グローバル系大学特集新学長インタビュー
グローバル競争時代の学士+修士教育改革。人生100年時代を生き抜く柔軟で幅広い学びとは~東京外国語大学~

大学Times Vol.58(2025年11月発行)

【グローバル系大学特集】新学長インタビュー 東京外国語大学

日本国内における「人文系人材」は、四年制大学を卒業後直ちに就業するキャリアが大勢を占め、理工系と比べて大学院進学のメリットに乏しいと指摘されている。しかし、東京外国語大学では、加速するグローバルな競争時代と人生100年のキャリア形成を見据えた「国際的に通用する学位」の取得を目指し、ダブルディグリー・プログラムの拡充や、5年で「学士」と「修士」両方を取得できる制度を整え、大学院進学を促進する。その狙いは何か、本年4月に就任した春名展生新学長に伺った。

東京外国語大学 学長
春名 展生(はるな のぶお)

1975年生まれ 専門分野:国際政治学、日本政治外交史
2015年4月東京外国語大学大学院国際日本学研究院講師、2018年准教授、2021年国際日本学部学部長補佐、2023年副学長(国際、国際教育等担当)、2024年大学院国際日本学研究院教授を歴任。2025年4月より東京外国語大学長。

「学士」だけでは欧米と差をつけられない
人文系も「修士」取得が必要な時代に

本学が「国際的に通用する学位」の付与を目指す理由の一つは、人文系の大卒人材を学士から修士レベルに引き上げたい、という点です。日本でも近年、大学進学率が5割を超えましたが、欧米ではすでに働く人の大半(欧州7割、米国6割以上)が「学士」を取得しており、学士だけでは人材としての差をつけられない現状があります。国際機関や国によっては公務員などでも「修士」がないと採用されない職種も散見されるなど、アドバンテージとしての「修士」付与は、グローバルな競争社会に若者を送り込む本学として必須だと考えます。国内でも今後は欧米並みに働く人の「学士」取得率が上がり、国際的な取引や交渉など、より知的な労働が求められる現場では欧米と同じ「修士」水準の人材が求められるようになるでしょう。本学では社会の変化に先んじて、人文系人材の修士号取得を推進した教育プログラムを拡充していきます。

世界で活躍する「実務者」養成のための
ダブルディグリー・プログラムを拡充

「国際的に通用する学位」の付与を目指すもう一つの理由は、卒業後に「実務者」として世界の舞台で活躍する学生でも、海外の大学院に進学して修士号を取得するケースが少なくない実情から、本学在学中に時代に合った学位取得のための整備が急務と考えています。また国内においても、近年は修士を取得した学生が研究者よりも省庁やメーカーなど世界基準の民間企業で「実務者」として活躍していますので、これまで不足していた「現実(=実務)への対応」を踏まえた教育プログラムが不可欠です。

国内外のグローバルな競争を生き抜くには「国際的に通用する学位」がアドバンテージとなることから、本学ではダブルディグリー・プログラム(日本の大学に在籍しながら、協定を取り交わした海外の大学に留学することで、両方の学位を取れる制度)の拡充を進めています。多くの留学生が集い英語での授業が豊富な国際日本学部のほか、本年度から言語文化学部の一部の専攻でもスタートしました。さらに国際社会学部でも準備を進めており、全学部での拡充を図っていきます。

「学士+修士」5年一貫教育を実現
社会との結びつきを意識した学びへ

人生100年時代を迎え、今後のキャリア生活が長くなるのは避けられません。その間に自分の仕事を変えたり、刻々と変化する社会への対応も生涯続くと予想されます。

これまで日本の人文系大学院は「大学の教員養成」が基本でしたが、実際に大学教員の職に就く人はその一部。従来の純学問だけではなく、これからの大学教育は「社会との結びつきを持って、その中でどう生きるのか」「学びが人生にどう活きるのか」という、発想や視点の転換が必要なマインドリセットの時期が来たと感じています。学士人材が世界的に増える中で、これからの若者は広い視野を持って、どんな時代にも柔軟に対応できる新たな力が不可欠です。大学でトレーニングとしての学びの期間を長く持って柔軟な思考を試す、学士と修士の両方を取得する意義はこの点にもあります。とはいえ日本企業からは、人手不足による若年層の就職を早く待ち望んでいる事情を考慮して、本学では「大学院先取り履修制度」(博士前期課程30単位のうち履修可能な10単位を上限として学部4年次で履修できる制度。翌年に残りの授業を履修し修士論文を提出して修士号を取得できる。詳細は左下図内のQRコードから大学ウェブサイト参照)をフル活用し、学士と修士の6年を5年で取得できるように制度を整えています。

また18歳から24歳前後という、年齢層が均質化した日本の大学は、世界的にも珍しい学修環境です。多文化共生社会を実践する本学では、留学生な ど“国籍の多様性”だけでなく、社会人を経て大学院に復学する年長者の存在が“経験の多様性”として教育現場で生かされており、若年層の学生の視野や世界観を広げる相乗効果を発揮しています。

都内4国立大学の連携法人「FLIP」始動へ
「尖った専門性」を共有し柔軟な思考を身につける

本年7月、本学と東京科学大学、一橋大学、お茶の水女子大学は「四大学未来共創連合」(FLIP)を結成しました。FLIPには、コインなどをひっくり返すという意味があり、この名称にはイノベーションで【ゲームチェンジャー】になるという大胆な意気込みが込められています。四大学の学長は「これからの時代、専門性だけでは足りない」という共通認識のもと、まずは教育の連携からスタートする予定です。たとえば東京外大生が東京科学大の工学の授業や、お茶の水女子大の生活科学の授業を受講することで教育の幅の広がり、広い視野と柔軟な思考を身に付けられるのではと期待しています。四大学は各々が“尖った専門性”を有しますが、これからは長年培った専門性を“共有”することで「尖りのある幅広さ」を強みとし、各学生がしなやかな視野と思考を持った社会のリーダーとして成長してくれることを願っています。

人文系も大学院教育がデフォルトの時代を見据え
高校までは文系理系の隔てなく学んでほしい

工学系は大学院まで進むことがデフォルトになりつつありますが、人口が減っても「知の総和」を変えないため、人文系も大学院への進学が自然になるだろうと予想しています。今は受験対策から高校生の前半で「文系」「理系」に分けてしまう傾向にありますが、高校3年生までは柔軟性をもって幅広く学んでほしいと思っています。その理由は、大学入学後はもっと幅広い学びが待っているからです。本学学生の70%以上が在学中に海外留学を経験し、広い世界を自分の目で確かめて、人や文化に触れる機会を持ちます。また先述の「FLIP」では工学や医学、生活科学などこれまで以上に幅広い学問が待っているので、高校生のうちは苦手を作らず、専門も決めずに勉強してもらいたいです。

さらに高校生は「自分たちで未来を創るんだ!」という意識を持ち、視野を広げて世界を切り拓こうと考える人に本学を目指してほしいです。