学び場特集スペシャルインタビュー
学び方が変われば学ぶ空間も変わる 中高校生向け“学びのサードプレイス”の意義とは~コクヨ株式会社~

大学Times Vol.51(2024年1月発行)

【学び場特集】スペシャルインタビュー コクヨ株式会社

探究学習に象徴されるように、中高校生の学びが年々変化している。大学入試でも、高校生活での取り組みを評価の対象とする「総合型選抜」の割合が増加。日常生活で誰もがスマートフォンを持つ現代、老舗文房具・家具メーカーのコクヨが時代に即した中高生の新たな学習環境の構築に着手し、2023年11月「自習室STUDY WITH Campus」を東京・中目黒でスタートした。プロジェクト担当者3名に目的と展望を伺った。

コクヨ株式会社
経営企画本部 イノベーションセンター ライフスタイルユニット

久我 一成ユニット長(写真中)
市原 玲菜(写真右)
ワークプレイス事業本部 高田 遥香(写真左)

自宅や学校・塾以外の場所で勉強したい
地道なリサーチで見えた新たな居場所ニーズ

久我 本事業は当社が2021年に発表した長期ビジョン「森林経営モデル」に基づいてスタートし、自律協働社会をめざして活動しています。そのためには中高生の学び、特に探究学習領域に対して生徒の皆さんにどんな力を届けてサポートしていきたいかを議論し、近年の大学入試の選抜方式拡大に着目しました。自ら考え行動する力を身に付けるには、学び続ける力を養うことが大切です。

市原 コロナ禍を経てデジタルコンテンツの学習ツールは充実しつつありますが、自宅学習など自分で継続して学ぶ上での課題を、中高生や保護者の方をはじめ学校の先生や学習塾の先生方に地道にヒアリングし、中高生から「自宅では勉強以外の誘惑が多く集中できない」「塾や学校の自習室は上級生(受験生)が多いので行きづらい」との声が非常に多く挙がりました。勉強場所の一つとして「カフェを使う」という声があり、実際に、当社の採用ワークショップに参加した大学生に「中高生のときにカフェなどで勉強した経験があるか」と尋ねたところ、ほとんどの学生が手を挙げました。

中高生の自習場所はカフェ?社会人と並んでの学習は心配の保護者

久我 「学校や塾の自習室で周囲の緊張を強いられるよりも、少しリラックスして勉強したい」という“サードプレイス”を中高生も求めていることが判明しました。しかし現状ではファストフード店やカフェチェーンくらいしか選択肢がなく、保護者からは「座席の長時間利用は心苦しい」との声もあります。大企業を中心にテレワークが浸透し、街中にはコワーキングスペース(社会人向けの有料作業スペース)を見かけるようになりましたが、一部には「中高生の利用OK」の施設があるものの、制服姿で通い大人と並んで自習するのを心配する保護者も少なくないことから、“中高生専用の自習室を作る”という本事業にたどり着きました。

公教育の中学高校は心地良い空間構築に課題も

高田 当社ではこれまでも学校の教室や職員室などの空間環境の構築を行っていますが、居心地の良いサードプレイスの発想は、近年の大学では新キャンパスに取り入れられているものの、現在の公教育の中学高校では空調などインフラ整備が優先され、インテリアなどはまだ追い付いていません。それだけに、自習室の設計には生徒さんにとって「学校が終わって行きたくなる場所」の一つとして選択肢になるような、リラックスして勉強しやすいインテリアや、利用方法なども議論を重ねて工夫しました(写真参照)。

中高生専用の自習室は勉強や進路を相談できるチューター常駐

市原 年代や時代によって学びの変化はあるものの、今現在ニーズがあり、今後もそのニーズ拡大が期待されることから、まず実証実験を東京・下北沢で行いました。立地は中高一貫校が沿線にあり、途中下車でも通える居住地域の街。保護者の意見で新宿・渋谷等の繁華街は避けました。

1号店は同様の条件に合致していた中目黒を選びました。事前予約制で座席の確保ができ、お弁当やお茶などの飲食をOKとし、難関大に在籍する大学生をチューターとして常駐させることにしました。塾とは異なり、成績を上げる場所ではありませんので、いつでも向き合ってくれる身近な大人として、自習中にわからなかったことを「ちょっと聞いてみたい」という思いからやる気を引き出し、勉強の手助けとなればと考えています。チューターの学部も多岐にわたりますので、受験や大学生活の経験談を通じて生徒の進路選択の参考になればと願っています。

若者の居場所が構築できれば人生の選択肢がさらに増える

久我 自習室は昨年11月にスタートしたばかりですが、中高生も保護者も安心できる自宅以外の自習場所となるだけでなく、中高生からサードプレイスを生活の中に取り入れることは、大学入学後の居場所を見つけるトレーニングにもなり、その後の働き方にも選択肢が増えるでしょう。居場所作りなど、生活の中の住み分けに関する新しい提案は、今後社会的にも意味があると考えています。

放課後や土日は民間に任せて先生方は授業に集中できる環境を

市原 この自習室を各学校の敷地内に作ることで、その学校の生徒だけでなく、地域住民にとっての学びの場ともなれないか、とも展望しています。ある公立学校では学内の自習室を休日にも開放していますが、鍵の施錠のために先生方が休日出勤していると伺いました。部活動の指導も一部民間に移行しましたが、放課後や土日における自習室は民間がサポートに入ることで、先生方は授業に集中できる環境をつくっていただきたいと考えています。それがひいては生徒さんたちのためにもなり、学校教員をめざす大学生も再び増えていくと信じています。さらに、学び空間を起点に、地域社会を繋げる場となれば、街おこしにも寄与できるかもしれません。

コクヨ(株)と長期ビジョン「CCC2030」
1905年創業の文房具・オフィス家具メーカーであるコクヨは、2021年2月サスティナブルに成長していく多様な事業体になる長期ビジョンを策定。その先の「自律協働社会」の実現に向け、同社のバリュー・価値観である「共感共創」「実験カルチャー」「体験デザイン」を活かし、事業領域の拡大に取り組んでいる。中高生専用自習室事業もその一つ。