【獣医系大学の現状とこれから】平成29年度から開始される「参加型臨床実習」を見据えた大学の取り組み 麻布大学 獣医学部獣医学科 山下 匡 教授|大学Times

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【獣医系大学の現状とこれから】平成29年度から開始される「参加型臨床実習」を見据えた大学の取り組み 麻布大学 獣医学部獣医学科 山下 匡 教授

日本の獣医教育では、グローバル化がひとつの合言葉になっている。医歯薬教育と同様に獣医学教育でも国際標準に基づいて実施される教育は必定である。諸外国においては、臨床実習の重要性が認識されている。日本においてもより実践的な臨床教育を目指し、これまでの見学型から積極的に参加する参加型での実習が求められている。

獣医学教育コアカリキュラム、獣医学共用試験、そして参加型実習

獣医学教育方法のモデルとして基礎・応用・臨床を網羅した講義51科目と実習19科目からなる「獣医学教育モデル・コア・カリキュラム」は、平成23年3月に完成し、平成24年3月には改訂第二版にステップアップした。大学卒業時までに身につける必要不可欠な知識を精選した教育内容を、具体的な到達目標を明示することによって分野ごとの教育内容とレベルを確保することを目的としている。

さらに、平成28年度からコンピュータを用いて知識が評価されるvetCBT(veterinary Computer-based Testing)と獣医臨床における診察技能・態度が評価されるvetOSCE(veterinary Objective Structured Clinical Examination)の構成からなる獣医学共用試験(veterinary common achievement test)が開始される。その目的は、獣医系大学が実習に臨む学生に必要な最小限の知識・技能・態度の到達レベルを公平かつ厳正に評価し、その質を動物所有者(飼育者)と社会に保証するためのものである。共用試験を合格した学生はその後の参加型臨床実習を受けることが可能になる。

参加型実習はどうあるべきか

診療の質確保を確かなものとする獣医学臨床教育の重要性については、議論を挟む余地はない。獣医師の質向上のためには獣医師免許取得後間もない新卒者であっても、大学は一定の診療レベルを提供できるだけの教育を行うことが社会的に求められている。その手段のひとつとして参加型臨床実習がある。従来型の見学型臨床実習からの転換である。これを受けて、全国すべての獣医科大学では、平成29年度から開始される参加型臨床実習の実施に関して物理的、人的整備が開始されている。ここで問題となることは、個々の大学間での参加型臨床実習に対する考え方に温度差があることである。定員30人から40人の国公立大学と定員120人の私立大学では、おのずと実習そのものの内容が変わってくると考えられる。また、地域性も考えられ、関東圏の2国立、3私立大学では、産業動物の実習に関して手薄になる可能性がある。しかしながらコンパニオンアニマルを対象とする小動物の実習は、比較的充実したものになることも考えられる。一方、北海道や九州の大学ではその逆の現象が見られるかもしれない。いずれの大学においても自らのキャンパス内での産業動物や小動物を対象とし、完結した参加型実習の実施には困難が予想される。

参加型臨床実習で試されるものは何か

参加型臨床実習では、担当指導獣医師のもとで学生が主体的に診療に従事することが学習課題となる。この学習を行うためには、臨床という「職場」で学生が自らの能力を見極め、学習課題を設定し、それを学びとる能力を持っていなければならない。これらを満たすため、キャンパス内だけで完結しうる参加型臨床実習の実施が不可能な場合、必然的に外部にその場を求めるであろう。産業動物であれば農業共済等の団体への学生の派遣、小動物であれば、一定条件を満たす一般の動物病院への派遣が考えられる。いずれの場合においても大学教員の監督下における指導が可能であろうか。キャンパス外における実習は、現段階においては「各大学が決める責任者(例えば獣医学部長、動物病院長)の責任のもとに認定する獣医師・教員が指導する」と定めるのが現実的だと考えられる。

さらに参加型臨床実習では、「獣医師の資格を有さない獣医学生が、臨床の現場で実際に獣医療行為を行う」過程で事故が発生した場合の対処も参加型臨床実習が始まる前に考慮する必要がある。

参加型臨床実習の先にあるもの

一定の量と質が担保された参加型臨床実習受講後の学生のキャリア形成について考える必要がある。獣医科大学を卒業し獣医師国家試験に合格した学生のうち、実際の臨床の場に足を踏み入れることを希望する学生の割合は増加傾向にあるようだ。一方、公務員の獣医師(行政獣医師)の活躍の場は、公衆衛生行政と農林水産行政に大別される。また、民間企業や製薬関連企業及び独立行政法人を含む各種の研究施設でも獣医師の需要は存在する。将来獣医師として職を得る場合、直接臨床の場に軸足を置かない場合であっても、社会の要請として臨床に対する一定以上の知識と経験は必須のものとなる。全国の各大学では、学生全員を対象とした参加型臨床実習後に、特色のあるアドバンス教育の充実が求められる。