【食物・栄養系大学特集】食物・栄養業界の変化に伴う管理栄養士に求められる資質|大学Times

【食物・栄養系大学特集】食物・栄養業界の変化に伴う管理栄養士に求められる資質

これまでの栄養学は傷病者に対して回復を促すイメージが強かったが、病気にかかる前に身体を健全に保つ予防など、健康と成長に関わる分野として注目が集まっている。このように業界が変化を続けるなかで求められる管理栄養士像も変化するため、養成施設の現状に迫った。

食品業界を取り巻く現在の動向

現在、食品業界が注目しているのは、高齢者と子どもです。まず、高齢者ですが、高齢者に向けた食品の開発や、消費の活性化といったところに力を入れています。もっとも重要としているのが、「予防」です。健康でなければ消費は進みません。基本的には病気にならない、介護を受ける状態にならない、病気になってもその重症化を防ぐといった対策に業界全体が力を入れています。

子どもも高齢者と同じです。ロコモティブシンドローム(運動器の衰えや障害により、要介護になるリスクが高くなること)にならないよう子どもの頃から、望ましい食習慣を形成しつつ、しっかりと運動して筋力をつける必要があります。そのためにも、子どもの健康と成長に関わる食育に対しても注目が集まっています。

どのような管理栄養士を目指すのか
明確なビジョンが大切

そもそも学生たちが管理栄養士や栄養士の存在を何で知るのか聞いてみると、やはり多いのは学校給食の体験です。そこでの給食が美味しかった、楽しかったという体験から給食を作ってくれた管理栄養士と同じ仕事がしたいと思う学生がいます。そのほか、学生の身近な方が病気で入院していた時に、食事のケアをしてくれたのが管理栄養士だと知り、同じ資格を取りたいと思う学生もいます。

管理栄養士を目指す学生には、最近は文系からの志願者も増えてきています。入学時、化学や生物の基礎が分かっている理系出身者の方が授業に入りやすいですが、カリキュラムが進んでいくうちに栄養教育や栄養指導には文章力や読解力、表現力が必要となってきます。つまり、管理栄養士になるには、文系と理系、どちらの力も必要ということなのです。

もちろん、管理栄養士を目指す学生の文系・理系の割合は、各学校の入試科目や、どこの学部に管理栄養士養成の学科があるかで変わることもあると思います。私は高校生への説明会の時に、「学部を見るのは大事なこと」と必ず言っています。どのような学問体系の中で、管理栄養士を養成しようとしているのかが分かりますので、すごく大事です。例えば農学部系大学の場合は食物学に力を入れていますし、工学部の大学の場合は、厨房の仕組みなども深く学べます。同じ管理栄養士養成でも学校ごとに教育の流れは異なります。

高校生や先生方にも、どのようなことがその学校で学べるのか、どのような特色の教育を行っているのかを、まずきちんと知っていただきたいと思います。また、管理栄養士を目指す高校生には、資格を取得することだけがゴールではなく、それを活かして将来どうしていきたいのかをじっくりと考えてもらいたいです。

入学してからの四年間で
学生が学び得るもの

栄養に関わる学びは多岐にわたります。一般的な例をご紹介しましょう。 まず、管理栄養士を目指すうえで基礎となる科目には、理化学や生物学、人体の構造と機能及び疾病の成り立ち、食べ物と健康、社会環境と健康などの分野があります。

ここでは、食品学や調理学などはもちろん、生物や化学をはじめ、解剖学や生理学などのような理系の科目、保健・医療・福祉・運動などについてのさまざまな科目を学び、栄養や健康についての理解を深めます。理系科目を不得手と感じる学生は、入学前後の学習のフォローが各大学できめ細かく行われているかどうかもチェックするといいでしょう。

さらに専門科目として、基礎栄養学、応用栄養学、公衆栄養学、臨床栄養学、給食経営管理論や栄養教育論などの分野に展開していきます。実験や実習もあり、準備やレポートが重視されるのも学びの特徴です。繰り返しになりますが、読む・書く・話す・調べるといったアカデミックスキル、コミュニケーションスキルや情報・統計の能力も大切です。

