【「大学と地方創生」特集】大学の地域貢献と地域人材育成の「いま」|大学Times

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【「大学と地方創生」特集】大学の地域貢献と地域人材育成の「いま」

地方の人口減少・流出が深刻な問題となる中、大学が果たす役割の重要性が高まっている。文部科学省が「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業(COCプラス)」を展開するなど、地方と大学の再生のためのバックアップも進む。その取り組みの概要や人材育成の課題を紹介し、これからの大学のあり方を探ってみたい。

地方創生のため若者の地元定着にいっそう注力

昨年、民間組織により2040年には全国1,800市区町村の半分の存続が難しくなるとの予測が発表され注目を集めた。特に出産に適した年齢といえる20?39歳の女性の人口動態に注目したものだという。また総務省が発表している子どもの数も2015年4月現在のデータで34年連続減少、前年に比べて増加しているのは東京都のみで、100万人を超えるのは東京都、神奈川県、愛知県、大阪府の4都府県にとどまっている。人口減少・流出の問題は複合的に考えていかなければいけないが、子ども・若者に関わる教育機関が果たす役割が大きいことはいうまでもない。

2015年度からの文部科学省の取り組みに、「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業(COCプラス)」(COC=Center of Community)がある。大学が地方公共団体や企業等と協働して、学生にとって魅力ある就職先の創出をするとともに、その地域が求める人材を養成するために必要なカリキュラムの改革を断行する大学の取り組みを支援することで、地方創生の中心となる「ひと」の地方への集積を目的とするとされている。人口減少は地域経済の縮小を招き、それによってさらなる人口減少や若者の地方からの流出を加速させている。特に大学進学や卒業・就職といった節目で、地元を離れる決断をする若者が多い傾向がある。こうした負の連鎖に歯止めをかけることが期待されている。

2013年度から展開されてきた「地(知)の拠点整備事業(大学COC事業)」でも、人材育成、地域再生、生涯学習などの多岐にわたる地域の課題解決に資する地域コミュニティの中核的存在としての大学の機能強化を目指してきた。これをさらに発展させ、COCプラスでは、地域活性化を担う人づくり・雇用創出・若年層の流出防止、それに向けた地域の大学・自治体・民間団体・企業・NPOの連携強化にいっそう踏み込んで注力を求める内容となっている。それだけ喫緊の課題となっているといえるだろう。

もちろん、若者の流入が進む大都市圏の大学も対象となっている。グローバル化を推進するためにも、地方が活力を取り戻すことが不可欠だ。時代や社会の問題を正面から捉え、それぞれの教育や研究の強みを活かして社会に貢献していく。大学の社会的責任がますます重視されている。

地域社会の期待に応えたプロジェクトが進む

これまでのCOC事業では、2013年度52件、2014年度25件が採択された。その取り組みについて概観してみたい。
たとえばいわゆる「地域学」「地元学」の構想である。行政や企業などからも講師を招き、地域の現状や課題について理解を深めることを目指す。学生の問題意識を高める好機となるだろう。さらに、地域において蓄積されてきたさまざまな成果や知見の集約・活用、共同による調査・研究も進む。ここでは、地域社会と協働した課題解決型学習(PBL)、アクティブラーニングなども積極的に導入されている。ものづくり、健康、環境、教育など大学や学部・学科がもつ専門性を地域に還元するもの、特産品開発や町おこしイベントの企画・実施といったビジネスの実体験を意識したものなど、多様な展開を見せている。これらを推進するためには、教育体系やカリキュラムの見直し、組織づくりも欠かせない。科目の再編や全学共通科目の開設、主体となる委員会や部門の設置・整備が行われている。地域との交流を深めるためにサテライトキャンパスの設置も進んでいる。学びの場は、キャンパスだけにとどまらず、地域社会全体に広がっているといえるだろう。

それはまさに、従来の大学の枠にとらわれない事業(プロジェクト)と呼ぶにふさわしい展開だ。期待されるのは、地域発の産業や技術、仕組みのイノベーションを創出し、地域の魅力や経済的効果を高めていくことである。農業や水産業をみても、農畜産物や水産物を生産するだけでなく、加工・流通・販売まで手がけ多角化していこうという六次産業化の動きが注目されている。食への関心が高まる中で、都市に住む人々も消費者の立場を超えてさまざまな形で関わっていくことも考えられる。また防災や減災の点でも、地域コミュニティの連携はもちろん広域的なネットワークの必要性があらためて認識されている。産業、地域、人々を結びつけることで、いかに新しい価値を生み出すか。つまり、「共創」という概念が重要である。豊富な知見、幅広い人材や人脈を有する大学が、共創、つながりの拠点・プラットホームとなることはいっそう重要な使命となっていくだろう。大学が貢献できることは限りなく広がっている。

3つのキーワードで人材育成を考える

COC、COCプラスの事業では、地元社会に貢献することが主目的であるが、大学が行う以上、教育の視点も欠かせない。つまり、学生にとって学びがあること、自らの人生と社会の未来を主体的に切り拓く能力が培われることである。あらためて考えてみると、大学の取り組みも学生の学びも本質的なものは共通するように思われる。それを3つのキーワードでまとめてみたい。

COC、COCプラスの事業では、地元社会に貢献することが主目的であるが、大学が行う以上、教育の視点も欠かせない。つまり、学生にとって学びがあること、自らの人生と社会の未来を主体的に切り拓く能力が培われることである。あらためて考えてみると、大学の取り組みも学生の学びも本質的なものは共通するように思われる。それを3つのキーワードでまとめてみたい。

そして、関係性が「自立」へとつながっていく。社会の中で自分をどう活かしていくかという気づきである。大学の取り組みも、突き詰めれば大学が社会のプレヤーとして機能することを求めるものだ。学生も社会に触れることで、興味や関心、強みや特徴を知り、あるいは弱みを受け入れ、自己実現の道を探っていくことが期待される。学んでいることが、テストや単位のためだけでなく社会に活かすためのものであること、知識を実際の場面で活用する経験が大切なことを理解し、自立的・自律的に学び続ける姿勢を身につけることがこれからの社会において重要になっている。

共創、自立のためには異なる価値観をもつ他者を認めることが必要だ。「多様性」である。大学が進める共創では、お年寄りから子ども、行政や企業に所属する人から地域住民まで多様な人々が関わる。大学は主体となって議論を深め、問題解決の道を示していかなければいけない。さらに、そこに学生がどう関わるか。積極的に関心を示す学生の一方で、同じような仲間の集団の中で過ごし変化を好まない層もある。ネットの社会では残念ながら自分の主張や立場が優先される危惧もある。勇気をもって多様な人々がいる社会へ一歩を踏み出していく支援がますます必要だ。

もちろん、人材育成は大学だけではなく、高等学校等から連続的に行われるものである。だんだんと視野を広げて、地域社会や職業に関心をもって、意欲的に学べるような高校生活を過ごしてほしいと思う。そこで抱いた目標や期待を実現できる環境は、大学が力を入れて充実を図っている。

【プロフィール】
川嶋 潤(かわしま じゅん)

取材ライターとして、大学・短大・専門学校等の進学情報媒体・広報誌・受験情報誌を中心に活動。2級キャリア・コンサルティング技能士(国家資格)、JCDA認定CDA(キャリア・デベロップメント・アドバイザー)。特定非営利活動法人国際教育企画および専門学校にて、講師・キャリアカウンセラーとして学生・若年者の就職・進路選択支援にも携わる。