【特集】大学の教育力特集|大学Times

大学Times Vol.6(2012年9月発行)

【特集】大学の教育力特集 学部・学科名が同様でも内容や教育成果はさまざま。その教育力で大学を選ぶ時代

育成する人財像や伸ばす能力を明確に示せない大学は、今後の進路選択には対応できない。キャッチフレーズやイメージではなく、教育成果を客観的に示せる数字やエビデンス(根拠)を積極的に公開していくことが、今後の大学には求められる。この10年で18歳人口は1割減少する。新たな段階の大学選びに対応できるかが、各大学には問われている。

18歳人口の推移(万人)

現在、大学の定員は1学年あたりおよそ70万人。学生を集めきれず定員割れを起こす大学は増加し、学生数が定員の7割を切った大学も既に58校に上る。日本の大学は今後、より広範な層の高校生を受け入れるか、定員縮小・募集停止かの選択を迫られることになる。前者の場合、大学の教育力はますます問われることになるだろう。

大事なのは教育ミッションの明示

資格の取得者数、就職実績、各種の設備など、大学は様々な指標で自校の教育力を受験者層にアピールしている。しかし高校生の側に立って大学の教育力を評価する場合、何よりまず重要なのは、その大学が何を「学力」だと定義しているかだ。つまりその大学を卒業することで、どのような力がつくのかということである。

たとえば同じ工学系でも、グローバルカンパニーの先端技術開発チームに入れる技術者を養成する大学と、基礎技術を一通りバランス良く学ばせ、地域の中小メーカーでリーダーシップを取れる技術者を養成する大学とでは、教育力を単純に比較することは難しい。掲げている教育の種類が異なるからである。この両者ではカリキュラムや授業の進め方はもちろん、入試で問うべき学力の種類も当然違ってくる。

流行しているグローバル人財という言葉も、意味するところは様々だ。リベラルアーツ的な教育によって育成される「グローバル・ゼネラリスト」と、何らかの専門領域で世界を舞台に活躍する「グローバル・スペシャリスト」とでは、求められる能力はまるで違う。留学ひとつとっても、確固たる語学力の育成なのか、異文化の体験なのか、専門分野での高度な学習を積ませることなのか、目的によってその中身は大きく異なる。学部や学科の名称だけでは、こうした教育ミッションの違いは判断できない。逆に言えば、この点を明らかにしない大学が、教育力を社会に対して説明することは非常に難しい。

同じ学部名でも、教育方針は大きく異なる

都内のある経営学系大学は「中小企業のエースを育てる」をミッションに掲げる。地域でのフィールドワークに力を入れ、授業はグループワークと実習重視。学園祭では全1年生に模擬店の出店を義務づけている。これらはすべて中小企業のエースという人財像に基づくものである。別のある大学の薬学部では「チーム医療に貢献できる薬剤師の育成」を掲げ、専門の授業のかなりを医学部や歯学部、看護・保健医療系学部と共同で実施。1年間、これら他学部の学生との寮生活を義務づけてもいる。このように明示されたミッションに基づく教育が行われていれば、その成果を判断する物差しもわかる。そうして初めて高校生や企業も、大学を偏差値やブランドイメージ以外で評価できるのである。

現在、毎年およそ6万人の大学生が目的意識や学力などでミスマッチを起こし、卒業を待たずに大学を中退している。この数は増加する一方だ。教育ミッションがずれた、もしくは不明確な大学に入学することで起きるミスマッチは、大学と学生それぞれに不利益を与える。

上記のグラフに示すように、日本の18歳人口は今後も減少し続ける。2009年から2017年までの変動幅は小さいが、その後、急激に減少が進むことが統計から明らかになっている。2018年以降、教育ミッションを明快に説明できない大学は、十分な学生確保もできなくなるだろう。

求められる「エビデンス」

平成23年度3月末の時点で、大学卒業者全体に占める就職者の割合は64.8%(厚生労働省)。この母数には大学院進学など就職希望者以外も含まれるが、当初は就職を希望していたにもかかわらず、内定を得られなかった学生も少なくない。私大経済系学部で、4年間の学費は平均で390万円程度かかる。厳しい状況の中、社会が大学に求める情報はキャッチフレーズを並べるイメージ重視の広報から、具体的な教育成果をデータなどで具体的に示す情報発信に移りつつある。高額の学費がかかる以上、説得力ある形で教育力を示せない大学に進学させるわけにはいかないというわけだ。高校生受けの良い学部・学科名を掲げ、キャッチフレーズで飾り立てたパンフレットをつくっただけでは、大学を選ぶ側の信頼はもはや得られない。

たとえば少人数教育をウリにする大学であれば、何がどのように「少人数」なのかを明示することが大事だ。教員一人あたりの受け持ち学生数や、実際の授業1コマの平均履修人数などを提示する必要があるだろう。逆に言うと、これらを提示することで他大学と比べた自校の優位性を、説得力ある形でアピールすることもできる。教育ミッションの違いを、各種のデータなど、客観的なエビデンス(根拠)で示すことがこれからは重要なのである。

読売新聞が行っている「大学の実力」調査では、入学者全体に対する各大学の退学率や、四年間(一部医療系学部は6年間)での卒業率などが公開されている。「面倒見の良い大学」というフレーズを使っているのに、実際には極めて多くの退学者を出している大学があることが明らかにされ、教育関係者の間に衝撃が走ったことは記憶に新しい。もちろん単純に退学率が低ければ良いというものでもない。就職実績は抜群だが安易に進級させないA大学と、そこそこの就職実績で卒業率が非常に高いB大学のどちらを選ぶかは人によって異なる。そうした判断も、こうしたデータがあればこそだ。各校が発信するミッションの違いとエビデンスをもとに「自分に合った環境」を選ぶのは、高校生側の責任だ。その判断が深く行えるよう、十分な情報を公開して教育力を説明することが大学の役割だ。

現在は文部科学省の省令に基づき、定員の充足率などが各大学公式ウェブサイトなどで公開されるようになったが、受験生に対し積極的に情報を発信していると言いがたい大学もある。「なるべく見せたくない」のか、それとも積極的に見て欲しいのか。その姿勢の違いからも、大学の教育力は判断できるだろう。

教育力を総合的に判断する時代へ

大学の教育力は授業だけにあるのではない。前述した学生寮も昨今、他者とのコミュニケーション力などを学ぶ場として再評価されている。経済が不安定な昨今では、奨学金などの経済的支援があるかどうかも、学生側にとっては大きな問題である。四年間の学費全額免除を入学時に知らせる特待生や奨学金の制度を持つ大学が増え、また教職志望者を対象に、学費総額以上の支援を行う大学などの例もある。経済的な事情で大学を中退する学生が少なくない今、学費を気にせず学び続けられる環境の整備も、今後は大学の総合的な「教育力」の一面として評価されるかもしれない。

明確なミッション、教育環境の総合的な整備、そしてそれを示すエビデンス。この3つを全学を挙げて示せるかどうかが、今後の大学の教育力を測るポイントになるだろう。

倉部 史記氏

【プロフィール】

倉部 史記(くらべ しき)

高校生のための進路選択アドバイザー、および大学プロデューサー。企業広報の企画・プロデュース、私立大学スタッフ、大手予備校の主任研究員などを経験。高校生および保護者への進学指導実績も数多い。現在は新聞・雑誌などのメディアや教育関係者向けの講演活動などを通じて、大学情報の発信や進学指導に従事。
毎週金曜日22時よりニコニコ生放送にて、高校生向けの進路選択番組「真☆大学デビュー!」MCを務める。著書に『看板学部と看板倒れ学部』(中公新書ラクレ)など。