素材から生地をデザインする「テキスタイルデザイン」が途上国の経済的自立支援を実現する糸口に|大学Times

素材から生地をデザインする「テキスタイルデザイン」が途上国の経済的自立支援を実現する糸口に これからの日本を変えるこの分野 多摩美術大学 美術学部生産デザイン学科 テキスタイルデザイン専攻

バナナ生産国が密集する北緯30度から南緯30度の赤道付近は、「バナナベルト地帯」と呼ばれている。今、この地帯にある多くの開発途上国から、日本の美術大学が推進するプロジェクトに大きな期待が寄せられている。年間18億トンも廃棄されるバナナの茎(偽茎)を、途上国の経済的自立的支援を支える手段として有効利用する「バナナ・テキスタイル・プロジェクト」。
この、美術分野から発信された途上国支援のあり方に、世界が注目している。

現在の素材と技術で工芸品をつくる美大ならではの途上国支援

新たなる素材“バナナ繊維“との出会い

草木などの素材から抽出した繊維を、糸にする工程のことを"紡績"という。"紡" は "つむぐ"、"績" は "うむ"と読む。多摩美術大学の橋本京子教授が研究テーマとしている「テキスタイルデザイン」とは、この糸を紡ぐ前段階??繊維をファッションやインテリア、建築など、様々な分野に取り入れた幅広いデザイン活動を指す。橋本教授は染織の研究をする傍ら、テキスタイルデザイナーとしてギャラリーのファーサート(外観・外装)デザインやタピストリー作品などを手掛けている。

ある日、橋本教授は知人の紙漉きデザイナーから、バナナ繊維の話を聞く。エクアドル大使から「収穫後に廃棄されるバナナの茎(偽茎)から紙を作れないか?」という相談を受けているというのだ。「もし、紙を作れるのなら布も作れるはず」と、新たなる素材に興味を持ちバナナ繊維を譲ってもらった橋本教授だったが、その思いは失望に変わった。「こんな固いもので、何が作れるのだろうか・・・」。バナナの繊維は、予想以上に固かった。

ハイチ大使からの思いもよらぬアプローチ

一度はバナナ繊維をあきらめかけた橋本教授だったが、日本における布・繊維の歴史から、バナナ繊維利用の可能性を見出した。日本人は過去に、堅いシナやフジの木を原料に、織物を作りだしてきた。「薬品や電気・ガスもない時代に、火を焚きながら多少でも柔らかくできないかと工夫し、繊維を抽出したのです」。橋本教授はそういった先人達の知恵を使い、バナナ繊維を原料とした生地を作りだした。そして、テキスタイルデザイナーとして、生地の活用方法を思案していた教授の所に、たまたまこの生地を見たハイチ大使から思いもよらぬ提案がされた。「これでコーヒー豆を入れる袋を作れませんか?」。

ハイチはコーヒー豆の生産国であるが、豆を入れる袋は輸入に頼っている。バナナ繊維から袋を作ることができれば、バナナ生産国でもあるハイチは、袋の原料調達から生産までを国内で賄えるようになる。当初は固すぎて布の素材に適さないと思われたバナナ繊維が、環境にも配慮した有効的な途上国支援のための原料となることが分かった。

学生たちと共同でデザイン・技術指導を実施

ハイチ大使との交流をきっかけに、2000年には、橋本教授をプロジェクトリーダーとする「バナナ・テキスタイル・プロジェクト」が発足。バナナ生産国を中心とした開発途上国に対して、バナナ繊維という未利用資源とテキスタイルデザインとを融合させた、国際貢献・交流活動へと乗り出した。2006年には、文部科学省の現代GPに採択され、大学にPBL科目を開講。実際に開発途上国へと赴き、バナナ織布製品製作のためのデザイン・技術指導を実施することを授業課題に取り入れた。

その取り組みの一つが、独立行政法人国際協力機構(JICA)が進める、ラオス人民民主共和国における「一村一品プロジェクト」への製作指導だ。同機構から依頼を受けた橋本教授は、2010年にはじめて、ラオス南方に位置するホアイフンタイ村に赴いた。同村には後帯機(こうたいばた)と呼ばれる機織機で民族衣装を作る伝統があり、村の周辺にはバナナが生育していた。彼らの持つ機織りの技術とバナナ繊維、それにテキスタイルデザインの手法を融合させて、村人たちが自身の手で村独自の伝統工芸品を作りだせるようにすること。そして、生産管理・販売までを彼ら自身で行えるように支援すること。これらを最終的な目標に、橋本教授は現地での活動を開始した。

現地での指導でまず驚いたことは、彼らはメジャーを使用しない、知らないということだった。「彼らには伝統衣装を作る高い技術はありましたが、同じクオリティの製品を繰り返し生産する技術はありませんでした」。そこで、バナナ繊維を用いたエコバックの開発を提案。学生たちと村を訪れ、技術訓練とフォローアップに努めた。「訪れるたびに彼らの技術は向上していました」。これは、村人たちが教授や学生たちがいない間も、必死に練習をした成果だと言える。こういった姿勢が自立への第一歩に繋がると橋本教授は嬉しそうに語った。

世界に伝播したバナナ・テキスタイル・プロジェクト

このプロジェクトはラオス国内だけでなく、世界の国々から注目を集めている。ウガンダ、ルワンダ、ドミニカなどの国々で、プロジェクトの取組みが続けられている。「芸術は豊かさの上に成り立つ」。そう考える人もいるかもしれないが、橋本教授のテキスタイルデザインは、開発途上国の人々に経済的な自立支援のきっかけをもたらしたばかりでなく、支援の新しい在り方を示している。

今後の活動予定を橋本教授に尋ねると「若い世代が望む限り、このプロジェクトは続けます」と明快かつ揺るぎない笑顔でこたえた。芸術家として、教育者として、そして支援者として、橋本教授の活動はまだまだ続くようだ。

橋本京子教授

【プロフィール】

橋本京子(はしもときょうこ)

多摩美術大学 美術学部 生産デザイン学科 テキスタイルデザイン専攻
教授