グローバル系大学特集スペシャルインタビュー
国際ビジネスの第一歩はドアをノックする勇気から~大田区産業振興協会~

大学Times Vol.54(2024年10月発行)

【グローバル系大学特集】スペシャルインタビュー 大田区産業振興協会

人口減少に転じた日本は、国内中心だった企業ビジネスも規模の大小に関わらず、グローバル展開を視野に入れなければならなくなった。「日本の全員がグローバル人材になる」ことが求められるが、ものづくりの最前線では今、どのように海外展開を行っているのだろうか。今回は、(公財)大田区産業振興協会の小笠原大八氏に、日本の中小企業の海外ビジネス展開やグローバル人材としての心得などを伺った。

公益財団法人大田区産業振興協会 羽田PiO推進部
知的財産・海外取引支援係 主事 小笠原 大八

1995年創立、大田区役所100%出資。中小工場の多い街・東京大田区と世界を繋ぎ、成長発展のため、ものづくりのマッチング支援などを行っている。
主な業務は次のとおり。
①各企業(メーカー等)からの受発注相談
②ものづくり系展示会、受発注商談会の開催
③海外取引サービスの支援、海外見本市出展支援
④企業保有の新技術応用支援
⑤創業/事業承継支援
⑥情報誌発行等広報活動

東京の“空の玄関”と日本一の“町工場”地帯に所在

東京・大田区は京浜工業地帯の一角にあり人口は約74万人、面積の1/4が羽田空港にあたります。製造業事業者数が約3600カ所あり、東京23区の中で第1位です。そのうち従業員9名以下の事業所が約8割を占めています。試作品の製作をはじめ、「へらしぼり」に代表される高度な技術の金属加工技術を得意としています。小規模な事業体が多い地域ですが、日本の経済界においてこの地域の好不況が重要なバロメーターとなっており、時の首相が視察に訪れるなど常に注目を集めています。大田区産業振興協会は大田区が100%出資している公益財団法人で、区内企業の成長発展のためのサポートをしています。

公的サービスならではの利便性で区内企業の海外展開を支援

当協会では区内の中小企業に対し、仕事の受発注のあっせんを行いますが、公的サービスですので何度でも無料でご相談いただいています。さらに、海外での見本市の出展支援として、区内企業と共同で出展したり、海外の社会情勢や貿易取引のセミナーを開催するなど手厚くサポートしています。この他に、創業やスタートアップなどの支援も行っています。

羽田空港の地の利を活用し新たな商機を創出

日本の中小企業の国際化はかつて、「大企業のサプライチェーンに加わること」でした。大企業が組立工場を海外に展開し、追うように中小企業も海外に工場を設立して部品等の現地調達ニーズに応えていました。現在は外国企業との直接取引が多くなってきています。

そのような時代の変化の中、現在当協会が区内企業の海外展開をサポートする場合、2つの側面からアプローチしています。一つは、企業側の課題に応えるという形のサポートで、海外展開を検討している企業に対し、対象地域のニーズ等情報をヒアリングして課題を洗い出し情報提供すること、もう一つは当協会で企業側にビジネスチャンスを提供するサポートとして国際商談会を行い、商機を創出することです。当部門は羽田空港に隣接しているので、海外からのビジネスパーソンが立ち寄りやすく、海外企業向けの商談会を実施しやすい環境です。区内企業のポテンシャルと融合させて、事業の国際化に寄与しています。当協会ではさらに、海外展開を検討する区内企業の経営者に対し、対象地域の文化や商習慣を学ぶセミナーを開催したり、商談のサポートなども対応しています。

経営者が腹を割って話せる存在に

中小企業の社長はオーナーであり、技術者、経営者でもあります。皆さん覚悟を持って事業に取り組んでいますが、誰にも話せないことなど、日々葛藤しているのでは、とお見受けすることがあります。私たちは経営者に対して伴走支援型のサポートをして、腹を割って話せる存在でありたいと心がけています。そのための、判断材料となる専門知識や情報を日々アップデートしています。

和やかな会食もビジネスの場
商取引の目的を見失わない

当協会は国内外でグローバルな仕事に携わっていますが、異なる文化の人とビジネスをする場合、コミュニケーションは言うまでもなく、相手国の文化背景や宗教についても知ることが大事だと感じています。同じ国・地域の文化や慣習が、民族によって異なることもあるからです。また、日本人はとかく、目前の相手との会話に注力し、会食の席などその場の雰囲気を和やかにすることに集中し過ぎて、本来のビジネスの目的を見失ないがちです。国際ビジネスの席である以上、交渉では目的を忘れず、相手のペースに引きずられないように落ち着いて対処することが求められます。

その場の空気を読むよりもドアをノックする勇気が必要

最近は若い人の間で「その場の空気を読む」ことが美徳とされていますが、これは日本独自の文化ですね。空気を読み過ぎて何も発言しないのは、国際ビジネスでは「いないのと同じ」とみなされます。日本語では話しづらいことも、外国語では闊達に語るなどキャラクターを変えやすいといわれますので、時に使い分けも必要ではないでしょうか。

グローバルビジネスに興味のある方は、学生のうちに一度は海外に行ってみることをお勧めします。できれば地図やガイドブックなどアナログの資料だけを持って、見知らぬ土地のドアをノックする勇気が必要でしょう。この経験は、自分の中の価値観に変化をもたらす貴重なものとなるはずです。実際に海外のエリート層は海外ビジネスの心得を学び、就職してからすぐに実践できるようにしています。

国際ビジネスに興味のある高校生が今から身に付けること

①プレゼンテーション能力
自分自身の売り込みは大事です。説得など、理解を求める場面は多々あります。

②理工系の基礎知識
今やグローバル=文系ではありません。語学だけでなく、今のうちから理工系の基本的な知識は是非とも学んでください。

日本の更なる国際化は待ったなしの状況であり、これから社会人となるすべての高校生にとって上記の①と②はマストなスキルです。海外の方々の国際化に向けたバイタリティーには、目を見張るものがあります。日本も負けてはいられません。