連載シリーズ高等学校インタビュー
女子高から共学の国際高校へ“進化”する
不易流行のバランスある教育改革とは~羽田国際高等学校~
大学Times Vol.50(2023年10月発行)
2024年4月、蒲田女子高等学校が共学化へ移行し、「羽田国際高等学校」が新規開校する。2025年には中学校も開校、6年一貫教育がスタートするという。東京都内では女子高の共学化が相次ぎ、その多くは前身校の面影が失せた新高校に様変わりしているが、同校は些か異なるようだ。新規開校の抱負を簡野裕一郎校長、土橋由希子副教頭、兼子正暢中学設置準備室室長に伺った。
学校法人簡野学園 羽田国際高等学校
校長 簡野 裕一郎
羽田空港に一番近い私学としてANAグループ・JALスカイ両社との教育連携を持つ伝統女子校の共学化
蒲田女子高等学校は1941年創立、敷地内に幼稚園、保育園、保育専門学校を擁します。2021年に80周年を迎え、次の学園ビジョンとして「一貫教育を長期的に行いたい」と現在は教育の改革が進んでいます。本校は羽田国際空港に最も近い私学で、長年の地元のご縁でANAグループとJALスカイの両社から教育連携をいただく全国唯一の高校です。地の利からこれまでもグローバル教育を推進してきましたが、加速する少子化の中、これからの時代は男女の区別なく教育を提供することが自然の流れではないか、と共学化に踏み切りました。公式発表は2022年4月の創立80周年記念式典(コロナ禍で1年延期開催)でしたが、その前から同窓会、PTA、在校生、保護者等に共学化移行の背景を丁寧に説明し、大枠で納得いただきました。
新校名に込められた創立時からの理念と新たな希望
校名を「蒲田女子」から「羽田国際」に変えるのは、創立の理念に立ち返るという意味があります。本校は大田区本羽田に所在しますが、創立時は当時の新しい街・蒲田にちなみ名付けられたと当時の理事に聞きました。そして新たに「国際」を冠しますが、新しい時代を歩む本校は従来型の「外に出る国際」とは一線を画し、「グローバル×ローカル」という“地球規模で考え、足元から行動する”、地域に根差した真のグローバル教育を目指しています。
校内施設の改修が進み来春の共学を楽しみに待つ在校生
この1年半は、施設面の改修が大きなプロジェクトとなり、建設中の新校舎(上パース参照)をはじめ多くの学内施設を段階的に改築中です。その間、通常授業は進みますので、在校生には通行できないエリアなど不便をかけていますが、少しずつ改修が進む中で高校生活を送る現在の1,2年生からは「来年の共学を楽しみにしている」という反応が広がっています。地域社会も含めて、羽田国際高等学校のスタートを応援してくれている様子です。
前身校の伝統と長所を生かし新たな教育カリキュラムへと進化
「WINGSプログラム」は、本校独自のグローカルキャリア教育プログラムです。未来を見据えて、可能性を最大化し、そのために何が必要かを逆算して考え、いま高めるべき能力や特性を伸ばしていきます。グローカルシンキングの育成を目指し、自分の立ち位置をみつめ、他者や世界に視野を広げる経験を繰り返すことにより、思考力を養い、自分の将来について言語化しストーリーを作ります。この作業は、将来の就職活動まで役立つように構築されています。
本プログラムの不易流行という点では、「HANEDA留学」という留学生との交流プログラムがあります。留学生を本校に招き、交流テーマで「日本の何を知りたいか」のリクエストに基づき、生徒が事前学習。当日の説明のための英語を自発的に学習し、おもてなし(接遇)を学びます。生徒たちが自主的に行動することで、語学などの学びへのモチベーションに替わり、文化交流できる自己形成や異文化理解、価値観の共有を目的としています。これは前身校で行われていた行事ですが、来年度からは、グローカルシンキングのコンセプトに則って、年間10回、5大陸制覇を目標に通年のプログラム化を予定しています。古き良き伝統の種に花を咲かせて実らせる、共学化によってさらにバージョンアップさせていきます。
進学目標別に設置する3つのコース
●特別進学コース
きめ細やかな学習・進路指導で難関大学の一般選抜で合格する実力を養い、GMARCHクラス以上の大学合格を目標とします。
●総合進学コース
前述のWINGSプログラムから探究型授業を中心に、大学の総合型選抜などに対応した学習で志望大学合格を目指します。
●幼児教育コース(女子のみ)
本校は同じ敷地内に多数の保育施設や保育専門学校があり、一足先に知識と技術を身に付けて実習を行える理想的な環境です。前身校のコースを踏襲します。
進学にはまず、自分を知り、適性を考えることが大事ですが、学力だけでなくあらゆる能力を身に付けて、成長の過程を「見える化」するためにAi GROW(AIによる評価ツール)を導入します。例えばリーダーシップや協働意識なども評価対象となります。
特進コースのプレ実施で成長を実感
予備校の学習サポートを校内で実施
前身校は専門職育成の強い高校であり、大学進学の実績も乏しかったのですが、一部の生徒に特別進学コースの学習指導をプレ実施し、この春に1期生が卒業しました。入学時には中学校の5科内申点が3未満だった生徒が、本コースでの学習を経て、一般選抜で日東駒専クラスの大学に合格しています。新たに着任した塾講師など大学進学の指導経験のある教員比率が52.7%となり、生徒に対しては、長期休みや放課後も含めて予備校クラスの進学サポートを提供する体制を整備しました。入学時の学力やその後の成長によって目標大学の設定は変わりますが、学校生活を通じた「きめ細かいサポート」を3年間繰り返すことで、全生徒の学力を着実にアップさせていきます。
入学説明会は連日満席。出席者からも高評価
入学説明会は本年3月より4回実施(取材時)、のべ1600名以上の皆様にお越しいただきました。アンケートでも5点満点で4~5点と満足度の高いご評価を頂戴しています。特に、地に足のついた国際教育や進路指導の面については、手応えを実感しています。初年度は女子が多いと言われますが、志望校決定が遅いとされる男子生徒も予想以上に多かったのは嬉しい反響でした。先ずは男子生徒が1期生として入学し、3年後は前身校で実績のなかった理工系大学への進学実績も挙げられるよう、全力でサポートする所存です。
2025年度の中学校開校と一貫教育への展望
再来年には中学校が開校し、共学での中高一貫教育のチャレンジが始まります。6年間のうち、教科によっては先取り学習も行いますが、5年で詰め込むような窮屈な学習スタイルではなく、10代の多感な時期にあって人間性を育てる教育を行いたいと思います。創立者である漢学者・簡野道明が掲げた建学の精神「清・慎・勤」を土台にグローカルシンキングを取り入れ、時代の変化を鑑みた人間性を育んでいきます。詳細は現在検討中ですが、高校で実施する探求型授業を中学向けに編成し、視野を広げる学びを取り入れたいと考えています。高校からの入学は、引き続き今後も実施いたします。