【これからの日本を変えるこの分野】埋もれている地元観光資源を生かし、活気あるまちづくりに成功|大学Times

埋もれている地元観光資源を生かし、活気あるまちづくりに成功 これからの日本を変えるこの分野 帝京大学宇都宮キャンパス 経済学部地域経済学科

自治体や住民が気づかない地域の観光対象を第三者の眼で捉え、地域の活性化に繋げてきた人物がいる。帝京大学地域経済学科の溝尾良隆教授がその人だ。(財)日本交通公社に在籍していた20年間、全国各地を飛び回り、観光地の創出などに力を尽くしてきた。今、教授は体験から得てきたスキルとノウハウを学問として学生たちに伝え、次世代の“地域活性化請負人”を育成中である。

多様化する観光。温泉やスキー場開発などの集客から地域の“宝”をアピールする観光へ

観光地ではなかった
蔵の町 川越

東京都心部から電車で1時間足らずの距離に位置する埼玉県川越市――。ここは年間600万もの人々が訪れる関東屈指の一大観光地である。風情ある土蔵造りの建物を多く残した街並みは、ドラマロケに使われるなど全国的にもその知名度を上げている。まちの歴史は古い川越だが、「観光地として脚光を浴びるようになったのは30年前くらいのことです」と、川越で生活をし、まちを四半世紀以上にわたり見守り続けてきた、帝京大学経済学部 地域経済学科の溝尾良隆教授は静かに語る。

1975年に文化庁が管轄する文化財保護法の条文に、歴史的な街並みや集落などを残すための「伝統的建造物群保存地区」(伝建地区)という制度が新たに加えられた。「当時の文化庁が、川越の街並みを伝建地区の第一号に選ぼうと考え、調査を行っていました。川越は東京から近いため、川越の街並みを全国に周知させるモデル地区にしようと考えたのです。しかし、そのとき、対象地区の住民に反対があり、川越市は申請を出せなかったのです」と溝尾教授は語る。「文化財に指定されると家屋の改築もままならなくなる、商売に支障をきたすのではないか、という誤解と危惧がありました。蔵造りを看板で隠すのが、近代的な店舗であるという時代もあったんですよ」と当時を思い出し苦笑いを浮かべる。

潜在する観光対象資源を求めて
東奔西走

この頃、教授は蔵造りの建物を軸に、商業と交通計画を組み合わせた、観光サイドからのまちづくりを提案していたが、なかなか観光が川越の主流となることはなかった。しかし、次第にTVの放映や川越乗り入れの私鉄の協力により観光客が増え、「蔵の町でも観光客が呼べることがわかり、住民と行政が連携するまでには20年間はかかったでしょう」と教授は言う。その間、教授は1988年に川越市の観光基本計画を市より依頼され策定をした。この川越は一例に過ぎず、教授は日本交通公社に在籍していた20年間、その後、立教大学観光学部に所属していた18年間に、埋もれた観光資源を発掘、また自身の研究のため、当時全国に3232(平成の大合併により現在1742)あった区と市町村の半分以上を東奔西走した。「地域の人たちから様々なことを学びました。観光が見直されている昨今、先見の明があったと言われますが、好きなことをやっていただけで、周囲が観光の重要性を理解して変わったのです」と淡々と語る。

観光のトレジャーハンターを育成

近年、エコツーリズム、グリーンツーリズムなどの台頭により、観光のスタイルは多様化しつつある。「国連が世界の貧困を救うのは観光だと唱えています。観光のために何か新しいものを造るのではなく、各々の地域が持っている自然とか歴史とか文化的なものをうまく外部に紹介すれば、旅行者が訪れ地域にお金を落としていってくれるわけです。地域の人々が主人公になる観光、その代表的なものがエコツーリズムですね」。こうした発想は、財政難にあえぐ国内の地方自治体になぞらえてみることもできる。溝尾教授が教鞭をとる地域経済学は、地域に根差した文化や景観、建造物、食文化など観光対象となる資源にスポットを当て、さまざまな産業が連携をして地域活性化に繋げていくという学問である。

「現在の観光誘致は昔みたいにスキー場を造ったり、温泉を掘削したりするというだけではなくなり、農業や本来地域の人々のみに食されていた“名物”を観光と結びつけ、客を呼んだりもしています」。今の時代、何が観光資源として利益を生み出すのかは予測しにくい反面もあるが、二匹目のドジョウを狙うのではなく、あたらしい宝物(トレジャー)をさがすベンチャー精神を持った人材、トレジャーハンターの輩出が期待されている。

今年8月、同大のキャンパスがある宇都宮市に観光委員会が発足された。そこに溝尾教授も名前を連ねている。「私は幅広く宇都宮の魅力を考えていくつもりで、一例としてサッカーJ2やプロバスケットボールチームなど、スポーツと観光を結び付けることを考えています」と多岐に渡る展望の中から、その一部をのぞかせる。教授の頭の中には、観光から地域を活性化し、ひいては日本全体に波及させるアイデアが渦巻いているようだ。

日本のココが変わる

溝尾良隆教授

観光の役割が認識される

世界的には21世紀最大の産業は観光といわれており、国連が世界の貧困をなくすのに、観光が先導的役割を果たすべきだと決議している。
日本でも観光消費額は25兆円前後で、自動車産業に接近している。雇用効果も大きい。政府も、観光を経済の成長戦略の一つにあげている。
また、国家間同士の異文化理解、相互理解に、旅行者による民間外交が期待されている。まだ日本の取組みにも課題は多い。

溝尾良隆(みぞおよしたか)

64年東京教育大学理学部地学科地理学専攻卒業
(株)日本交通公社外人旅行部入社。69年(財)日本交通公社調査部移籍(主席研究員を歴任)。89年立教大学社会学部 教授。98年立教大学観光学部 教授。02年立教大学観光学部 学部長。07年城西国際大学観光学部 教授。09年帝京大学経済学部観光経営学科教授。11年同大経済学部地域経済学科長。