定員厳格化時代の併願校選択基準 講演報告|大学Times

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大学Times Vol.33(2019年7月発行)

定員厳格化時代の併願校選択基準

私立大学の【定員厳格化】が実施されて3年が経過し、その影響が首都圏大学の合否判定に及んでいる。模擬試験と一般入試の結果に差異が生じ、受験生は本来合格する学力の大学でも不合格になる一方、都内主要大学でも3月末の「繰り上げ合格」が相次ぐなどの混乱が生じているという。保護者や受験生の安全志向から併願校選びが難しくなる中、どのように入試対策を行うべきなのだろうか。5月17日に催された「大学タイムズ読者セミナー2019」での大学通信・安田賢治氏の基調講演と、成蹊大学、東京農業大学、明治大学、中央大学の各入試担当者の結果報告から探ってみたい。

定員超過の大都市圏と定員割れの地方
双方抑制が目的の【定員厳格化】

2014年度、私立大学の入学定員は約45,000人超過していた。うち8割が三大都市圏の私立大学に集中。一方で地方の私立大学は定員割れを起こしており、学生の東京一極集中が加速した。文部科学省は2016年度から、入学定員を超過した私立大学に対する「私立大学等経常費補助金」の配分基準を厳格化。安倍内閣が推進する地方創生の観点からも、大都市圏の私立大学ばかりに学生が偏るのを防ぐ狙いもあった。入学定員充足率(別表1)を超えると、各大学は国からの補助金を受け取れなくなる。

浪人できない高3生
現役入学めざして併願校が増加

(株)大学通信 常務取締役 安田賢治氏は、基調講演で次のように述べている。
「今年の私立大一般入試の志願者(延べ人数)は、この3年間で5〜8%増加しています。主な理由は二つあり、@定員の厳格化で合格者が減って難しくなり、難関校を敬遠して入りやすい大学が狙われたことで、志願者が大きく増えたことA来年はセンター試験最後の入試となり、今年以上の安全志向が予想されて合格がさらに厳しくなるため、今年中の合格をめざしたと分析しています。

現役入学・安全志向の受験傾向が進み、昨年夏、実際に【併願校を増やすよう指導した】と回答した進学校の進路指導教諭が最も多い(59.3%)アンケート結果(別表2)のとおりとなりました。センター試験利用入試が前年比で10%増えたことも、併願校を増やした結果として表れています。さらに、センター試験が今年度で最後のため、現在の高校3年生も「浪人ができない」という認識を持っています。よって、現役入学をめざして安全志向がさらに強まるのではないかと予測しています」

一般入試が難しくなった一因は
指定校推薦の入学者増

「2月からの一般入試だけでなく、今年は推薦入試・AO入試での入学者が増えました。これは私立大学の定員厳格化の影響です。AO入試はこの10年で18歳人口が4.8%減少したのに対し、入学者は約15,000人増加しています。また「指定校推薦」入学の希望者も多くなり、レベルの高い高校から応募があったために大学としても不合格にできず、例年より多い入学者となりました。その分、一般入試の募集枠を狭め、結果として一般入試が厳しくなり、例年ならば合格していた学力層が不合格になりました。高校からも不満の声があがっています。

しかし、指定校推薦を利用すれば必ず合格できるわけではありません。「親が受けろと言った」「先生が行けと言った」といった消極的な志望理由や、部活動等の経験もなく「スポーツ推薦」枠を利用するケースは不合格となります。また文系クラスの生徒が工業系学部の指定校推薦で入学したものの、その後の勉強についていけない事例など、安全志向を優先させた保護者の一存で、無理やり入れてしまうのは問題です。各大学では来年度、安易な指定校推薦入試を避けるべく、希望者の評定平均値を上げたり、別の出願資格を設けるなどの対策をたてています。また文部科学省も推薦・AO入試に学力考査を求めています」

進学上位校のランク落とし受験と
3月末の「追加合格」でさらに混乱

「一般入試の合格者数を絞ったことで不合格となった受験生は、気持ちを切り替えて第二志望で合格した大学へ入学手続をしますが、反面、今年も「繰り上げ合格」が多く見られました。問題なのはその発表方法で、候補者を合格者発表と同時に発表し、期待を持たせて不合格の場合も多く、その一方で3月末ごろいきなり「追加合格」を電話連絡で出す傾向が強まっています。先に納めた大学の入学金は返還されませんので、第一志望校に行くか諦めるか、受験生や保護者にとってもハッピーでない事態が相次いでいるのです。

「浪人はできない」と、進学上位校の高校生が軒並みランクを落として受験しているので、定員厳格化による「現役入学志向」と4月の入学式直前までの追加合格の影響はさらに続くでしょう」

近年の大学入試のトレンドは、就職を考えながら大学・学部を選ぶ傾向があり、上位大学は就職先企業を、他大学は就職率が志望校選びに影響しているという。大学で何を学ぶかを決めての受験が主流になり、1大学にこだわったり「記念受験」は激減、チャレンジ受験もせず現役・安全志向と地元志向が強い。地元志向が最も強いのは東京で、地方は国公立大学にその傾向が表れている。

2021年新テスト初年度は国公立敬遠か
理系人気復活の兆しも

入学定員の厳格化によって上位大学では合格者の絞り込みが進み、現役進学をめざす受験生が「入りやすい大学」に入学したことで、私立大学の定員割れはピークだった2014年の45.8%から2018年は36.1%まで改善した(日本私立学校振興・共済事業団データ)。加えて、今後10年間は東京23区内の大学の定員増を不可としており、学部新設でも定員の中で調整せざるを得ない。さらにセンター試験が2020年1月で終わり、翌年の「大学入学共通テスト」初年度は浪人生が少ないものの過去問がないために安全志向が強まり、国公立大学離れも懸念されている。

「私立では2015年からの「文高理低」人気に異変が起こり、今年は理工系学部が巻き返しました。AI時代が到来し、データサイエンティストの需要に受験生が対応しているのかもしれません。さらに2020年以降の景気動向によっては不況に強い理系、医療系学部の人気が復活し、文系が冬の時代を迎える可能性もあります。今後は少子化がますます進み、大学の学生募集は厳しくなります。“量”(学生数)を求める大学と、“質”(学生の能力など)を求める大学の二極化が進むのではないかとみています」

安田氏は最後に、「今後の志望校選びは、入れる大学から入りたい大学へ」の転換をアドバイスして講演を締めくくった。定員厳格化のねらいは、私立大学の国からの補助金の配分是正だが、そのことで多くの受験生が不安に陥り、結果として「入りたい大学に入れない」事態を招いていては、本末転倒である。

同じ東京の主要大学でも、2019年度の入試結果には各々の違いが生じている。志望校を検討するうえで貴重な情報にもなりそうだ。2,3面の成蹊、東京農業、明治、中央の各大学担当者による入試結果報告をぜひお読みいただきたい。