【名城大学】リチウム−コバルト酸化物が水を分解して水素を生成することを世界で初めて発見ー使用済みリチウムイオン電池のリサイクルが水素社会の実現を後押しする可能性ー大学通信 2024.1.5

名城大学理工学部の土屋文教授(エネルギー材料科学)の研究チームが若狭湾エネルギー研究センターと協力して、リチウムイオン電池の正極材料であるリチウム−コバルト酸化物を使って水から水素を低エネルギーで作り出す方法を開発しました。 この研究成果は2024年1月2日付で環境・エネルギー材料分野で優れた国際論文雑誌の一つ「International Journal of Hydrogen Energy」に掲載されました。 (50巻、B項、599〜604頁、https://doi.org/10.1016/j.ijhydene.2023.10.039)

名城大学理工学部の土屋文教授(エネルギー材料科学)の研究チームが若狭湾エネルギー研究センターと協力して、リチウムイオン電池の正極材料であるリチウム−コバルト酸化物を使って水から水素を低エネルギーで作り出す方法を開発しました。
この研究成果は2024年1月2日付で環境・エネルギー材料分野で優れた国際論文雑誌の一つ「International Journal of Hydrogen Energy」に掲載されました(50巻、B項、599〜604頁、https://doi.org/10.1016/j.ijhydene.2023.10.039)。


【概要】
研究チームは、若狭湾エネルギー研究センターが保有するタンデム加速器を利用した大気雰囲気型反跳粒子検出法(注1)により、水分解によって生成された水素がリチウム−コバルト酸化物中に吸収されることを、その場で観測しました。また、第一原理計算(注2)を用いて、水素導入による欠陥形成エネルギーを求めることで、吸収された水素はリチウム空孔(注3)位置付近に最も安定に占有することがわかりました。さらに、室温で水浸漬されたリチウム−コバルト酸化物を250度以上に加熱すると水素が発生することを発見しました。
以上の実験結果を基にすると、添付の図に示したように、
?リチウム−コバルト酸化物が水中に浸漬されると、バルク内のリチウム原子が表面へ偏析してリチウム空孔を形成する。その際に酸素空孔も電気的中性を保つために形成される。
?水が表面に偏析されたリチウム原子、あるいは酸素空孔と反応して水素と水酸基に分解する。
?生成された水素はバルク内を拡散してリチウム空孔、水酸基は酸素空孔を占有する。
?加熱によってリチウム空孔から脱離した水素は、他の水素と結合して水素分子、あるいは水酸基と結合して水を形成して放出される。その際に、酸素分子が水酸基同士の結合により放出される。
というような水分解および水素の吸収・貯蔵・放出におけるメカニズムが考えられます。
リチウムイオン電池を構成するリチウム−コバルト酸化物および身近にある水を原料に使い、環境への負荷が少ない温度(250度)での水素の生成の発見は、世界で初めてとなります。
この結果は、使用済みリチウムイオン電池を再利用して水素を作る技術開発の第一歩となります。リチウム−コバルト酸化物は水中において安定であるため、水素吸収・貯蔵・放出特性は劣らず、何回でも利用することが可能です。即ち、使用済みリチウムイオン電池は、水を分解して水素の吸蔵・貯蔵・放出を繰り返す再生利用可能なエネルギー供給源となることが期待されます。

【背景】
現在、二酸化炭素を排出しない地球環境に調和した水素エネルギー社会の実現に向けて多くの研究が進められています。燃料となる水素は、メタン、アンモニア、エタノール等の水素化合物から取り出すことが一般的ですが、水素エネルギー社会の実現を達成させるための理想的な水素生成方法の1つとして、地球上に無尽蔵に存在する安全な水から常温で取り出すことが挙げられています。
本研究では、水を室温で吸収する優れた特性を有するリチウム−コバルト酸化物に注目し、低エネルギーで水から水素を取り出す研究を試みました。このリチウム−コバルト酸化物は、スマートフォンやノートPCなどのバッテリーとして搭載されているリチウムイオン電池の正極材料として幅広く利用されています。今後、さらに大量に放出される可能性がある使用済みリチウムイオン電池の処置は喫緊の課題となっています。

【意義】
研究チームが室温で水浸漬されたリチウム−コバルト酸化物から生成した水素は、既存の発電用プラントや家庭用燃料に適用することができるため、社会コストの抑制が可能であり、効率的な脱炭素手段として大きなポテンシャルを持っています。この水素製造手法は、土屋教授が特許を保有するリチウム複合金属酸化物の常温水分解技術「水素貯蔵体、及び水素の製造方法」(特許第6993686号)の新たな展開と位置付けられます。

【今後の展開】
実用化に向けては、空気中の水蒸気を効率よく吸収し、水素を大量に作り続けることが求められます。そのためには、より表面積を増やすために粉末状のリチウム−コバルト酸化物を作製し、水蒸気から水素生成を実現することを目指しています。

【用語の解説】
1)大気雰囲気型反跳粒子検出法:タンデム加速器からの高エネルギー(5.1 MeV)のヘリウムイオンプローブビームを、大気中で水浸漬されたリチウム−コバルト酸化物に照射し、前方に反跳された水素を直接検出する手法である。
2)第一原理計算:平面波・擬ポテンシャル法によるVASP(Vienna ab-initio simulation package)計算コードを用いた計算である。原子が結晶内で最も安定に存在し得る位置を評価できる。
3)リチウム空孔:結晶中のリチウム原子が移動することにより形成された空隙(くうげき)である。

【お問い合わせ先】
名城大学 理工学部 教養教育 教授 土屋 文
E-mail:btsuchiya@meijo-u.ac.jp


▼本件に関する問い合わせ先
名城大学渉外部広報課
住所:愛知県名古屋市天白区塩釜口1-501
TEL:052-838-2006
FAX:052-833-9494
メール:koho@ccml.meijo-u.ac.jp

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