教育改革特集学長インタビュー
「総合知」教育導入で学生の多様な学びと体験を支援~東洋大学~
大学Times Vol.60(2026年7月発行)
哲学者・井上円了が1887年に創立した私立哲学館を起源とする東洋大学は、創立140周年を迎える2027年4月、「環境イノベーション学部」を開設する。時代のニーズに応じた改革を重ねてきた同大学は、独自の教育改革として「総合知」教育を推進している。そのねらいと今後の展望について、矢口悦子学長に伺った。

東洋大学 学長
矢口 悦子(やぐち えつこ)
1980年お茶の水女子大学文教育学部教育学科卒業。86年同大学大学院人間
文化研究科(博士課程)単位取得満期退学。博士(人文科学)。専門は社会教育学、生涯学習論。お茶の水女子大学非常勤講師、千葉大学非常勤講師などを経て2003年より東洋大学文学部教授、社会貢献センター長、文学部長ののち2020年より現職。
学問の原点に立ち返り主体的に学ぶ
「総合知」教育とは
東洋大学では、現在進めている一連の教育改革を「総合知」教育と名付けました。社会変動の激しい昨今、国内外の諸問題はますます複雑化しており、その解決に向けては、文理融合の学びの重要性が高まっています。もっとも、「文系」「理系」という区分は、もともと大学受験における科目分類として用いられてきたものであり、学問そのものにおいては、本来一体のものとして捉えるべきです。今回の教育改革は、そうした原点に立ち返ることを目的としています。
「総合知」教育カリキュラムでは、学生が自身の専門分野に加え、例えば、最先端の技術に触れる学びや、歴史をどのように捉えるかを考える学びなど、複数の学問領域を横断的に行き来できる機会を提供しています。こうした学びを通じて、学生には広い視野で社会を見つめ、物事を多面的に捉える力を養ってほしいと考えています。
具体的には、14学部51学科・専攻(2027年度からは15学部52学科・専攻)を擁する本学の多様な専門性を持つ教員が所属学部の枠を超えて他学部の学生にも専門科目を提供する「全学共通教育科目」を設けました。学生が自らが所属する専門科目を軸としてそこから広がった興味・関心に応じて科目を選択できる仕組みを整えました。さらに、オンラインやオンデマンドによる非対面授業を取り入れることで、他キャンパスの学部の授業も柔軟に選択できるようにしています。
また、履修の際に活用する「総合知アプリ」も本学独自に開発しました。このアプリでは、学生一人ひとりがAIによるアドバイスを受けることができます。ただし、最終的な判断は学生自身が行うよう設計しており、そのことによって、東洋大学に在籍する3万人の学生が、それぞれに異なる3万通りの学びを築いていくことが可能になります。
2年目で見えた「総合知」教育カリキュラムの手応え
実装から1年余りが経過し、さまざまな傾向が見えてきました。自分の所属するキャンパス以外で開講されている授業を履修する学生の多くは、オンデマンド形式を選択しています。履修登録者数も増加しており、現在の2年生では24.0%、第2部・イブニングコースの学生では43.1%が他キャンパスの授業を履修しています。
とりわけ第2部・イブニングコースの学生からの評価は高く、「従来に比べて、より多くの興味ある科目を履修できた」といった声も寄せられています。また、スポーツ科学の科目を総合情報学部の学生が多数受講するなど、当初は想定していなかった傾向も見られています。
さらに、自身の専門分野以外の領域については、対面授業よりもオンデマンド形式で繰り返し受講できる方が、内容を確認したり、必要に応じて調べ直したりしながら学べるため、学びを深めやすいことも分かってきました。今後は、こうした学生の関心や履修傾向を踏まえながら、開講科目の見直しや整理を進めていく予定です。
新学年暦「13+2」の導入
「総合知」教育の目指す「物事を多面的に捉え、課題解決に導く力を養う」には、学びと体験の中でトライ&エラーを重ねながら思考を深めていく過程が欠かせません。そして、そうした学びには一定の時間が必要です。そこで本学では、今年度から学年暦を改め、「13+2」をスタートしました。これは春学期・秋学期の通常授業期間を従来の15週間から13週間へと改め、この期間内で13回の通常授業および、そのほかに2回分のオンデマンドによる授業や学外における演習・実習・研修などを実施します。従来の学修時間数を確保しつつ、新たに生まれた4週分を夏セッションに追加し拡大します。これにより学生の多様な活動の時間を確保しました。
この時間を活用して、海外留学や地域活動・ボランティア活動、運動部の長期合宿に取り組むことができますし、3年生であればインターンシップに参加することもできます。さらに、一人でも友人とでも、自ら自由に挑戦する旅に出たり、集中的にアルバイトに取り組んだりすることもできるでしょう。キャンパスの外で得たさまざまな体験を、次の学びへとつなげてほしいと考えています。

自分なりの「哲学」を持って考えを深め
多様な経験で言葉の力を磨く
「総合知」教育カリキュラムの履修の際に使用する「総合知アプリ」は学生が“AIに相談する”機能を持ちますが、学生一人ひとりが学修でAIと向き合う時、意志を持って判断するのは人間だということを自覚した上で、大事なのは簡単に答えが出せない問いに対し各々が自分なりの「哲学」を持って考えを深めることであり、そのために多くの経験を通じて感受性を高め、言葉の力を磨くべきと考えます。
高校生の今こそ思いを“文章に書く”習慣を
高校生の皆さんには、日々の生活の中で「なぜ?」と感じたことを400字程度の文章にまとめる習慣をつけてもらいたいです。時には友人とも短いやりとりで終わらせず、疑問に思ったことを掘り下げて、自分の言葉で表現することを意識してみてください。自分の考えを自分の言葉で表現することの積み重ねによって、心の粘り強さが身につくでしょう。時にはプレゼンテーションに使用するパワーポイントの綺麗な画面よりも、丁寧に書いた手紙の方が相手の「心が動く」こともあります。日ごろから文章を書く習慣を是非とも身につけてください。
