアル
2025年の創立100周年に向け、この4月、新1年生から制服をリニューアルします。生徒からリサーチを行い、選択肢を持たせるアイテムを増やしました。
男子冬服は詰襟からブレザーに、ネクタイも3色から選べます。女子はリボンを3色に、さらにスラックスを選択できるようにしました(写真参照)。本校は自転車通学の生徒が多く、その点も配慮をしています。従来の制服よりも自分で能動的に考えて選び、着用するようになります。
また、生徒の進路選択のための施策としては、2年生を対象とした大学探検を実施しています。6月の平日1日、興味のある大学を選んで訪問し、正門の写真とレポートを提出します。一人で大学を訪ねるのは勇気のいる行動ですが、大学進学のモチベーションが上がり、中には夜行バスに乗って北陸や関西まで見学に行く生徒もいます。
高校生活の中でモチベーションを保つことはとても大事であり、自分の行動に責任をもつことも身に付けてもらいたいと考えています。

3年間でタブレット端末を使いこなすICT教育にも注力
文科省のGIGAスクール構想によって本校でもICT教育のインフラ整備を進め、この春から教室の黒板をホワイトボードに換え、天井から2台のプロジェクターを設置します。生徒は入学時にiPadを1人1台、一括購入したものを各自が使い、卒業時にそのまま手渡すことにしています。
入試における高校の人気が1年おきに上下することのないよう、本校では先々を見据え、毎年100件以上の仕掛けを行っています。仕掛けとは新しい要素の導入であり、改善です。本校では校長が先頭に立って取り組み、改革をスピーディーに実践していますがまだ発展途上です。これからも失敗を恐れずに毎年チャレンジする高校でありたいと願っています。
大学進学の動機付けを生徒に示し誇りを持って勉強できるよう導く
東葉高等学校では大学進学希望者が急増している。生徒へ「勉強する動機付け」を常に示し、受験対策のための特別授業「東葉塾」をリニューアルしたという。進路指導部の末永雅嗣教諭は次のように述べている。
「私は県立津田沼高校から本校に来て2年目(取材時)です。西村校長から大学進学において “津田沼高校のようになりたい”とオファーがあり、転任しました。前任校では“5年で千葉大合格者を1名、10年で国公立大合格者を2ケタ輩出” という目標を掲げ、これを7年で達成できました。本校での受験指導は、この経験をベースに一つずつ取り組んでいます。
まず、10月の入学説明会では、“自分の持っている力で世の中に貢献できること”とは何かを考え、それを見つけることが東葉高校での3年間だと話しています。世の中のためになる、誇りを持って生きていくために勉強してほしいと考えています。そのためにも一般受験で受験することを奨めています。指定校推薦は一つ間違えば生徒自身による自分の格付けにつながりかねません。素直さと謙虚さがあれば、誰もがさらに伸びるポテンシャルを持っていると信じています」
予備校の勉強を学内で体験
受験指導をリニューアル
「本校では「東葉塾」という、大学受験をめざす生徒の特別授業を無料で実施しています。これまでは各教科の教員が担当していましたが、最新の受験指導はプロにお願いするべきと今年から駿台予備校に依頼しました。受験期間で授業のない3学期に実施し、希望者の生徒と教員も一緒に学んでいます。学内での予備校の授業がフィットした生徒は、その後各自で予備校へ行くことも可能です。
受験は団体戦です。試験会場で周囲を“ライバル”と見るか“同志”と思うかだけでも、受験に対する心構えが変わります。まずは創立100周年を迎える2025年までに、成果を出したいと考えています」