2026年度入試特集スペシャルインタビュー
年内入試による学生確保は全国の大学で加速 基礎学力の徹底と学部ミスマッチの防止がポイント~城南進学研究社~
大学Times Vol.57(2025年7月発行)

「新学習指導要領」施行後初となった昨年度の大学入試。この春からは、早くも2026年度に向けた高校教員対象の入試説明会が各大学で行われている。物議を醸した基礎学力試験の動向や、年々拡大する総合型選抜に関心が集まる中、受験指導のプロたちは今、どのような点に着目しているのだろうか。今回は大学受験生を60年以上にわたりサポートする老舗予備校・城南進学研究社の高橋哲夫氏と丹治直毅氏に、2026年度入試対策のポイントを伺った。

株式会社 城南進学研究社
学校教育ソリューション事業部 マネジャー
高橋 哲夫(写真左)
学校教育ソリューション事業部
上級エキスパート兼 教務・人財育成部 上級エキスパート
丹治 直毅(写真右)
1961年、神奈川県川崎市で大学受験・高校補習のための総合予備校としてスタートしました。その後、個別指導の「城南コベッツ」、医学部専門予備校の「城南医志塾」、推薦入試専門予備校の「城南推薦塾」などを開校しています。総合ソリューション企業として高校で校内予備校の実施や「推薦ラボ」(推薦入試対策コンテンツ)の提供、大学でオープンキャンパス支援などを行っています。
基礎学力型入試は高校1,2年生の学習成果を総合判断
高橋 「昨年度は、東洋大学が筆記試験のみで合否判定する学校推薦型選抜「基礎学力テスト型入試」を導入し、約2万人の受験者を集めて話題となりました。受験生や高校現場では“一般選抜の前倒し”のように受け止められて物議を醸しましたが、基礎学力試験型の年内入試は東洋大学のみならず、首都圏の総合大学でも既に追随する動きがあります。加速する少子化に備え、各大学では『早めに学生を集めたい』という切実な事情があるからです。
大学入試の基礎学力型試験の成功によって実施大学の拡大が進み、高校の先生方からは「学校のカリキュラムを前倒ししなければ対応できないか」といったご相談をお受けしますが、私どもでは不要、とお話しています。基礎学力型試験の出題範囲は、いわゆる年明けの一般選抜試験とは異なり、高校1,2年生で学習した内容に準拠しているからです。高校3年生の範囲は省かれますので、むしろ早期から基礎学力を鍛えることが重要になり、高校入学時からきちんと学習していくことが求められるでしょう。総合型選抜では志望理由書や面接、小論文との総合判断となりますので、筆記試験の点数だけでなく『どういう人を選抜したいか』というアドミッション・ポリシーを理解した上で出願することが重要です」
指定校推薦での学部ミスマッチに要注意
どの学部でもいい、は避けるべき
丹治 「当塾の地元・神奈川の大学でも年内実施の給費生入試が復活するなど、各大学の共通認識として『学生の早期確保のための年内入試』の切実さが伺えます。しかし一方では『指定校推薦の見直し=縮小化』を入試説明会で明言する大学も見受けられます。その背景には、指定校推薦の入学生による中途退学者の増加を挙げる大学もありました。指定校推薦は高校での学内選考の際、希望者の中から成績優秀者を選ぶ傾向がありますが、合格学部がもともとの志望学部と異なるといったケースも散見されます。当塾で指定校の校内選考合格で予備校を辞める生徒に同様のケースが見られるので、大学内での学部ミスマッチは容易に想像できます。特に理工系学部ではその傾向に加え学力ミスマッチも顕著と言われ、当塾でも大学からの要請で数学や理科、英語の基礎学力を補習する、在学生や推薦合格者向けの『学習支援センター』の運営を請け負うこともありました。『指定校推薦で受かればどの学部でもいい』という気持ちも分かりますが、学部ミスマッチによる中途退学は避けなければなりません。学部との相性は高校での探究学習での取り組みから探るのも良いと思います」
公立大の総合型選抜は地域人材の育成と定住が目的
丹治 「国公立大学の入学者における総合型選抜・学校推薦型選抜入学者の比率は、関東圏の大学が2割に達しないのに対し、東北地区は3割以上にのぼります。とはいえ、関東圏の大学でも、看護医療系・福祉系学部の比率は4割超のところが多いです。これは、地域人材として大学で学び、卒業後も地元に残って活躍する意欲のある高校生に入学してもらいたい、という大学(公立大は自治体含む)からのメッセージでもあります。当初は導入を見合わせていた公立大学の総合型選抜導入が顕著となりましたが、地域課題が明確にあり、大学教育を通じた人材育成によって解決が期待されるところと合致しています」
探究学習と大学受験が結び付き
地域社会も巻き込む工夫も必要
高橋 「探究学習がスタートして3年が過ぎ、探究成果型入試の導入は今後も増加するとみられますが、一部の大学からは選考方法に不安がある旨のご相談や、探究学習自体が手探りの高校も見受けられます。専任の先生が配置された訳ではなく、現在の先生方が既存授業と日常業務にオンされる状態では無理もありません。取り組む分野に詳しい先生や、高大連携先の大学の先生に協力を仰ぐことも視野に入れるべきです。大切なのは生徒一人ひとりが探究学習で得たものを次にどう繋げるかです。生徒も『すごい成果を挙げなければならない』という誤解を解いて、自らの問いに仮説を立てて検証するループの中で、正解は一つではないこと知り、前向きにトライしていくことで生涯学んでいく姿勢を身に付けることに眼目があります。探究学習の取り組みは総合型選抜の志望理由書を作成する力になりますので、探究学習と大学受験は決して別々ではないと捉えるべきではないでしょうか」
丹治 「探究学習を担任の先生など高校内で完結させず、フィールドワークなどを通じて地域の大人に考えを聞いたり、自分の意見を聞いてもらう出会いから、新たな発見があるかもしれません。探究学習は社会的な意義がありますので、高校がハブとなって地域と繋がり、発表を通じて共有するなど、地元愛を育みながら総合型選抜に繋げるのが理想と考えます」
英検®に「準2級プラス」が新設
英語外部検定利用入試への影響は
高橋 「英検®の『準2級プラス』が今年6月試験からスタートしました。準2級に合格してから2級を受験するまでのハードルが高く、1年半から2年かかるため、そのギャップを埋めるのが目的とされています。大学の英語外部検定利用入試では、全国的に英検®が最も活用されており、2級または準2級を合否判定に利用する大学が多いため、中堅大学では準2級プラスを利用できる可能性があります。英検®対策は高校の通常授業の中で扱うことができず、課外授業で対応しているため先生方には相当なご負担となっています。当塾では英検®に特化した講座を提供でき、また『出願が集中する時期には証明書の発行までに時間がかかる』などの情報提供もしておりますのでご活用いただければと思います」

このように、年内入試が今後も加速するのは避けられない。基礎学力試験は高校入学時からの学習の積み重ねが対策そのものであり、総合型選抜には探究学習の取り組みを活用し、学部ミスマッチを防ぐことが有用のようだ。
