大学Times Vol.3(2011年9月発行)


●子ども学とはどのような学問ですか?
「子ども学」とは子どもを窓口にして、人間に関するあらゆる領域を統合して考えようとする学問と言ってもよいでしょう。
「教育学」という名称では、どうしても小学校以降の児童教育という印象が否めませんが、「子ども学」では保育も含めた広い意味での「子ども」を対象として、教育や保育の実践はもちろん、「子ども」の背景にある文化や社会、そしてそれらを築いてきた人間の歴史や心理までを深く考察していきます。例えば、子育てを中心としてわが国の地域社会や家族関係の変遷を探っていくと、そこから見えてくることが多々あるわけです。
核家族化による地域社会での家族の孤立など、現代における「子ども」をめぐる環境や問題は複雑化しています。一人の子どもの行動や異変の背景には家族の問題、あるいは地域社会全体の問題が横たわっているかもしれない。そうしたケースに行き当たった場合、保育者・教育者には、子どもだけではなく保護者をも支援できる人間性やソーシャルワーク的な支援が必要になってきます。そうした広がりをもって私たちは「子ども学」を構想しています。深い意味での実践知なのです。
子どもが好きという気持ちや、保育や幼児教育に対する熱意はもちろん大切ですが、これからの保育者・教育者に求められるものはそれだけではありません。本学の大学院では研究者の養成を視野に入れ、2010年から博士課程を開設しました。これは「子ども学」の博士課程としては日本初の開設となるわけですが、急激に変わる環境の中で、多角的な視点で「子ども学」を研究せねばという本学の姿勢のあらわれと受取ってもらえればと思っています。
●子どもの数が減っている現在、保育者や教育者の需要はどうなっていくと思われますか
これから日本はかつて経験した事のない少子化時代を迎えることになります。
社会情勢の影響などで一時的に人口が減少することはままあることですが、今後日本が直面する人口減少はそれとは違う継続的なものとなっていくでしょう。かつてのような経済成長は見込めず、社会がどのように変わっていくのかは専門家ですら容易に予想できません。子どもたちの育ちをめぐる環境が今より大きく改善される見込みもありません。
経済成長時代、日本の父親たちは「企業戦士」という言葉もあったくらい企業利益に貢献することをよしとし、家庭を二の次にしてきました。必然的に、自分の住居のある地域との絆も希薄になっています。
しかし、かつての日本には行政とは別の自主的な地域コミュニティがあり、その中心には男性がいました。例えば町内の行事であったり、寄り合いであったり、そういったものに積極的に地域の男性たちが関わっていたのです。
少子化とそれに伴う低成長時代は逆に地域の意味を見つめ直し、その価値を発見し直すチャンスです。
一方、経済成長とともに進んだ核家族化によって、母親と子どもたちの地域からの孤立も進みました。これは母親が家族や子育てに関わる悩みについて相談しづらい雰囲気を生んだり、また一家庭が抱える問題が外から見えにくくなる状況を作る一因にもなっています。 社会と家族、そして地域はそのまま子どもの背景であり、その背景が変化の過渡期にある今、子どもをめぐる問題の背景画になっています。
そこで、求められるのが、多角的な視点から物ごとを捉えることのできる保育者・教育者です。これから保育者や教育者を目指す人には実践力とともに問題の根本を考えられる思考力を身につけていってほしいと思っています。
子どもを育むのは親だけではなく、地域であり社会であります。その場が崩壊しつつある今、それを再建する保育者や教育者は現場だけではなく、社会にとって不可欠な存在となっていくと思われます。
少子化だから保育者や教育者そのものの需要が減るというのではなく、一定の水準以上の質を持った保育者や教育者の需要はむしろ高まっていくのではないでしょうか。
【プロフィール】
しおみ としゆき 白梅学園大学・短期大学 学長
東京大学教育学部卒業、同大学院教育学研究科博士課程修了。
東京大学教育学部教授などを経て、2007年より白梅学園大学教授、副学長。
2007年10月、白梅学園大学学長に就任。