新設校特集スペシャルインタビュー
社会のニーズに応える新設大学・学部
~大学と学部・学科の新設 最前線~

大学Times Vol.43(2022年1月発行)

【新設校特集】スペシャルインタビュー (株)高等教育総合研究所

新設校特集

日本の大学は毎年のように新設され、既存大学も新しい学部・学科を設置している。18歳人口の減少が加速する今日、新設校はなぜ作られるのか。さらに、時代によって同じ学問系統の新設が相次ぐなどの“トレンド”がある印象を受けるが、各大学はいかにして新設の準備を行い、申請しているのだろうか。これまで数多の大学の設立や学部学科新設に携わり、中長期計画の策定支援を行っている(株)高等教育総合研究所の渡邊、坂田両氏に話を伺った。

(株)高等教育総合研究所 坂田主任研究員(写真左)、渡邊顧問

(株)高等教育総合研究所とは
2001年設立。おもな事業内容は高等教育を中心としたコンサルタントおよびその周辺業務。高等教育分野(大学・大学院・短期大学・専門学校など)における中長期計画、将来構想の策定支援、学部・学科の改組方針の策定支援、大学・学部・学科、専門学校の新設・改組における設置認可・届出申請支援、指定申請、教職課程認定申請支援、フィージビリティー調査など。これまでも大学の新設、学部・学科の新設を多数支援している。

大学・学部新設は「新しい分野」と「養成転換」の2パターンがある

大学や学部新設の背景として欠かせないのは、女子の四年制大学進学率の増加です。この10年で男子の大学進学率は頭打ちですが、女子の進学率が上昇し、全体の大学進学率を押し上げています。

新設には大きく分けて2つあり、新しい分野の新設、近年では「データサイエンス」などが該当します。もう一つは養成転換です。教育の高度化に伴い修学年限の増えた、看護をはじめ薬学、幼児教育や管理栄養士育成などの学部・学科が相次いで新設されました。ブームとなった看護学部は300校近くになりましたので、今後の新設は難しいのではないでしょうか。看護医療系については景気動向に左右されるというよりも、高齢化社会の影響が大きいと思います。またコロナ禍で看護学部が敬遠されるのでは、という懸念もありましたが、予想よりも受験生が減少しませんでした。看護・医療系大学の進学者は高校入学後、早めに決める傾向があり、医療への使命感をもって受験しているようです。

新しい分野、学科からの学部独立は将来の“就職先イメージ”しやすさが決め手に

データサイエンス学部は2017年度の滋賀大学、翌年に横浜市立大学と国公立が先行し、その後は私立大学にも次々設置されました。新設学部として、または理工学部や情報学部にデータサイエンス学科・コースとして設置する例もあります。さらに、建築などは「工学」「芸術」「家政」の各学部に設置されており、学部のイメージに埋没しがちでした。建築学部や心理学部のように、従来は学科だったものを学部として独立させることでイメージを刷新し、就職先を意識した“魅力度”を上げる傾向も増えています。敢えて分野を狭めることで、受験生にとってもわかりやすくなっていると思います。

非常に厳しい文科省の審査
大学の負担も大きい設置認可申請

大学や学部の新設には、文部科学省の厳しい審査があります。日本は既に800校近く大学があるので、質を保つためには必要な制度だと思います。

大学新設は開学予定の1年半前に文科省に申請を提出し、10か月かけて審査、既存大学の新規学部・学科新設は、1年前に申請書を提出、5か月かけて審査されます。いずれの場合もカリキュラム、教員、校舎、設備、財務、受験生のニーズ、卒業後の就職ニーズなどを、書面・面接・実地審査等で厳しく審査されます。途中で補正申請ができ、大学新設の場合は2回の修正チャンスがあります。

当然ながら、申請書を提出する前に数年の準備期間が必要になります。資金・校地・教員予定者を確保し、カリキュラム作成、校舎の設計、経費の見積、受験生や就職先のニーズをはかるアンケート調査を申請前に完了しなければなりません。それだけに、申請が通らなければ教員採用の見直しや校舎新設など大きなリスクになるので、各大学は申請準備に時間をかけ、抜かりなく進めます。専門職大学を除き、大学の新設や新設学部は8~9割認可されています。

大学に求める“社会ニーズ”の変化が学部新設を増加させている

近年は、産業構造の変化や全体的な大学進学率の上昇などで、大学に求められるものが大きく変化しました。教養教育よりも就職に有利な実学が重視され、旧来の学部や学科構成では対応が難しいため、社会のニーズを見据えた新しい学部・学科が設置されています。

同じ分野の新設学部について、複数の大学からご相談を受けるのは同じ時期になることが多いのですが、その後は各大学によって意思決定のスピード感が異なり、申請年度が変わります。決して後追いで申請しているのではなく、早い大学は1~2年、遅い大学は3~4年要しているようです。2023年度からは新たに愛玩動物看護師が国家資格となりますが、今後は複数の大学で新設学部が設置されると思います。

さらに、既存の学部・学科を再編するような新設は今後も増えると思います。18歳人口の減少が今後加速するため、ニーズの減少が見込まれる学部学科は、多くの大学で再編が検討されています。各大学では中長期計画を策定しており、新設学部のように強みを活かした種まきを行う一方で、大学間の合併などもますます進むと予想されます。教育の枠組みをまず作り、学科改組がフレキシブルに行われるでしょう。

大学の手厚いケアが見込まれる新設1期生の魅力

新設大学・学部の多くは、これからの社会ニーズを見据えた魅力的な学部・学科のため、入試でも高倍率になることが多いようです。1期生のメリットは、入学時に教員全員で1学年の面倒をみることになりますので、非常に手厚いケアが見込まれることです。さらに、1期生の就職実績や国家試験合格率が今後の大学の評判につながっていくので、キャリア教育にも力を入れていきます。「自分たちで歴史を作る」気概をもった入学者を求める新設大学が多いようです。

但し、「データサイエンス」については文系・理系両方の学部の新設が増えており、各大学のカリキュラムを予め見極める必要があります。文系志望の受験生に理系の「データサイエンス」学部・学科はミスマッチになる恐れがあり、注意が必要です。

進路指導をされる高等学校の先生方へ

毎年多くの新設大学や学部・学科があり、高校の先生方でもすべてを把握するのは難しいのではないかと思います。受験生が実際に、新設大学・学部の秋以降のオープンキャンパスへ行って模擬授業などを体験し、既存の大学・学部と比較するのが良いと思いますが、新設の告知は短期決戦です。先生方や保護者の方など大人の意見は「新設校は難しい」と敬遠されがちですが、それを乗り越えるには、教育機関の日頃からの信頼度が鍵となるでしょう。たとえば卒業後の就職から逆算した、大人に向けた説明ができるかもその一つです。

新設の広報を行う大学側としては、高校との関係構築が大切になります。昨今の受験生は、親御さんの言うことを聞く傾向がありますので、保護者向けの説明会を催し、新設ならではのチャレンジ精神をアピールする方法もあるでしょう。