探究学習特集受賞者インタビュー①
“勉強の苦しさ”から“まなぶ楽しさ”へ
ワクワクいっぱいの学習ツールでモチベーションアップを目指す~金沢大学人間社会学域学校教育学類附属高等学校~
大学Times Vol.58(2025年11月発行)

中高生の探究学習の成果を企業団体が評価する『自由すぎる研究ⓇEXPO2025』(主催:株式会社トモノカイ)。応募総数8352件の中から最終審査結果が決まり、金賞(さんぽう賞)に金沢大学附属高等学校「『まなぶわくわく』を届けるボードゲーム『TIMELESS』」の喜多輝さんを選出した。“社会科を楽しくまなぶ”ことを追究したアナログゲームを製作、実証実験と改善を重ね、商品化まであと一歩だという。コロナ禍を経て、「対面」や「アナログ」の魅力を実感しつつ、学習ツールとしての可能性をご本人に熱く語ってもらった。

金沢大学附属高等学校 2年
喜多 輝(きた ひかる) さん
学ぶ楽しさを教えてくれた世界遺産
教育ツールとしてボードゲームを考案
僕がこのテーマを取り上げたきっかけは、もともと社会科など暗記の勉強が嫌いだったことと、コロナ禍で“三密生活”を強いられて、「世界は広いのに、田舎の一軒家に閉じこもっていないといけないのか」と自分の置かれた状況に疑問を持ったことからです。そんな毎日で出会ったのが、日常の真逆にあった「世界遺産」でした。世界遺産検定に合格したあばれる君(タレント)の番組を目にしたり、同じタイミングで父が買ってくれた世界遺産の図鑑をみたりしました。するとそこで日本にはないたくさんの信じ難いような美しい光景と出会うことができました。グレートバリア・リーフやベネチア、タージマハルなどの写真に、心から感動しました。その時「学ぶ感動」や「学ぶ楽しさ」を知って、社会科が楽しくなったんです。
高校受験では、数学や理科は得意な周りの友達でも、社会科には苦しんでいました。「なんでやらなきゃいけないんだよ」って。そこで、「社会科が嫌われないようにすること」や「勉強嫌いな子どもたちの今の苦しみを無くし、選択肢を広げることで将来を明るくすること」をめざして、オリジナルのボードゲームを考案しました。
iPadの画面だけ見るゲームではなく
コミュニケーションを取る学習ツールとして設計
「ゲーム」といえばデジタルのゲームの方がなじみ深い今日、僕がボードゲームというアナログのゲームを選択した理由は、他に競合がいない上に、小さいときから紙に絵を描いて新しい遊びを考えるのが好きだった自分の『らしさ』を出せると思ったからです。
また、ゲームを行う際の、「顔を合わせてのコミュニケーション」には非常に強いこだわりがあります。せっかく授業で運用されて「よし、今日はゲームするよ!」という状況になっても、皆がiPadの画面だけを見るのでは、ゲーム中に会話が生まれなくて寂しいですよね。せっかくなら会話が生まれてみんながより仲良くなれるようなツールとして働いてほしいと考えています。そして、会話を生むことにより、他者の考えていることを読み取ったり、自分の気づきを分かりやすく共有したりする非認知能力を培うことも目標とし、あえてアナログにこだわりました。
自分の考えを多くの人に伝えたい
プレゼンのための“話し方”を工夫
探究学習のコンテストだけでなく、ビジネスコンテストにも応募しました。「教育を楽しく」を軸に持って、勉強そのものの視点を変えるような考えをプレゼンしています。これまで、年間で10ステージ以上は挑戦しましたが、今回のボードゲームのように、自分の考えや思いを形にできたことで、周囲の見る目が変わったような実感があります。他の人のプレゼンを聞くときは、クリティカルシンギング的に見て、良い部分はもちろん、改善の余地がある部分とその改善策を考えることを意識しました。そのほか一対一の会話では、相手に合わせた“オーダーメイドの喋り方”を自分の中で考えています。心理学のミラーリングと呼ばれる、相手が使った表現を一部そのまま繰り返す手法を用いてみたり、相手のテンポ感や相手の癖を自分の本来の話し方と足して2で割ったような喋り方を見つけて、相手が心地よいなと感じるようなテンポ感で話したりといったことを心がけています。不特定多数に向けたプレゼン動画では、自分にできる最大限のハキハキした話し方を意識しました。
試作品のテストプレイを重ねて改善
「まなぶ」と「楽しさ」のバランス重視
これまでに、小学校3年生から中高年の方まで延べ250人程の方にプレイしていただきました。自分の母校である金大附属中学校や、先進的な取組みをしている私立の幼小中一貫校にゲスト講師として呼んでいただき、ボードゲームを使った授業を1時間、2時間組み立てることもありました。ボードゲームのイベントも主催しています。
現在は改善作業の途中です。教育とゲームの両立は難しく、従来の教材と同等以上に教育効果が見込め、なお且つ面白くて、やっと“教育ボードゲーム”の土俵に立てるのです。両立しないと商品として買ってもらえないので、「学ぶ」教育要素とゲームとしての「楽しさ」のバランスに力を入れています。
もう一段階のアップデートとして、用途に応じて2パターンのゲームを作成する構想があります。1つ目が、学校向けの、非認知能力の育成や教科書に準拠した学習内容に重点を置いた「TIME LESS-Education-」、2つ目が、家庭や友達同士で繰り返し遊ぶことを想定し、より戦略性とゲーム性を高めた「TIME LESS-Tactics-」です。これら2種類それぞれが興味関心への相乗効果を生むような設計を目指しています。
ゲーム製作を体験して個々の成長を促し
地域版など汎用性の高さも期待
さらに、将来的には、ボードゲームを「作る」ことで学ぶ新しい形の教材、「TIME LESS-Lab-」の開発も視野に入れています。ゲーム製作を通じて、僕自身がすごく成長したなという実感がありました。製作中は「どうしたら他のみんなが楽しく学べるか」や、「どういう説明をしたらより子どもたちに伝わるのか」を考えたので、この体験を子どもたちもできるなら、新たな価値が生まれると思い立ちました。このゲームは世界遺産をテーマにしていますが、目的にあわせて「国宝」「博物館」「地域の老舗」など、様々なテーマでゲームを作成することが可能です。すでに「金沢市版つくってほしいな」「渋谷区版があったら嬉しいな」というようなお声をいただいています。たとえば金沢だったら二十一世紀美術館や金沢城など、子どもたち自身が調べる対象を決め、それらを形作る人物や歴史背景を考えるといった具合です。そしてそれを人にわかりやすく説明し、ボードゲームのカードにするという形式です。小学校の地域学習や中学校の総合学習として一年間、半年間など長期単位で取り組める教材を目指して製作しています。

