食物・栄養学系特集スペシャルインタビュー
世界一をめざして「勝つための」コンディショニングをサポートする~ハイパフォーマンススポーツセンター(HPSC)~
大学Times Vol.56(2025年4月発行)
アスリートの体調を維持向上させる「スポーツ栄養」が今、注目されている。運動系部活動の高校生も「勝つためには日々の食事が大事」と関心を寄せているようだ。実際に、栄養系大学でも「スポーツ栄養を学びたい」学生が増えているという声を聞くが、卒業後、スポーツの現場ではどのように活かされているのだろうか。今回は日本のトップアスリートをトータルサポートする国の機関、ハイパフォーマンススポーツセンター/国立スポーツ科学センターの管理栄養士・亀井明子氏に、公認スポーツ栄養士としての仕事や、今後のトップチームに求められる専門人材について伺った。

ハイパフォーマンススポーツセンター
国立スポーツ科学センター
スポーツ医学研究部門 栄養グループ
副主任研究員 亀井 明子(かめい あきこ)
博士(栄養学) 管理栄養士/公認スポーツ栄養士
【ハイパフォーマンススポーツセンター(HPSC)について】
ハイパフォーマンススポーツセンター(HPSC)は、オリンピック競技とパラリンピック競技を一体的に捉え、国立スポーツ科学センター(JISS)とナショナルトレーニングセンター(NTC)が持つスポーツ医・科学、情報等による研究、支援及び高度な科学的トレーニング環境を提供し、ハイパフォーマンススポーツの強化に貢献しています。
21世紀とともに進歩した
「トータルコンディショニング」の活動と公認スポーツ栄養士の誕生
「スポーツ栄養」というキーワードは、1980~90年代ごろから耳にし始めたと記憶しています。2000年に「アスリートのための栄養・食事ガイド」(日本スポーツ協会監修)を共同執筆しましたが、当時はアスリートの情報をもとに「食事を具現化すること」を重要視していました。2001年に国立スポーツ科学センター(JISS)が発足し、2008年開所のナショナルトレーニングセンター(NTC)とともに、この20年あまりでアスリートサポートの強化によってさまざまなエビデンスが集積され、栄養面だけでなく医療やトレーニング、メンタルなど多分野が連携して代表選手をサポートする体制「トータルコンディショニング」(下図参照)が整備されました。私は2007年に入職しましたが、かねてより「スポーツ栄養研究会」のメンバーとして活動し、管理栄養士がスポーツ栄養の専門家として実績を積み認定される資格「公認スポーツ栄養士」の立ち上げにも参画、2008年に第1号の公認スポーツ栄養士に認定されています。当時から今日に至るまで、国際大会で選手の活躍が見られているのは、多分野が連携してトップアスリートをサポートする「トータルコンディショニング」の成果とみています。
ハイパフォーマンスが進化する競技
専門家が連携してトップアスリートを支える
世界一をめざす競技は年々、高度化・高速化が進み、選手もよりハイパフォーマンスを発揮する時代となりました。競技力向上にはケガのリスクを避け、万一ケガをしても早期復帰をめざすとともに、ケガをしない体づくりが必要です。また、女子選手の妊娠・出産後をケアし、競技復帰のためのサポートも大切です。私は栄養面からサポートを行っていますが、単独での業務はなく、多分野多職種の専門家が連携して一人の選手やチームをサポートしています。
管理栄養士として土台の積み上げと
他分野理解のために研鑽を積む
トータルコンディショニングを構成する専門家はみな、各分野のエキスパートばかりです。高度な知識や技能と同時に、他分野への理解が必須となりますので、相互の情報を共有化するためにも研鑽を積んで勉強することが常に求められます。そのためには公認スポーツ栄養士である以前に、管理栄養士としての知識と技術をしっかり持って専門のスキルを磨くことが大前提となります。こうして「この人は任せられる、一緒にできる」と他分野からの信頼を得て、アスリートへの実践に繋がっていくと考えています。
人と向き合う仕事は相手を尊重し
言葉や距離感を考えて寄り添う
アスリートへのサポートは、まず「その人を知る」ことが大事です。栄養学でいう「アセスメント」(対象者の栄養状態について栄養指標を用いて客観的に評価)のように、その人の競技は何?からスタートし、いろいろな角度からヒアリングと観察のほか、測定・調査などを行います。チームサポートのときは、施設内の競技場へ足を運んでトレーニングの様子を見に行きました。どういう言葉を発しているか、水分はいつ、何をどこで摂っているか、補食はどうしているかなど、練習の向き合い方やチーム内での関係性などを常に観察していました。またチームとの“笑い合える”コミュニケーションを大事にし、その場の雰囲気や空気感を自分が入って乱さないようにする配慮も心がけました。選手たちも「何のためにこの施設に来ているのか」という目的を持って日々トレーニングを積んでいますが、私たちスポーツ栄養士も同様に、目的を自分の中で明確に持ち、日々の業務を行っています。
これからはデータの取扱いが必須
男性公認スポーツ栄養士にも期待
今はあらゆるデータを早期に入手でき、データ自体が溢れている時代です。その中から適切な情報をどのように選択して、選手にどう伝えるかが重要になっています。特にトップアスリートは、その“理由”を追求する人が多いので、説明する際のデータとその組み立て方も大事です。多分野連携でもデータを示しての説明から課題を見出し、意見交換する場面が多くなっています。特に最近の若いアスリートはリテラシーが高く、勝つため、記録を伸ばすため、ハイパフォーマンスを発揮するための知識を吸収したいという強い意欲が伝わります。
また私たちが選手に食事の提案をする際、調理提供の機会がなくても調理スキルを持っていることが伝えるときに生かされており、知識とともに調理技術の重要性を実感しています。人は自ら食べたもので自身の身体ができていますが、先日、ある金メダリストから「栄養学を勉強したい」との声を聞き、毎日の食事による体調維持や競技力の向上を自覚しているのだと感じました。
さらに最近は周囲から、男子チームの関係者が「男性のスポーツ栄養士を探している」といった話を聞くこともあり、この世界でも男性の管理栄養士の需要が高まっていると感じます。スポーツ栄養の世界で活躍するには、まずは管理栄養士としての力を付けることが最優先ですので、興味のある高校生は大学でしっかり栄養学を学んでください。

日本のトップアスリートのサポート現場では、チーム医療のような多分野連携とデータリテラシーの導入でさらなる進歩をめざしているようだ。2面からは来年春より共学化となる女子栄養大学の武見副学長、プロテインの原料「ホエイ」の活用に取り組む日本獣医生命科学大学のインタビューをご覧いただきたい。
