食物・栄養系特集スペシャルインタビュー
栄養・食物系大学卒業者の資格に頼らない選択肢
~株式会社オオゼキ~
大学Times Vol.48(2023年4月発行)

食物・栄養系特集
- スペシャルインタビュー 株式会社オオゼキ
- 学生インタビュー 女子栄養大学
- 准教授インタビュー 日本獣医生命科学大学
ビーガン食、アレルギー食など食の多様化が進む中、大学で栄養学などを修め、資格を取得した人たちの活躍の場も当然のように広がりつつある。こうした流れを受けた企業が求めているのは資格を有した人材なのか、それともその人が備えた知識なのか……企業と従業員双方のニーズが一致した株式会社オオゼキのケースを紹介する。
資格よりも、学んだ知識を活かして人々の食を支える

大久保 舞さん
株式会社オオゼキ 下北沢店鮮魚部 入社2年目
十文字女子学園大学 健康栄養学科卒業
栄養士資格保有
得意にしていくことを目標に
大学時代、オオゼキのインターシップに参加した時、社員の方が魚をさばいている写真をみてカッコいいなと思ったのが入社のきっかけです。
最初はそんな単純な動機で、少し考えが揺らいだ時期もありましたが、食の分野で得意なことを見つけて、その後から栄養士として働いても遅くはない、という結論に落ち着きました。魚についての知識をつけ、色々な魚をさばいたり、調理方法を学んだり、その他諸々の魚に関することを身につけて、得意にしていくことを目標に鮮魚部を選びました。
栄養士の知識をプラスアルファ
栄養士の資格を活かせる惣菜部という気持ちも少しはあったのですが、魚を扱うという魅力には敵いませんでした。
新入社員1年目のときに勤務していた杉並店は、売込みを重視していたので毎日、売り場へ出ていました。マイク販売もそこで経験しまして、その売り文句を考える際、栄養士の知識がすごく役立ちました。栄養の勉強をしていないと魚に含まれている栄養素を説明するのは難しいと思うのです。たとえば夏場ならば「タコにはタウリンが多く含まれていて疲労回復が望めますよ」などのプラスアルファの売り方、栄養士の資格を持っているからこそできる売り込み方を常に考えていました。お昼休みに魚の図鑑と栄養素の本を一緒に開きながら、必死になって勉強していました。
自分の仕事が売上に直結
今は下北沢店で毎日お刺身を切っています。お刺身を「切って・盛る」という業務なのですが、ひとつのポジションを任せていただいているので、どんどん技術や知識が高まってきているのを実感しています。
ここではさらに多くのことを学んでいて、たとえば、お客様の目に入りやすい「下段」にその日の目玉商品を並べるのですが、季節、気温、天気、曜日までをもふまえて値段設定することには驚かされました。こうしたこともわかってきて、自分の仕事が売り上げに直結しているという自覚も生まれてきました。



悩んでいるのなら原点に
小さい頃から食に興味があって、大学に入ってから色々なことを学んでいくと「食に興味があるだけではいけない」と思うようになりました。食と健康を学ぶことは自分の命を守るだけではなく、家族や身近な人たちの命を守ることにもつながるんだ、と考え方の裾野も広がっていったように感じます。
調理をすることが自分のやりたいことだったので、ゆくゆくは魚の技術を強みにできる飲食店で一度働いてみたいです。なかなか難しいことではありますが、今はその夢は温めておきたいです。
栄養士の資格を取ったときに栄養士になるかどうしようかと悩んでいる人がいたら、原点に戻って「食は好きだけど食について何がしたいのか」を再考してほしいです。資格を取るということは、生きていく中で強みにもなりますが、その後、どうしたいかが重要。資格取得後から働いている人たちとくらべると、遅れをとってしまうかもしれませんが、「いつでも仕事ははじめられるよ」と、悩んでいる学生さんがいたならそう言葉をかけてあげたいです。
食のプロフェッショナルが育つ社内文化

佐藤 重太さん
株式会社オオゼキ 本社総務人事部採用課
部門を極めていく育成法
弊社の場合は採用段階で本人が希望する部門に配属しています。同業他社さんですと2~3年現場を経験して本部などへ行って希望の部門に配属されるといったプロセスを踏むようですが、弊社は“部門を極めていく”といった育成スタイルなので、資格を持っていなくとも、5年くらいの経験を積めば、努力次第では資格相当の知識を得られるのではないかと考えています。商品知識を主体的に深めていくことが大事なので、プロフェッショナルな人材が育っているという自負もあります。
食に対しての探求心を評価
現在、食に関する資格を持っているのは大久保だけですが、今年4月入社予定のひとりが管理栄養士の資格を持っています。食に関する資格を持っていると、食に対して探求心があるなどの点で採用担当は評価するところがあります。
弊社の接客はお客様から聞かれたことに答えるだけではなく、自分たちで積極的に商品を売り込んでいくというスタイルをとっています。たとえば、今日のおすすめ商品に対してレシピを薦めるなどのアプローチを行うのですが、資格を持っているとそのあたりの説明が丁寧にできるうえ、お客様に対して説得力が生まれます。その点は資格を持っている人材は心強いと感じています。
資格を活かさずにスーパーだけに焦点を絞って就活に来る学生さんが多くなっている印象があります。理由を尋ねると「資格を活かすとなると一定層のお客様としか接点が持てないけど、スーパーだと幅広いお客様の食生活を支えることができる」と言ってくれる学生さんもいます。大学の実習の中で、幅広い人たちを支えたいという気持ちが芽生えてくるのかもしれませんね。
選択肢の一つとして、小売り業態の”土俵”
弊社の食への安全・安心に関わる強いこだわりが、店舗ごとに仕入れをするという点に集約されます。各店舗の鮮魚部のチーフが毎朝、豊洲市場に出掛けて仕入れを行い、その商品が店頭に並びます。同業他社さんの多くはバイヤーを通してセンターに運び、店舗ごとに仕分けをしてから発送というケースが主流です。弊社のように市場から直接各店舗に届くという体制が、担当社員一人ひとりの「目利き」を鍛え、成長させているという側面もあります。
正社員比率が6.5割ほどと高いのも、「食の専門家」を育成させる土壌に繋がっているともいえます。
食と栄養について学んだ方が、その知識をフルに活かして売り込みやレシピ提案などで活躍できる場所。選択肢の一つとして、小売り業態の“土俵”もアリではないでしょうか。
株式会社オオゼキ
創業:1957年8月
社員:約 1500 人
店舗:東京都内中心に41店舗
本社:東京都世田谷区北沢 2-9-21 2F