連載シリーズ高等学校インタビュー
読解力を磨き自立した女性を育む 社会貢献を見据えた教育改革とは~大妻嵐山高等学校~

大学Times Vol.51(2024年1月発行)

【連載シリーズ】高等学校インタビュー 大妻嵐山高等学校

埼玉県は全国的に珍しく、県立高の別学校が12校あり、創立100年クラスの伝統校として県内外に知られている。しかし少子化の影響で一部を除き入試倍率が低下、県の第三者機関は多様性の観点からも「県立高校は早期に共学化すべき」と勧告した。県北西部には県立2校の女子高校と私立・大妻嵐山高等学校が所在するが、同校では現在、ユニークな教育改革が進められている。女子教育が問われる今、その使命と新たな取り組みについて、榎本克哉校長と進路・学習指導部主任の今井奈緒美教諭に伺った。

榎本克哉校長

大妻嵐山高等学校
校長 榎本 克哉

今井 奈緒美 教諭

進路・学習指導部 主任
今井 奈緒美 教諭

「別学は私立校に任せるべき」
女性の自立は女子教育の中で育まれる

本校は建学の精神「学芸を修めて人類のために」を実現する女子の中高一貫校です。学祖・大妻コタカ先生の教育理念に基づき、社会に貢献し、真の自立した女性の育成を目指しています。女子教育の使命が問われている今こそ、本校の建学の精神を声高に発信するべきと考えています。

埼玉県では現在、県立高校の共学化に向けた議論がありますが、少子化やジェンダーレスの観点など「別学は私学に任せるべき」という考え方及び、 “女子教育は私学の範疇である”、という見解が徐々に浸透しつつあります。

近年は全国的に女子校の共学化が相次いでいますが、見方を変えれば、これまでの教員生活を通じて、ジェンダーバイアスはむしろ共学校にあるのでは、という印象を持っています。例えば、共学校では社会的性差から女子生徒が「重いもの運びは男子の仕事」と解釈する事例が散見されますが、女子校では「全部自分たちでやる」姿勢から、文化祭など全員で協力して運搬作業も行い、自ら考え工夫して取り組む場面を多数経験しました。日々の学校生活を通じて性差による取捨選択がなくなり、その結果、精神的な自立を果たす女性像が育まれるのではないか、と考えています。

県北西部には熊谷女子、松山女子という県立2校が長年にわたり地域に根差した存在感を見せています。その中でも本校は、建学の精神のもと女子教育の更なる向上を目指し、地域社会と協働して社会貢献に寄与し、新たな価値を高めていく所存です。

生徒の「問い」への理解不足に気付き実態を知ることから着手

「リーディングスキルテスト(RST)」導入は、高校3年生の受験指導の際、小論文や志望理由書を苦手とする生徒が思いの外多いことに気付いたことがきっかけです。書き方を指導する前段として、「小論文やテストの問いを正しく読み取れていない」という意見が文理関係なく他の教科担任からもありましたので、生徒が日頃から“教科書を読めたつもりになって”授業を受けているとしたら、教員にとって由々しき事態だと考えました。そこで、全生徒の読解力についての実態を知り、その結果を受験指導だけでなく日々の授業に生かそうと、本テストを2年前に導入しました。

リーディングスキルテスト(RST)とは
「日本語のルールに従って教科書の文章を読むことができない生徒がいるのではないか」という仮説のもと、診断法や教授法の開発を目的に設計及び調査が進められている基礎的な読解力を測るテスト。国立情報学研究所(新井紀子所長)を中心とした研究チームが、大学入試を突破する人工知能(AI)の研究を通して開発した、基礎的読解力を測定。やる気がないのではなく、教科書を読めていないのかもしれない生徒を早期に発見し、適切な読解指導を行う。

各教員が当事者として分析を行い協力体制で生徒に指導

1年目は、中学1年生から高校2年生の全員を対象にテストを実施しました。夏休みの教員研修会の席で「生徒の文章理解度の実態を探るため、先ずは先生方に自らテストの分析をお願いしたい」と協力を求めました。新しい取り組みでしたので、先生方が“当事者意識”を持って分析を行うことが大切であり、その結果をもとに教員間で意見交換を行い、各生徒に所見としてフィードバックしました。

<参考:RSTが測る6分野7項目>
①係り受け解析
②照応解決
③同義文判定
④推論
⑤イメージ同定
⑥具体例同定(辞書)・具体例同定(理数)

具体的には、高校生は新聞の社説を書き写して文章の構造を知るという取り組みや、中学生は簡単な文章を読むことから始めており、各学年に応じた内容で実施しています。学年の“横のつながり”と各教科の“縦のつながり”の相互協力が不可欠であり、各学年と教科担任が協力して生徒の読解スキルを伸ばす指導を実施しています。

全教員の尽力で得た“気付き”と生徒の読めていない“現状把握”

2年目は効果測定として、教科ごとに分析を行い、夏休みの教員研修会で読解力を伸ばすために教科としてできることは何かを話し合いました。例えば私の担当の理科では「定義を正しく理解する力を伸ばす」「同義文や言い換え文を選ぶ」などです。先生方の尽力による気付きが大きく、本テスト実施を前向きに捉えてテスト分析を一斉に行ったことで、一定数の生徒が教科書や問題文を「読めていない」ことが明白になりました。教科担任としてその事実を真摯に反省し、その後の授業に生かすよう工夫すると共に、進路・学習指導部主任として各学年で散見された「主語抜け」「主語/述語のねじれ」「それ・を指す語句がわからない」などの係り受け解析の対策は、受験直前の書き方指導では遅く、1,2年生のうちからやっておくべきと理解しました。リーディングスキルを伸ばすには、教員側の授業改善に加えて子どもたち自身が自らの抱える課題に気付くことも重要となります。今後はその気付きを促すような取り組みを実践しつつ、定期的に実施して分析結果を蓄積して生徒の読解力向上に生かしていきます。

表現したいことを自分の言葉で選び第三者の大人に伝わる文章を書く

RSTの目標到達点について、確かに大学受験の小論文や志望理由書対策という面もありますが、生徒が生涯学び続ける人を目指し、最終的には「自分の言葉で表現する、自分の思いに合致した言葉を選んで人に伝えられる大人になってほしい」という願いがあります。ボキャブラリーが豊富になれば、人生が豊かになることを伝えたいです。その第一歩として、生徒が日頃使っている言葉の中には、第三者に読んでもらう文章として伝わらないものがあるということに気付いてほしいと思っています。そのために、生徒たちには敢えて難しい言葉を使うことで、生徒たちを大人として扱い、相応しい言葉で伝えるよう心掛けています。この取り組みが高校卒業後の大学進学、就職活動にも繋がると信じて、読解力を付ける目的を理解し、人間力形成に繋げる所存です。