臨地実習は、保健所や保健センター、病院・福祉施設、学校・保育園など、実際に管理栄養士が働いている現場に学生たちが赴き、仕事を体験します。仕事を体験することで、学生たちの顔つきも変わってきます。これまで学んだことが実際の現場においてどのように活かせるのかを知り、「私も管理栄養士になりたい」という気持ちがより強くなっていくようです。

大学によって、4年間の学びを統合するための、演習やゼミを行っている例も見られます。基礎科目と専門科目、各科目同士は密接な関連を持っており、そのことを理解していないと管理栄養士として現場で十分に力を発揮することができないためです。また、臨地実習で初めて現場に触れる学生に対しては、きめ細かいフォローが必要です。どれだけ教員と学生、教員同士が密なコミュニケーションをとっているかということも、大学選びのポイントとなるでしょう。

管理栄養士国家試験の受験対策も各大学がさまざまな取り組みをしています。学部・学科での位置づけなどにより国家試験へのスタンスは異なると思いますが、やはり大きな要素の一つは学生自身のモチベーションでしょう。資格をとりたいという強い気持ちです。カリキュラムは栄養士・管理栄養士養成の指定科目を備えていることはもちろん、体系的かつ実践的な知識やスキルが身につくように編成されていますので、まずは日々の学習に真摯に取り組むことが大切なのは言うまでもありません。

栄養学を学ぶ学生の特徴と志望する高校生へのアドバイス

やはり、管理栄養士の資格を取得したいという目的意識が高く、また医療・福祉分野のような管理栄養士しかできない仕事に限定して進路を考えている学生が見られることが特徴に挙げられるでしょう。ただ、その反面、アドバイスしておきたいこともあります。まず、栄養学とはどのような勉強をするのか理解したうえで志望してほしいと思います。非常に専門性の高い勉強であり、理系科目や実験・実習もあります。単に食の仕事への憧れだけで選んで、入学してからイメージが違っていたということになると残念です。それに加えていえるのは、後にも触れますが、フードコーディネーターなど、活躍の場は広がっています。いろいろな分野に積極的に挑戦してほしいと思いますし、進路選択にあたっては広い視野をもって職業について調べてほしいと思います。

食に携わる仕事は、人の生命や健康に関わる重い責任を担っています。例えば、女子栄養大学では給食管理実習という授業があり、200人分くらいの大量の料理を学生たちが作り、お客様に提供するものです。メニューの決定、材料の注文、調理、後片付けなど一連の作業を全て学生たちが行うことになっています。調理だけを行うのではありません。事前準備、片付けなどを体験することで、管理栄養士の仕事の全体像を把握することはもちろん、自ずとマナーや責任感、ひいては食に携わる者としての自覚が養われていくのです。どの分野の学びにも共通することですが、物事に地道に取り組む姿勢は不可欠です。また、医療や福祉などの分野では、専門職がチームを組んでケアにあたりますので他者と良好な関係を築く、協力して物事にあたるといったような社会人基礎力の養成も授業や実習で力を入れていることの一つです。

そして、高校で学ぶ科目をバランスよく学習してほしいと思います。大学では、当然、経済学や社会学、文化や心理学、外国語、そのほかの自然科学についても学ぶ機会があります。栄養学だけを学ぶということではありません。高校での学習はそれらの学問の基礎となります。昨年「和食:日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録されました。語学や異文化などについて学び、諸外国の食文化を比較したり、和食の魅力を世界に本やインターネットを通して発信したりすることもとても意義あることでしょう。グローバル化は分野を問わずますます進んでいきますから、さまざまな分野での活躍を期待しています。

