食物・栄養学系特集スペシャルインタビュー
地球の未来を変える専門職栄養士・管理栄養士への期待~エームサービス株式会社~
大学Times Vol.52(2024年4月発行)
食物・栄養学系特集
- スペシャルインタビュー エームサービス株式会社
- 学生インタビュー 女子栄養大学
- 准教授インタビュー 日本獣医生命科学大学
大学で栄養学を学び、卒業後は専門知識を生かせる職場として、多くの学生が受託給食会社に就職している。実際に現場ではどのように活躍し、キャリアを積み上げていくのだろうか。今回は受託給食会社のリーディングカンパニー・エームサービス株式会社の山内友和氏に同社の人財育成とキャリア支援について伺った。
エームサービス株式会社
人財本部リクルート&キャリアデザイン推進部
部長 山内 友和
【エームサービス株式会社】
1976年三井物産とアラマーク社(米国)の合弁として創業。三井物産の社食事業を皮切りに病院・高齢者施設の給食、オフィスドリンクサービス事業等を展開し、近年は大型スポーツイベントやスタジアム・スポーツチームの栄養サポート、エンターテインメント施設から刑務所まで食+αの複合サービスを手掛ける。ホスピタリティサービスカンパニーとして多様化する顧客のニーズを形にし、グループ合計全国3,900カ所で1日約130万食の食事を提供している。2023年三井物産の100%子会社となった。
毎年500名の栄養士・管理栄養士を採用
当社は「人の三井」といわれるように、人財投資を積極的に行っています。その中でも栄養士・管理栄養士は毎年500名規模で募集し、大学をはじめ短期大学、専門学校で学んだ学生を採用しています。勤務地は国内全域に及びますが、約8割が病院や高齢者施設等ヘルスケア部門での勤務となり、1つの現場で平均6名、多いところで20名程度の栄養士・管理栄養士が交代で従事しています。その他は社員食堂や学生食堂、スタジアム、エンターテインメント施設、スポーツチームなど多岐にわたります。
一般的に「給食の現場は休みが少ない」と思われがちですが、当社では年休122日を実現し、今後も毎年ベースアップの実施を予定しています。さらにDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進しており、正社員全員にiPhoneを支給、企業内大学(後述)のオンライン受講にも活用しています。
大きく変化した社員食堂の役割
企業の課題を一緒に解決
コロナ禍を経て、テレワークから会社に戻って仕事をする企業が多くなり、従来の社員食堂の役割が大きく変化していると実感しています。これまでの“食べるだけの場所”から、社員同士のコミュニケーションや、新たなアイデア出しの場としての機能が求められるようになりました。さらに加速する人口減少から、今はどの企業も人財確保が喫緊の課題ですが、「社員が健康で長く働ける」ことを目指し、大手を中心に“ランチによる栄養管理”に力を入れています。健康経営の推進により、社員食堂に求められるニーズも変化しており、当社では、"美味しくて健康を維持できる昼食”で働く人のエンゲージメントを高められるよう、顧客と共に課題を解決しています。
食と栄養の専門知識は地球の未来に貢献できる
最近はESG投資の観点からも、各企業にはSDGs推進が責務として課せられています。当社では今後、GHG(温室効果ガス)排出量を見える化した社食メニューの提案や、大手企業で実施しているミートフリーデー(牛のメタンガス抑制が目的)として代替肉(大豆ミートなど)メニュー開発を通じてSDGs推進に寄与したいと考えています。ますます栄養士・管理栄養士の活躍する場が広がると展望し、食や栄養学の専門知識が大いに生かせるのではないかと期待しています。このように当社では、栄養士・管理栄養士を“地球の未来を変えられる専門職”と捉え、活躍できるフィールドを多数用意しています。
企業内大学を整備
オンラインで学び栄養士の管理栄養士資格取得も支援
当社では社員が講師となった、社員のための企業内大学「わたしアカデミー」を設置しており、学びたいときにいつでも学べるオンライン受講を推進しています。業務を通じて培った幅広い知見の継承と新たな学び(下図参照)が目的で、育児休暇中も閲覧が可能です。社員の閲覧記録からどの分野に関心を寄せているかを参考に、キャリアプランの構築や人事異動などの参考にすることもあります。
さらに、栄養士として入社した社員の更なるキャリアアップとして、管理栄養士国家資格の取得を応援しています(編集注:短期大学・専門学校卒業の栄養士は3年間の実務経験を経て受験資格が得られる)。管理栄養士は新卒者と比較して、既卒者の合格率が芳しくない現状を鑑み、当社では合格者数第1位の女子栄養大学のeラーニングカリキュラムを導入しました。管理栄養士の資格取得は、等級により給与アップにつながりますので、働きながらのリスキリング環境を整え、会社を挙げて社員のキャリアアップを応援しています。
将来スポーツ栄養を志望する学生は給食経営管理と実務経験を積んでから
給食業務は女性の多い現場ですが、近年は栄養士・管理栄養士の募集に対し男子学生の応募が増えてきています。採用面接で志望理由を訪ねると、学生時代に部活動などスポーツ経験があり、食と栄養の面から選手をサポートしたい、という動機が目立つようです。当社ではトップアスリート向けの総合トレーニングセンターをはじめ、サッカーJリーグやバスケットボールBリーグ、ラグビーリーグワン、実業団や大学スポーツチームに関わる業務に携わっており、「公認スポーツ栄養士」の資格を持つ社員も業界では最も多い18名が在籍しています。それでも当社の全栄養士・管理栄養士の1%未満というのが現状です。最近は大学でスポーツ栄養を学ぶ学生が多いと伺いますが、スポーツ栄養の1丁目1番地は「給食経営管理」の実践であり、大学で学ぶ栄養学の知識だけでは太刀打ちできない現場だということを予め知っておいてほしいです。例えば選手の海外遠征に帯同して食事のサポートを行う際も、調理だけでなく慣れない国での食材調達から原価計算や安全衛生、品質の管理もありますので、給食現場での経験を積み上げた臨機応変な対応を求められるケースが少なくありません。
私たちは「おいしさ」「楽しさ」「健康」を、人生のあらゆるステージの方々へ食事として提供し、人々の豊かな生活を支えていますので、専門職としての栄養士・管理栄養士は大変意義深い職業だと日々実感しています。大学で栄養学を学び、将来は私たちと共に地球の未来を変える志のある方が増えてくれると大変有難いです。
このように大手の受託給食会社では働きやすい環境を整え、さらにキャリアアップを応援する仕組みが整っている。食と栄養の専門職としてスキルを磨き、長く働ける体制は未来も明るいだろう。次頁からは管理栄養士を目指す女子栄養大学の学生と、食品科学のエキスパート・日本獣医生命科学大学の准教授インタビューをご覧いただきたい。