大人たちに本気を伝えて協力を仰ぎ
主体的に「まなぶ」ツール開発を目標に
後輩に向けて伝えたいのは、「子どもだからこそやるんだよ」ということです。僕が今やっていることは、高校生という若さだからこそ社会にメッセージとして届けられるし、それが探究学習の良さだと思います。子どもだから小さいことでも「やってみる」、そのモチベーションが大事。世の中には優しい大人が確実にいて、困ったときに意外と助けてくれるんです。場所だけでなく「ボードゲームのノウハウ貸すよ」とか、今回は温かい大人に山ほど出会えたので、情熱を持って本気でやっていることを伝えて、子どもだからこそ「社会に一石を投じてやる」みたいな意気込みで動けば、すごくいい探究の成果が広がるのではないかなと思います。
僕の人生を通してやりたいのは「勉強をまなびに変えること」です。子どもたちが勉強の報酬性にばかり焦点を当てるのではなくてプロセスそのものを楽しめるような世の中に変革させていきたいです。そして「辛く苦しい勉強を耐え忍んで頑張ることが美徳で、それができる人がすごい」という風潮を根本から覆していきたいと考えています。僕は、強要されて嫌々取り組むものを「勉強」と、自らの成長を実感しながらわくわくして主体的に取り組むものを「まなび」と定義しています。そして、「まなび」が溢れる世の中を創造するのが僕の夢です。そのための一歩としては、時代のニーズや技術に合わせて、子どもたちの学習が「まなび」に向かうツールやサービスを開発する企業を起こすのが目標です。大学では教育方法学などを具体的に学びつつ、同時進行でマーケティングや経営学も学んでいきたいです。

