【インタビュー】法政大学 生命科学部 川岸郁朗教授−科学研究の思考プロセスをキャリア教育に導入−|大学Times

大学Times Vol.5(2012年6月発行)

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科学研究の思考プロセスをキャリア教育に導入 広い視野を持つ自立した科学者を育成 法政大学 生命科学部

川岸郁朗教授

法政大学 生命科学部
川岸育朗教授

研究者に憧れて理系を選ぶ人も少なくはないだろう。しかし、昨今の複雑化・多様化した社会では、研究一筋で生きることは難しくなってきているのも現実だ。法政大学の生命科学部は「生命」と「地球環境」を研究の柱としながら、自立した科学者を育成するキャリア教育にも力を入れる。同学部の特徴であるキャリア教育への取り組みと科学教育についての考えを、生命科学部生命機能学科の川岸郁朗教授にお話しいただいた。

生命科学部ではどのようなことが学べるのでしょうか? 研究室の様子

川岸教授:生命科学部には、環境応用化学科と生命機能学科の2つの学科があり、どちらの学科も広い意味での「生命」「地球環境」を学びのテーマとしています。

環境応用化学科は、その名称の通り、化学技術を様々な形で環境に応用します。化学により新たな物質を作り出したり、環境を考慮した化学技術を開発したり、環境そのものを化学的に分析したり、環境と化学との調和に重きを置いた研究を行います。

生命機能学科は、さらに生命機能学専修と植物医科学専修の2つに分かれます。生命機能学専修は、ゲノム、蛋白質、細胞の3つに焦点をあて、分子レベルで生命を解き明かすことを目的とします。植物医科学専修では、植物が病気となる原因を解明し予防や治療を行う「植物医師」を養成します。植物が病気となる原因は、カビ、バクテリア、害虫など様々なため、植物の治療のみならず、他分野への応用・貢献も視野に入れた学びを展開しています。さらに、食糧問題など、文系的なテーマを学べることも特徴の一つです。

生命科学部の大きな特徴にキャリア教育がありますが

川岸教授:キャリア教育の取り組みの一つとして、インターンシップに力を入れています。環境応用化学科では、企業でのインターンシップとインターンシップ体験者および卒業生による講演会を行っています。植物医科学専修では、色々な研究所や農業試験場などに、学生を派遣して実務を学ばせています。生命機能学専修でも、研究所や他大学で研究ができるほか、必要に応じて外部の技術を学びに行く取り組みを行っています。

また、生命機能学専修では、2年生から研究室に配属し、研究実践を通じた指導を行っています。進路面談といった就職を意識した実践的なアドバイスに加えて、「大学での学習が将来どのように役立つか」ということを理解させるよう指導しています。

多様化した社会で研究者が自立していくためには、研究ばかりを追求するのではなく、その仕組みを解明し新たな発見へと結びつける広い視野と考え方が必須です。例えば流通系の業種では、店舗出店前のリサーチは必須ですし、失敗したときは戦略を練り直す必要があります。こういった思考プロセスは、研究と通じるものがあります。広い視野と考え方で研究に臨むことが、将来的に様々な分野で自立し、「持続可能な社会」の構築に貢献していくために役に立つということを学生たちに伝えています。

理系離れという問題についてはどのようにお考えですか?

川岸教授:色々な複合的要因があり、大学だけで解決できる問題でもないですし、社会の理解や就職活動の在り方などについても考えていかなければならないと思います。社会全体の科学や技術に対する接し方にも、疑問や不安があります。例えば、小惑星探査機『はやぶさ』が称賛される一方で、スーパーコンピュータが仕分け対象になりました。一部の科学は脚光を浴びるのですが、科学全体を見ると社会的関心が低い。これは由々しき事態だと思います。

教育的な面からの解決案として、座学だけでなく、比較的早い時期から実験などの実践的な学びを通して、科学に対する好奇心を高めることが必要だと考えています。技術を学ぶだけでなく、好奇心を引き出しつつ、論理的思考や表現力を磨いていく。このような実践的学習が理想であり、我々が目指すところです。

【プロフィール】

川岸郁朗(かわぎし いくろう)

1990年東京大学大学院理学系研究科博士課程修了、理学博士。米国エール大学博士研究員、名古屋大学理学部助手、名古屋大学大学院理学研究科助教授を経て、2007年より法政大学工学部生命機能学科教授。学部改組により、生命科学部生命機能学科生命機能学専修教授。