いち推し教授特集教授インタビュー
毎日使うものへの美的な視点を探究しモノの在り方や魅力を先端技術と共に学ぶ 総合大学のデザイン工学とは~法政大学~
大学Times Vol.57(2025年7月発行)
「大学でデザインを勉強したい」高校生は進学先として、まず美術大学を検討するのが一般的であった。しかし近年、総合大学で多様な視点からデザインを学ぶ学部学科が誕生し、新しい視座をもったカリキュラムが注目されている。
法政大学デザイン工学部システムデザイン学科では、デザインに先進工学を活用し、更にものづくりに関わる調査や分析、マネジメントなど社会実装をめざす多角的な学びを得られる魅力があるという。デザイナーとしても活躍する安積伸教授に話を伺った。

法政大学 デザイン工学部
システムデザイン学科 教授
安積 伸(あづみ しん)
ヒューマニティデザイン研究室
人々が幸せになる「ものづくり」を多角的に学ぶ意義
私の専門は工業デザインで、インダストリアルデザイン、プロダクトデザインとも呼ばれます。かつてモノのデザインは、それ自体の価値や魅力を考える事が中心となっていました。しかし今は同時に「ものづくり」の前段階と後段階を考えてデザインしなければなりません。その製品をなぜ作るのか、その製品で幸せになれるのか、地球規模の問題も意識しつつどうすれば良いかを根本的に考える事が重要であり、調査や考察を基に「ものづくり」のアイデアを生み出す事が求められています。さらに、その製品が人々に受け入れられ、社会や生活の一部として存続できるのか?というところまで考えるのが現代のデザイナーの役割です。今は「作れば売れる」時代ではありません。人間環境の全体像を考えなければ、「幸せなものづくり」が成立しないのです。
総合大学ならではの活力を養う
3つの柱を修得して社会実装をめざす
本学科では全ての学生が入学から2年半かけて、3つの領域の学問を学びます。
①クリエーション(魅力的なアイデアの考案と表現)
②テクノロジー(アイデアを具現化する技術)
③マネジメント(調査分析、社会実装の知見)
この3つを総合的に学べる大学は多くありません。広い領域の知を統合する力を修得し、最終的には社会実装までを見据えています。また本学科では教員間の横の連携が強く、修得のプロセスに必要な知識や情報を得る環境が整っていると自負しています。
私の研究室は10年前の発足時より「ヒューマニティデザイン研究室」という名称を冠しています。ここでは生きる営みへの愛情や共感を軸にしながら、人間のエゴに偏らず多様性や地球環境を考えつつ、バランスを取る方法を模索しています。
「デザイン思考」を修得し
デザイナーではなくクリエーターを目指す
本学科では、私がこれまでのプロダクトデザインワークで培ったノウハウを多く学生たちに共有しています。しかし今日、デザインが対象とする領域は拡張を続けており、カバーしなければならない範囲も広くなっています。ですので、私は学生に「狭義のデザイナーではなく広義のクリエーターを目指せ」と伝えています。
近年「デザイン思考」という言葉や概念が広く認知され、サービスやビジネスなど無形なものの開発に対しても活用されています。そこで言われる、人間生活の観察を起点に課題を発見し、創造的な思考で変革を起こす方法は、プロダクトデザインのプロセスを学べば明確に理解する事が出来ると考えます。またアイデアが活用できる場所を自分で発見する力と、知らない知識は学べば良い、という柔軟な姿勢が身に付くよう指導しています。
就活で闘えるチカラを蓄える
学生は3年生後期から研究室に入りますが、3年生終了間際で就職活動がスタートするため、半年弱で就活に必要なデザイナーとしての力を身に付けなければなりません。短い期間ですが、私の研究室では大きく4つの課題に取り組んでいます。
①デジタルファブリケーションを応用する
CAD・3Dプリントという強力なツールを使いこなす事で、手先の器用さに左右されない現代的なモノづくりの在り方を模索します。工芸的な技法と工業的な製造技術は紙一重なところがあり、例えば窯業の伝統的技法「泥漿鋳込み」でマグカップを制作するプロジェクト(写真A)を行っていますが、CADで設計し3Dプリンタで原型を制作しています。電気窯で焼成し完成した磁器のマグは各自が1年間毎日使って検証し、デザイナーの使用者に対する責任を身をもって感じてもらいます。
②製品企画とブランディングを探るフィールドワーク
国内の伝統工芸の産地へ行って技術や文化を学び、製品の企画・デザイン・ブランディングを行い、製品リリースを目指します。過去には角館樺細工(秋田県)で従来の高価な伝統工芸品とは異なった、学生でも旅の記念に購入できるグッズとして樹皮の廃材を活用したステッカーを発案し(写真B)、製品化のクラウドファンドまでを実施しました。これまでも製品のリリースだけでなく地域のコンテストで多く受賞を果たしています。

③技術シーズを活かす方法を模索する
今日では様々なテクノロジーへのアクセスが容易になり、活用するためのハードルがどんどん低くなっています。このような技術の進化を伝えてくれる工学系の教員が本学科には揃っているのが魅力です。クリエーターは技術を活かすアイデアを提案するだけでは不十分で、それをどの様に具現化し体験として提供するか、その質が問われていると感じます。
④インクルーシブなデザイン姿勢を学ぶ
障がい者の助けとなるデザインを生み出すべく、実際の生活での困り事などを当事者にヒアリングして各々の生活を知り、寄り添うマインドを醸成します(インクルーシブデザイン;写真C)。マーケティングで表面に出てこない、貴重な情報を得る方法を学びます。
学生たちは半年間で経験したプロジェクトをポートフォリオにまとめ、就活に臨みます。そして4年生で卒業研究制作に取り組みます。

「好きなこと」と「出来ること」に向き合い
世界のどこにいても活躍できるクリエーターに
私の研究室はクリエーターの養成を目標としていますので、自分の内面を見つめつつ、好きなことと、できることをすり合わせる大切さも伝えています。本学科では在学中に多くの学生が作品をコンペティションに応募し受賞もしていますが(写真D)、本来の目的は自分が作品に込めた思いと、世の中との距離感をつかむ事にあります。また学生の学んだ工学的知見は、クリエーターとして就職してからも重宝され、企業からも好評です。

本学科はものづくりだけでなく、システム全体をデザインする能力を育成する学科です。アイデアだけでなく、技術や人々のニーズを汲み発信する能力を伸ばす事が出来ます。ものづくりに興味があり、技術とデザインの両面で活躍したい学生におすすめです。アイデアを形にし、社会実装出来るクリエーター、世界のどこに行っても活躍できる人物に育ってほしいと願っています。