社会事情に応じて変化する就職事情

昨今、栄養士や管理栄養士の資格を持つ学生の就職先として増えているのが、高齢者施設や保育園などです。

保育園には、栄養士らを配置する法的義務は無いのですが、アレルギーを持つ子どもへの対応のためにも配置しなければならないといった認識が高まっているためと思われます。

今後求人が増えていくと考えられるのが、高齢者向けの介護食や宅配食サービス業です。外食産業やコンビニエンスストアなど販売・流通の業界等さまざまなところで宅配食が始まっています。独居高齢者や二人暮らしの高齢者など、それぞれの住居環境に合わせたサイズや種類の宅配食を販売するといった形で、各企業が独自に開発を進めていると思われます。

また、栄養教諭は10年ほど前から始まった制度です。食に関する指導(学校における食育)の推進に中核的な役割を担う存在として期待されています。朝食をとらない子どもたちが見られ食生活の乱れが指摘されているなかで、子どもが将来にわたって健康に生活していけるよう、栄養や食事のとり方などについて正しい知識に基づいて自ら判断し、食をコントロールしていく「食の自己管理能力」や「望ましい食習慣」を子どもたちに身につけさせる必要性が高まっていることが背景にあります。

このように食が重視される一方で、もちろん楽しみとしての側面もあります。食の商品企画、レストランなどのプロデュース、セールスプロモーションやメディアによる情報発信など、管理栄養士としての専門性を活かしながら多彩な場面で活躍しています。食に対する関心は世代を問わずますます高まっています。食に関わる仕事は私たちの暮らしをより豊かなものにしてくれるはずです。

今あらためて食を学ぶ意味

食品業界では「中食」という言葉がよく使われるようになりました。外食と手づくりの料理を家庭で食べる内食との中間的存在として、惣菜や持ち帰り弁当などが中食にあたります。核家族化や単身者の増加などの影響もあるでしょう。

つまり、人が物を食べるということが外部化してしまっている時代といえます。家で調理をせずに、他者に食事作りを依存する傾向が強まっており、逆に考えるときちんと調理ができる人を育てていくことがむずかしい状況になってきているのです。

いまは、調理のできない人が増えてきており、学校給食で初めてサンマを一尾で食べたという子どもや、二十歳過ぎて初めてひじきを食べたという若者もいると聞きます。また食品開発の現場でも若い社員が味が分からず困っているという話も耳にするほどです。

だからこそ、学校の給食などで食を体験させないと、調理や食べ方さえ分からないままなのです。安全で美味しい弁当をつくり届けるには、やはりきちんと調理や料理のことを分かっていないと出来ないと思います。

しっかりと料理がつくれる力をつけないと、食の仕事をしていく中では役に立ちません。オーソドックスな調理法から効率的な調理法まで学び、きちんと調理の出来る人を育成させることは、栄養教育の使命だと思っています。

栄養教育とは、子どもから高齢者までどのステージの人たちに対しても、栄養支援・栄養管理ができる力を身につけさせるものです。また、病気や体についてなどさまざまな領域を学びますが、本来の栄養教育もいっそう重視していくことが必要です。原点に帰り、食べ物を理解し、患者さんや子どもたちなどさまざまなライフステージの人にどうすれば食べてもらえるかを考えることこそが大切なのです。大学ではこうした社会的要請に応えたカリキュラムの検討もいっそう進んでいくでしょう。そこでは、温かい思いやりの心も培われることでしょう。自分の夢や目指す職業に誇りを持ち、高い意欲をもって学び続けることができる受験生に期待します。

石田裕美氏

【プロフィール】

女子栄養大学栄養学部実践栄養学科 学科長 教授 石田裕美(石田ひろみ)

昭和58年3月女子栄養大学栄養学部栄養学科実践栄養学専攻卒業、平成4年3月女子栄養大学大学院栄養学研究科栄養学専攻博士後期課程修了。昭和60年4月より女子栄養大学助手を務め、平成21年1月実践栄養学科長に就任。専門は栄養管理学、給食経営管理学。主な著書に「給食経営管理論」共著(南江堂)、「食事調査マニュアル」共著(南山堂)、「特定給食施設における栄養管理の高度化ガイド・事例集」共著(第一出版)