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【特集】大学のグローバル人材育成特集 語学力をベースにアクティブラーニングで世界的グローバル人材を育成する!

文部科学省は昨年9月、グローバル社会で活躍できる人材の育成をめざす拠点大学として国公私立の計42校を採択した。語学教育の充実や海外留学の推進などの環境を整える大学に対し、最高で年2億6千万円を補助。支援期間は5年間としている。この取り組みは根本的になにをめざし、大学はどのように展開していくのだろうか。

文科省の目論みと高等学校教育現場との温度差

グローバル人材の育成が叫ばれて久しい。そして、その矢面に立っている大学は今グローバル化に力を入れ始めている。

例えば昨年1月に東京大学が率先して検討を開始した全面的な秋入学への移行なども、それへの対応の一つであるし、また多くの大学で留学生の積極的な送り出しや受け入れ、海外インターンシップの導入、英語での授業などの取り組みが進められている。国際系の学部学科の新設も、別表のように2009年〜2013年にかけても衰えていない。

こうした流れを促進する目的をもって、文部科学省の「グローバル人材育成事業」が開始された。これは若い世代の「内向き志向」を克服し、国際的な産業競争力の向上や国と国の絆の強化の基盤として、グローバルな舞台に積極的に挑戦し活躍できる人材の育成を図ることを目的としている。この目的達成のために大学教育のグローバル化の体制整備を推進する事業に対して重点的に財政支援する事業であり、全学推進型の「タイプA」と特色型の「タイプB」を合わせて42大学が採択された。

ところで、この事業に対して、高校教員の側ではどのように見ているのか。
株式会社さんぽうが高校教員約300名に対して行ったアンケート調査からは興味深い現実が浮かび上がってくる。

平成24年度グローバル人材育成推進事業採択事業一覧 全国高等学校教諭アンケート

まず、この事業そのものがほとんど知られていないということである。「聞いたことはあるが詳しい内容は知らない」と「知らない」を合計すると96%にも達する。もちろん、これは文科省の広報不足という面も否めないだろう。しかし他方で、現状での高校生が内向きか否かという質問では、「確かに内向き志向が多い」「やや内向き志向だ」を合わせると約81%に達し、かつそれへの対応として、高校生の意識を変えることが「必要ある」「やや必要」を合わせて約81%と同じ値を示している。

また、「内向き」を克服し「グローバルな舞台に積極的に挑戦し活躍できる人材」とは何を以て可能となるのかも、実はあまり明確ではない。

一般にグローバル人材育成というと、ビジネスの世界共通語である英語が堪能であることが連想されがちであり、実際「推進事業」に採択されている42大学の取り組みもほぼすべて英語がらみである。

しかし英語は一要素に過ぎず、英語能力がグローバル人材の核心をなすわけではない。

グローバル人材育成とは特別な人材育成なのか?
では、グローバル人材とは何か

「大学生研究フォーラム2012」は京都大学、東京大学、電通育英会の三者共催で昨年8月に京都大学を会場に開かれたが、そのテーマは「グローバルキャリアの時代に大学教育はなにができるか」であった。

そこで行われた東京大学の中原淳研究室の発表は、「『若手内向き論』『若手内向き二極化論』とは疑わしさが残る言説であること」とした上で、大学においては「『海外で働きたい!』という動機を高める要因(大学側の)は、正課活動への積極的な参加、『半径3メートルの異文化接触』」などにあり、企業側では「国内の人材育成の成功」にある。すなわち「グローバル人材育成とは、結局、人材育成一般のことである」という重要な問題を指摘していて筆者も共感するところが大きかった。

また、厚生労働省2012年7月23日に公表した第9回雇用政策研究会資料でも、次のように述べられている。「日本企業が求める人材像も、場面・職種等に応じた、高度な技能・技術、財務・経理等の専門知識、諸外国の言語、海外事業展開の状況によっては展開先の国の法制度・文化慣習など、専門的で高度な知識を持つ人材に大きくシフトしているかのように見られがちである」が、しかし多くの企業からヒアリングしてまとめると、次のようになるという。

