文科省のグローバル人材育成事業に芸術系大学で唯一採択 作品を世界に向けて発信する“国際力”を|大学Times

大学Times Vol.8(2013年3月発行)

【特集】大学のグローバル人材育成特集 語学力をベースにアクティブラーニングで世界的グローバル人材を育成する!

【インタビュー】文科省のグローバル人材育成事業に芸術系大学で唯一採択 作品を世界に向けて発信する“国際力”を

数多くのアーティスト、クリエイターたちを輩出してきた武蔵野美術大学。昨年、同大学は文科省が推進するグローバル人材育成推進事業(特色型)に、芸術系大学で唯一採択された。美術の大学とグローバル人材育成とは直接的に結びつかないように思われるが、アーティストにとってもグローバルコミュニケーションは必須。武蔵野美術大学がアピールする『美大におけるグローバル化教育』を同大学の国際センター事務室畠山香里室長に伺った。

海外で外国語の洗礼、そこから生まれるバイタリティ

文科省は「グローバル人材育成推進事業」において、30万人の留学生を受け入れるという目標を掲げているが、武蔵野美術大学ではとにかく海外に出ていきなさい、と海外留学を促進する方針をとっているそうだ。”ムサビに入ると、もれなく海外がついてくる”というイメージをめざしている。かねてより国際交流プロジェクトという取り組みを実施しており、アメリカなどにある協力校に赴き2週間の滞在期間中に授業を受けたり、現地で活躍するアーティストとワークショップを開くなど国際的交流を実施。今後、この取り組みをグローバル人材育成推進事業の一環としてさらに短期留学の機会を増やしたり、外国人教員の授業拡張を予定している。

美術の分野の視点からは、英語・フランス語・ドイツ語のほか、絵画ではスペイン語、彫刻ではイタリア語など、各分野や領域ごとに創作・発表活動が歴史的に特に盛んな国々の言語を必要としている。ニーズに合わせた多くの外国語科目が開設されている。

国際交流プロジェクト

グローバル人材像のビジョン

美大生は潜在的にコミュニケーション能力はある
語学力でパワーアップを

この取り組みの中で、学生には自分の作品を英語で説明するプログラムを設けていく。そこでうまく説明ができなかったことがきっかけとなり「もっと英語が上達したい」と意欲的になる学生が出てくるはずである。そうした自然な流れから、大学側としては英語を身に付けていける活動や雰囲気作りを今後さらに拡大していく方向だという。

元々アーティストというものは、絵や作品そのものでコミュニケーションを取ることができる。しかし、それに語学力を付けることで、表現力を高めていけるわけだ。

作品は見るだけで伝わる、余計な説明は不要だ、という考えもあるが、それは日本の以心伝心に基づいたもので、海外に行ったらどんな作家であろうと、作品の説明をしなければならない。そのためにも、「言葉の力もおろそかにしないで」と学生たちに語学力を付けることの大切さを教えているという。

1対1、1対多数、多数対多数などさまざまな場面において、自らの企画やアイデアを他者と向き合い、直接解説し、質疑応答することが求められる。日本語・外国語双方でそういったコミュニケーション能力を獲得できる機会を増やしていくことが、同大学の方向性である。

外国からの招待教授、留学生…etc.
学内には”世界”が間近にある

ランチトーク

自作品を公開するために学生たちはウエブを利用しているが、たとえば動画を作るにしても、海外のソフトしか使えないとなると、一生懸命になんとかしてそれを使えるようにするだろう。それと同じことで英語が必要なら自分から積極的に取り組む素地を学生たちは備えているので、英語が必要となる環境を作り出していけば良いとのスタンスである。

交換留学生などと作品を通じての交感はできるが、もっと交流を深めたいとなると会話が必要となってくるわけである。また、同大学には韓国からの留学生が150人ばかりおり、彼ら彼女たちは日本語だけでなく英語も話せる場合が多い。その違いが刺激にもなっているのだろう。海外の一流アーティスト、デザイナーの方たちを授業の一環で招き、一週間くらいの特別授業を組むことなども日常的に行ったり、海外で活躍する先輩の話を昼食を食べながら聞ける「ランチトーク」などを企画し、世界を身近に感じられる場面を多く設けているとのこと。受験科目としてすっかり嫌われてしまった英語も、話すための、あるいは作品を説明することや、海外コンペにエントリーするための英文を読んだり、聞いたりさせたい。まずは単語を並べたサバイバル英語でも構わないのだが、美術をやっていく上での付加価値としての英語、点数などで評価される授業の英語とは違うということに気付いた学生をサポートする体制は整えているという。「ただ他大学と違い、本学は月曜から土曜日まで午前中は実習、午後が英語や哲学など教養科目の選択授業です。そのため、必須科目としての英語の単位取得の授業はありません。英語は勉強というより、学生自ら積極的に身に付いていくものと捉えていきたいのです」。しかしながら、今後英語の授業を増やしていき、英語でのプレゼン能力向上、海外展覧会への出展などを目指す方向性はあるそうだ。

言葉はクリエイターにとって
作品を伝える“もう一つの手段”

グローバル人材育成推進事業の目標に若い世代の「内向き志向」の克服とあるが、この点については本学の学生は大丈夫だという。自己完結の学生も中にはいるが、作品を人に認めてもらいたいと考える学生がほとんどだからだ。

認めてもらうために作品をつくるということは、つまりコミュニケーションを必要とする。入学する段階で同大学の学生はその素地をすでに持っている。この素地に加えて世界の多くの人たちにどうやって自分の作品を提示していくか、理解してもらうか、その隙間をグローバル力で埋めていきたいと考えているわけだ。

「これから需要が増えるアジアで、現地のデザインをするとき、駐在員を介するのではなく、絵も描けて言葉も話せるという美術家・デザイナーは絶対的に強い」と強調する。

芸術系大学のグローバル人材教育は自らの作品をフォローするための“もうひとつのコミュニケーション手段”であり、クリエイターとしての付加価値である。このグローバル人材育成推進事業採択を機に自然な形で根付かせていきたいとのことだ。