【特集】大学の教育力特集 第2回大学教育力セミナー|大学Times

大学Times Vol.6(2012年9月発行)

【特集】大学の教育力特集 学部・学科名が同様でも内容や教育成果はさまざま。その教育力で大学を選ぶ時代

(株)さんぽう主催 第2回大学教育力セミナー

平成24年8月2日(木)、高等学校の先生方を対象に「大学教育力セミナー東京会場」を実施しました。学部・学科の希望を問わなければ大学に進学することができる「大学全入時代」に突入し、大学を選ぶ側だけではなく、大学自身も卒業することで何ができるのかを明確に公表するなど、意識の改革が求められるようになった。当日は各参加大学16校と高等学校の先生方70名の情報交換が行われたほか、特別講演として読売新聞東京本社より松本美奈氏、大学ジャーナリストである石渡嶺司氏をお招きし、「大学の教育力」についてお話しいただいた。

教育とは「引き出す行為」先生方は適切なアドバイスを 松本美奈氏

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松本氏は読売新聞が全国の大学を対象に行っている「大学の実力」調査の担当記者であり、社会に対して大きな影響を与えている。複数の大学への取材経験などを通し「大学の実力」調査の中心として活動してこられた経験や実績を活かした講演が行われ、多くの高校関係者が熱心に耳を傾けた。

「偏差値やブランドによらない大学選びのための情報提供が、この調査の目的」と松本氏は語る。日本では模試の難易度などから算出される「偏差値」や、それに基づくブランドなどで進学先を選ぶ高校生が少なくない。「先生に言われたからここにした」と言う生徒もいるという。しかし偏差値は、入試の募集人数や試験方法によって大きく変動する。入学後に受けられる教育は同じでも、日程や受験科目が異なるだけで偏差値は変わってしまう。偏差値は「教育力に対する評価ではない」という。

松本氏は「実力」のある大学の条件として「学生の可能性を引き出せるかどうか」を挙げる。その教育力を測る指標として「大学の実力」調査で様々な数字や、取り組みの有無を問うているという。注目しているのは「社会に通じる人材を育成するために、大学がどのような教育をしているのか」。海外では、退学率や卒業率は大学の教育力を判断する上で大切なデータと認識され、当然のように公開されている。それに比べ、日本の大学の情報発信は十分ではなかったというのが松本氏の認識だ。

こうした情報不足は当然、高校生の進路選択にとっても望ましいことではなかった。「高校の先生は『どうせ大学は本当のことを言わない』と思っている。実際、大学のウェブサイトやパンフレットの内容の大半は、受験生から見ればほとんど違いはわからない。一方、大学の側にも『どうせちゃんと発信したって、受験生が見るのは偏差値とブランドじゃないか』という意見がある」と松本氏は言う。そのような現状も確かにあり、「風評被害」を恐れて大学側が情報の発信に消極的になる気持ちもわかるとしながら「ですが、その相互不信の中でミスマッチが起きていることも忘れないでください」と指摘する。

ミスマッチの具体的な例が退学だ。先生に勧められた大学に進学したが、専門分野の内容をあまり理解せずに入学し、授業の内容にもついて行けない。そもそも学ぼうという意欲がわかない。友人もできず長期欠席に陥り、最終的に退学した・・・という事例もある。4年間の退学率は全国の平均で8%台。退学問題は入学難易度の低い大学だけの話ではなく、ブランド大学や旧帝国大学にも共通して起きている現象であり、こうしたミスマッチは社会にとっての大きな損失だというのが松本氏の意見だ。

「どこか良い大学ありませんか?」という保護者からの質問や相談も個人的に多く寄せられるが、親世代が持つ大学のイメージは過去のもので、大きく変わった大学の価値を知らない。そのギャップを埋められるのは高校の先生しかいない。「なぜ大学なのか」を生徒に考えさせることがミスマッチを防ぐ一番の方法だ、と松本氏は語る。

