食物・栄養学系特集スペシャルインタビュー
管理栄養士の知見を製品開発に活かし人々の豊かな食生活に貢献する~ハウス食品株式会社~
大学Times Vol.59(2026年4月発行)

第40回管理栄養士国家試験は7,582名が合格した。その多くは各施設など国家資格が必須の職場で就業するのが慣例だが、管理栄養士の知見を製品開発に活かした食品メーカーの研究職の道にも関心が寄せられている。今回はハウス食品(株)開発研究所に勤務する岸さくらさんに、大学での食・栄養の学びをどのように活かして研究・開発に取り組んでいるかを伺った。

ハウス食品株式会社 開発研究所
管理栄養士 岸 さくら
日本栄養大学(2026年4月共学化 女子栄養大学より校名変更)栄養学部実践栄養学科卒業
ハウス食品株式会社について
1913年創業。1926年よりカレーの製造を開始、1928年「ハウスカレー」誕生。1963年「バーモントカレー」発売。子どもと一緒に食べるカレーとして大ヒット。その後はホームデザート(フルーチェほか)、レトルトカレー、スナック菓子(とんがりコーン)、特定原材料8品目不使用シリーズ(カレー、シチュー、ハヤシライス)などを展開。近年はレッドカレー、ブラックカレー、ホワイトカレーといった、色で楽しむをテーマとした製品を発売中。
メーカーの食品開発者をめざして
第一志望の企業に就職
子ども向け料理教室を開いていた母の影響で、幼いころから食への興味があり、祖母の母校・女子栄養大学に進学しました。大学生活を振り返ると「よく頑張ったなあ」という感想です。授業をはじめ学外実習も多く、学科名の“実践”どおりの毎日でした。また先生方には卒業研究だけでなく、管理栄養士の国家試験対策も丁寧にご指導いただき、手厚いサポートで無事に合格しました。
就職は管理栄養士として給食会社や病院、介護施設で就業するよりも食品開発に興味があり、メーカーの研究職をめざして第一志望のハウス食品に入社しました。ハウスはカレーで有名ですが、日常に近い、みんなで食べるカレーで人々の気持ちに寄り添う仕事がしたいと希望し、研究職採用として入社後直ちにカレールウ製品の開発部署に配属されました。
エンドユーザーの嗜好を大切にしつつ
ロングセラー商品を育てる
ハウスの製品は「バーモントカレー」などロングセラーが多いのですが、常に同じ味のままではありません。時代とともに変化するお客様の嗜好に合うよう、時代の“味”に合わせているのです。味のご要望についてはお客様の声を伺うお客様生活研究部という部署があり、新たな製品づくりにも活かしています。かつては家庭でも大鍋で大量に作っていたカレーですが、最近はライフスタイルの変化によって個食が増えているので、作り方の補足としてフライパンでの短時間調理などをHPで公開してバリエーションの提案をしています。
保育園児の「おいしい!」と食欲が
やりがいや励みに
現在は、加工技術を開発する部署に異動しました。外食で人気店のカレーを食べに行き「どうやったら作れるだろう」と研究したり、ハラル食(宗教上の理由で特定の食材を除いた料理)を学んだりもしています。インドなどアジアのカレーとは異なる日本のカレーライスは、誰もが思い出と共にある独自の文化ですので、これからも大切にしたいです。エンドユーザーの方と接する機会があれば喜んで参加していますが、以前に弊社の「はじめてクッキング」という保育園児と一緒にカレーライスを作って食べるイベントで、園児たちが目の前でお皿をなめるように食べて「おいしい!」と言ってくれたことがあり、この仕事のやりがいと「もっとおいしいものを届けよう!」と励みにもなりました。食べていただける方を常に想像することが大事であり、その中からお客様にとっての価値を見出せるよう心がけています。
大学時代の実験が職場で生きる
加工食品との向き合い方の啓蒙も必要
現在の職業は管理栄養士の資格が必須ではありませんが、大学での学びが日々の業務にものすごく活かせていると実感しています。食を考えるときに、食べる方の健康状態や給食実習で学んだ衛生観念が必要ですし、食品加工の授業で実習したジャム作りや、調理科学で食品に熱を加えるとどう変化するかなどは現在の技術開発にも生きており、大学で行った実験を思い出しながら「もう1回実験したい!」と悔やむほどです。
また、製品開発だけでなく、食と栄養の専門職として加工食品に対する安全性、正しいことを広く伝える努力もこれからは必要ではないかと考えています。レトルトの非常食などは現在、加工や技術、包装資材の向上により賞味期限が6年に伸びました。安全性だけでなく、味も変わらずおいしく食せる工夫もされているのです。
企業内の各部署リレーションで
新製品を生み出す醍醐味
弊社では本社の企画部門が市場ニーズを探り、開発研究所に新製品の依頼が届くケースに加え、開発部門が企画部門へ技術(加工方法)をベースに製品提案をする場合もあります。企画と開発で試行錯誤の末に目標の味が決まり、工場で大量生産できるか検討され、製品が出来上がると営業が得意先に新商品を提案し、全国の店舗に並びます。技術をベースに提案した製品例としては、これまでに「深蒸しバジル」(ハーブティをヒントに日本茶の製法でバジルを加工し、緑色鮮やかに製品化)を作ってネット販売し、お客様のご意見を頂戴しました。この加工方法を上手に応用すれば、乾燥ハーブの新しい楽しみ方へと繋がるかもしれません。
大学の授業がきっかけで加工食品に関心
食への興味は男女関係ない
在学中に企業の食品開発に興味を持ったのは、大学での授業がきっかけでした。加工食品の塩分を減らすことで、人々の健康に寄与できたという企業の食品開発の事例を知ってからでした。また卒業研究では食器や料理の色をテーマに、年代や人生経験によって器の色のイメージが大きく変わることや、視覚からの情報、見た目の大事さについても研究しました。大学では食と栄養に関連した幅広い学びができ、今でも開発の調べものをしていると母校の先生の論文や書籍が見つかることも多いです。
管理栄養士がこれからも増えて広く社会に貢献するのをうれしく思います。今よりもより身近な存在として、おいしく健康な製品を皆で作っていくことが大切だからです。管理栄養士は女性の多い職業ですが、最近は男性が料理を作る機会も増えていますので、男性ならではの視点を活かして、さまざまな属性のメンバーと広く議論や実験を重ねてより良い製品を作りたいです。食への興味は男女の関係がありません。母校も今春から共学になりましたが、食に興味のある人の学びの間口が広がるのは食品開発にとっても良いことだと思います。