「未知の世界、時に非常に厳しい環境に、『面白そうだ』『やってみたい』という気持ちで、積極的に飛び込んでいく前向きな気持ち、姿勢・行動力を持っていること。そして、入社後に一皮、二皮剥けるため、『最後までやり抜く』『タフネスさ』があること。しっかりと自分の頭で考え、課題を解決しようとすること」であると。

つまり、語学を含む必要なことの多くは、業務上でそれが必要になった時点で身につければよく、むしろ課題は一般的な人材育成に求められることと同じであると、多くの企業は考えているのである。その点で「内向き」を克服するという「グローバル人材育成推進事業」の目指すところは、今の日本で求められる普遍的な人材育成の目標でもある。

「深い学び」を引き起こす教育こそが核心であるべき

このように考えてくると、やはり大学におけるグローバル人材育成の要となるのは、「知識を活用して問題解決できる」「積極性・能動性を持った」「タフな人材」ということになるだろう。

とするならば、大学でそのような人材を育成するためには何が必要となるのか。
筆者は、そのカギの一つが「『深い学び』につながるアクティブラーニング」の導入と普及であると考えている。

「深い学び」とは、次のようなことを意味する。すなわち教員の知識を学生に移植するかのようなイメージで行われる従来の知識伝達型の教育とは異なり、学生が授業の中で得た知識や経験を、それまでに自分が持っていた知識と関連させ、新しい世界像を構築するという教育観の下に行われる教育である。そうして得られた知識は、試験が終わると忘れてしまうような丸暗記型の知識とは異なり、一生忘れないし、ずっと活用できる。そして、そのような教育は一方通行の講義だけで実現することは困難であり、学生を能動的に授業に参加させるアクティブラーニングが有効である。

実際の問題として、これまでも大学教育ではアクティブラーニングの個々の形態的な要素であるグループワークや討議、調べ学習やプレゼンテーションなどは様々な授業の中で行われてきた。しかし、それが十分な効果を上げてこなかったのは、アクティブラーニングへの取り組みが個々の教員の裁量にゆだねられてしまっていたり、あるいは科目を越えて知識を結びつけるような取り組みの視点が欠けていたからである。故に今後の課題は、アクティブラーニングを「深い学び」につながるように再構成・再設計していくことである。その典型が、多くの大学で教員個人の不可侵の城として閉じられている専門研究/専門ゼミである。これを開き、組織的に再設計していくことが必要なのである。

世界的には、知識のインプットは自宅でネットなどを通して行い、授業ではその知識を活用してアクティブラーニングを行うというメソッドが一般化しつつある。「反転授業」とも呼ばれるこの手法は、ハーバード大学では「ピアインストラクション」と呼ばれ、学生は家で知識をインプットして授業に臨み、授業中は先生から出される質問に答えるだけでなく、異なる答えをした周囲の学生と議論するという形で授業が進められている。スタンフォード大学メディカルスクールでは同様に知識の伝達でしかない一方通行の「講義」は昨年廃止され、知識伝達はネット等で行うように変わってきているが、このような流れはますます世界的な趨勢となっていくだろう。

こうした流れと無縁に「英語力」のみに目を奪われたグローバル人材育成であっては、そもそもグローバルに太刀打ちできない。その点にもっと注意が払われるべきではないだろうか。

友野 伸一郎氏

【プロフィール】

友野 伸一郎(とものしんいちろう)

教育ジャーナリスト。教育分野のほか、経済・経営、ブランディング、住宅など幅広いジャンルをカバー。河合塾教育力調査プロジェクトに参加し、2008年には国立大学教養教育調査、2009年には「全国大学初年次教育調査」、2010年「大学のアクティブラーニング調査」に取り組む。著書に『対決! 大学の教育力』(朝日新聞出版社)などあるほか、多数の教育関連本に執筆。