「就職率の高い大学は、良い大学?」「退学率の高い大学は、悪い大学?」「資格が取れる大学は、良い大学?」。会場に対して壇上から問いが投げかけられる。資格や就職に関する実績など、大学が発表する情報には、気をつけて読み解かなければならないものも多い。就職率を算出する際の母数となる「就職希望者」がコントロールされていたり、実際には社会であまり役に立たない資格をPRする大学もあるからだ。ミスマッチを起こしている学生の進路変更を教員が真摯にサポートするあまり、退学率が上昇した大学もあるという。これが必ずしも悪い大学であるとは言えない。

数字の高低だけで単純に良い・悪いを判断しないで欲しい。これが松本氏の想いだ。教育水準を高くしようと授業を厳しくした結果、退学率が上がったケースもある。「大学の実力」調査の結果を単純なランキング形式ではなく、一覧表にしているのもそのためだという。

大学の教育力を読み解くのは簡単ではない。高校生が大学選びの場として参加するオープンキャンパスも、日常の大学の姿とは違うものであり、参考にしてもいいが鵜呑みにするのは危険だ。その一方で、素晴らしい取り組みをしているにもかかわらず、その意義や内容が十分には知られていない大学もある。データには表れない取り組みもあり、また退学率などの数字も実際には学部・学科ごとに大きく違っている実態があるという。限界はあるが、都合の悪い情報を隠さず、すべてを公開している大学かどうかを見極めるべきという。

「偏差値が高い大学に幸せがあるとは限らない。あなたがどこに行きたいか、を考えさせるのが大事」と松本氏は会場の高校関係者に語る。社会で必要とされる人財像を考えさせるなど、自分で考え選ぶことが大切で、「高い場所」を目指させることが最良のアドバイスとは限らないということだ。「自分で船をこぎ出した生徒達を見守ってください。先に待っているのはナイアガラの滝かもしれない。でも一緒に川下りをしながら、そばでアドバイスをしてあげてください。教育とは引き出す行為です。自分の道は自分で選ぶしかない。大学の実力調査もそのためのものです」。高校教員の方々にとって、進路指導の役割を考える参考となる講演であった。

松本美奈氏

【プロフィール】

松本美奈(まつもとみな)

読売新聞東京本社生活情報部記者。全国の国公私立大学を対象に、個々の退学率や卒業率、学生支援の現状などを尋ねた「大学の実力」調査を2008年から担当。同調査をもとにしたコラム「600校の実力」(毎週木曜日朝刊)、「親子ホットライン」(毎週金曜日朝刊)、教育ルネサンス等を担当。秋田支局、社会部などを経て現職。「大学の実力2012」(中央公論新社)、「学生と変える大学教育〜FDを楽しむという発想」(ナカニシヤ出版、共同編著)など。東京都出身。社会保険労務士。

「定説」による誤解や思い込みも少なくない 
石渡嶺司氏

大学教育力セミナー後半では、大学ジャーナリストとして活躍される石渡嶺司氏から、就職を見据えた大学選びについての講演が行われた。1980年頃と現在を比較し、大学を巡る環境が大きく変わったと石渡氏は指摘する。高卒・専門学校卒・四年制大学卒それぞれに対する評価や、労働市場での女性を取り巻く環境の変化など、かつてのイメージを抱いたまま進学先を考えると、思わぬ失敗もしかねない。また「難関大ほど大企業・人気企業に有利」「資格が取得できる大学がいい」「進路は早めに決めた方がいい」など、世間で言われている「定説」には誤解や思い込みも少なくないとし、それぞれについての実態を詳細に解説。こうした誤解を持ったまま、あるいは正しい情報が不足しているまま高校生が進路選びをすることの危うさについて、様々な観点から考える講演となった。

大学の中には、ウリをうまく伝えられていない大学もあり、生徒が正確な情報を把握することが難しい側面はあるが、そんな時こそ保護者や高等学校の先生が傍らでアドバイスする姿勢が求められるようだ。