【獣医学特集】日本獣医生命科学大学獣医学部|大学Times

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大学Times Vol.40(2021年4月発行)

【獣医学特集】日本獣医生命科学大学獣医学部

獣医療の高度化などに伴い、令和元年に成立した「愛玩動物看護師法」。今から2年後の令和5年には業界の悲願であった初の国家試験が控える。それを受けて、4年制大学や専門学校等でも愛玩動物看護師を養成する学科を新設する動きも活発化している。また、以前より法制化を後押ししてきた養成機関のカリキュラム改編は指針となるため、教育関係者のみならず獣医療界もその動向に注目している。2005年に4年制大学の中でいち早く「獣医保健看護学科」を開設した日本獣医生命科学大学の広報委員会委員の青木博史准教授にカリキュラムに関することや愛玩動物看護師の将来の展望などを語ってもらった。

日本獣医生命科学大学 獣医学部
獣医保健看護学科准教授
青木 博史 (あおき ひろし)

日本獣医生命科学大学
獣医畜産学部 獣医学科卒業
学位:博士(獣医学)(北海道大学)

学科開設以来の緻密なカリキュラム

令和4年5月1日に愛玩動物看護師法が全部施行され、令和5年内に第1回目の国家試験が実施される予定となっていますが、現在、国の愛玩動物看護師カリキュラム等検討会などで詳細な内容が検討されている状況です。おそらく、近いうちに政省令等が出されると見込んでいます。それが正式に公表されてから、私たちもカリキュラム改正などを急ピッチですすめなくてはなりませんが、検討会の内容や動向に常にアンテナをはって情報収集できる態勢にあるため速やかに対処できると考えています。

本学は4年制大学として初めて獣医保健看護学科を設置したこともあり、動物の看護と保健を学ぶためのかなり緻密に練られたカリキュラムを有しています。そのため、カリキュラム等を大幅に変更しなければならないといった事態にはならないと予測しています。もちろん、政省令等に則って微細な変更は行わざるを得ないと考えています。

動物看護系の専門学校にも長い歴史を持っているところがあり、洗練された実践教育をされていますが、本学は動物看護学はもちろんプラス要素として獣医保健学もしっかりとつくりあげてきましたので、カリキュラムに関して特徴的であると自負しています。ただ、やはり政令、省令を見るまでは予断できないところもあるので、学生全員が国家試験を受験できるようにしっかりと対応していく所存です。

特例措置の対応も万全を期して

現時点(令和3年3月25日)での特例措置に関連した情報をお話ししますと、法律が全部施行される令和4年5月1日以前に入学した大学生は特例措置での受験資格取得になります。主務大臣が指定する科目を修めているということが前提ですが、施行前の入学者には足りないとされる項目を補う講習会を受けなくてはならない仕組みです。今後、国や検討会で新たな方針や条件などの追加がない場合に限り、現在高校3年生のみなさんは動物看護系4年制大学に入学した場合だとカリキュラム履修に加えて講習会を修了することで国家試験の受験資格が得られるという流れになると思います。つまり、大学の4年間でそのカリキュラムを修めることで国家試験を受験できるようになるのは、今の高校2年生からと考えられます。

令和4年度に入学する大学生に対する講習会についてはまだ詳細が決まっていませんが、おそらく在学中の夏休みなどを利用して受けることになると予想しています。大学のカリキュラムを履修していて講習会も修了し、卒業見込みということであれば受験できるということになると思います。

また、本学では在学中の大学生、すでに本学を卒業して働いている人に対してもさまざまなサポートを計画していて、特例措置にも万全を期していきます。

感染症、ワクチンの研究にたずさわる

本学に来る前、私はずっと動物用ワクチンやウイルス感染症などの研究や規制にたずさわってきました。3年ほど前から豚熱(豚コレラ)による被害が大きなニュースになっていますが、その流行調査や感染対策の検討と評価などに現在も関わっています。豚熱は現在も野生の猪のなかで拡がっています。その拡大を止めるべく猪にワクチンを食べさせたり、捕獲で頭数を減らしたりといった二大軸で対策が進められています。しかし、ワクチンを思うように食べてくれなかったり、頭数を減らしたりしてもすぐ繁殖してしまうなど、野生動物と飼育動物との違いで難しい点が多々あります。また、猪の生息域の北限がどんどん上がってきていて、それにあわせて豚熱も北上しているかのような状況です。猪から豚にいつどのように感染するのかわからないので、考えられる豚への感染経路をいかに遮断するかといったことがとても大切になってきます。養豚農家さんには大変なご尽力をしていただいているのですが、それでもウイルスはすり抜けて侵入してしまうときがある。飼育豚と猪が直接、接触することはありませんので、感染経路の途中に介在するものがあるのですね。たとえば人の靴の裏や車のタイヤ。あるいはネズミや他の野生動物などが運び屋として養豚場にウイルスを持ち込んでしまう可能性も否定できないのです。

制御・予防のできる看護師を希求

豚熱のほか鳥インフルエンザや口蹄疫といった感染症は、一度発生してしまうと被害が大きく、何万羽、何千頭を処分するという一大事にもなってしまいます。獣医師としても人としてもいちばん辛いのは、動物を処分せざるを得ない事態です。また、愛玩動物の感染症も飼い主さんにとってその姿は辛いし不安な時間になりますし、愛玩動物から人にうつる病原体だと人に危害が及びます。なので感染を「制御する」「予防する」そういった点に力を入れなくてはならない。今、人の医療では感染管理認定看護師という専門資格が注目されていて、新型コロナウイルス感染症の現場でも非常に活躍されています。今後もさらにそういう専門的人材を増やしましょうという動きも出てきています。

日本の食の安全保障、畜産業を守るため、愛玩動物と人の生活を感染症から守るためにも動物版の感染管理認定看護師のような人材が必要と思います。将来的にそのような専門資格や、感染症検査に長けた獣医療技術者といった資格が出来たら良いな、というのが私の希望のひとつです。今回の愛玩動物看護師の国家資格化はその第一歩だとも捉えています。この一歩を確実なものにしていかないと将来の発展が見込めなくなってしまうので、ここが正念場、大事な時期だと思っています。

拡がる獣医療の専門領域

愛玩動物看護師法ができた背景には、動物と飼い主の距離がすごく近くなり、本当の家族のように暮らすようになってきたことがあげられます。また、人と動物の関係が色んな面で社会的に重要視されるようになってきたこともあります。それともうひとつが獣医療の高度化です。色んな専門領域ができて、非常に緻密になってきています。社会に対応するには高度化は避けられないわけですけど、専門領域の幅が広くなればなるほど、獣医師とともにチーム獣医療を支える専門技術者が必要になってきます。動物のリハビリ療法士や臨床検査技師などの専門技術者を備えた国家資格に広がっていけばと期待しています。

人間の看護師は長い歴史のある独立した職域で、世間から頼りにされています。そのためもあって多くの方が看護という言葉に非常に強いイメージをもっていて、そのまま動物看護師にもあてはまると思っている高校生も多いことでしょう。でもちょっと違う部分もあります。例えば、動物はたくさんの種類がいるので、それぞれに対応を考え変えなくてはなりません。そうしたことを大学に入ってから学んでもらう、もしくは専門性を磨いてもらうことが大切だと思います。でも、根底にはやはり動物が好きという素直な気持ちがあると思うので、そこを大事にしていきたい。そのうえで、社会でどう活躍するか、どうやって人と関わるかを教えていくことが、この領域での私たちが果たすべきミッションだと思っています。