【インタビュー】日本生体医工学会 生体医工学科連絡委員会 林紘三郎氏−工学の立場から生命を守るエンジニア−|大学Times

大学Times Vol.5(2012年6月発行)

【特集】理工系特集 進学を選ぶ学生が増加傾向 理工系学部全体では約4割が大学院へ

科学研究の思考プロセスをキャリア教育に導入 広い視野を持つ自立した科学者を育成 法政大学 生命科学部

林紘三郎氏

日本生体医工学会 林紘三郎氏

近年、医療機器や装置が高度化し、医療現場では臨床工学技士やME技術者といった専門家が不足がち。また、医療機器関連企業でも、この分野の技術者を求めている。そのため、医学に工学的な手法・技術を取り入れた「生体医工学」を教育する学科を新設する動きが強まっている。

「生体医工学」とは、どのような学問か教えてください

林氏:病院では色々な機器や装置が使われており、それらが無いと医師は正確な診断や有効な治療ができません。また、病気の診断や治療を行うためには、生命現象や病気のメカニズムを知る必要があります。これらを実現するために、工学の知識と方法が大きな力を発揮します。

かつて、医学と工学は全く別の学問として捉えられていました。どちらも古くから人類にとって必要不可欠で、非常に重要な分野でもあるにも関わらず、両者の間のつながりはほとんどありませんでした。

医学では生命の神秘とそのメカニズムを明らかにし、そこから得られた知識を基に、何故病気がおこるのかを解明し、病気を治します。これらの目的を十分に果たすためには、基礎医学や生物学の知識に加えて工学技術が大きな力を発揮します。実際に昨今では、飛躍的に高度な先進・先端的な医療技術が生命を救いつつありますが、これを可能にしてきたのが工学技術の医学診断・治療への応用です。

「生体医工学」はどこで学べるでしょうか?

林氏:工学部や理工系学部の「生体医工学科」「医用生体工学科」「医用工学科」などで、生体医工学全般について体系的、系統的に学ぶことができます。また、工学部の従来の学科−例えば、機械工学科や電子工学科などでも、生体医工学の研究室が設けられている場合があります。しかし、そういった研究室では、生体医工学の中の個別の領域について学ぶことができますが、生体医工学の全体を知ることはできません。

「生体医工学科」「医用生体工学科」「医用工学科」などでは、医療機器や医用画像、人工臓器、福祉機器、医用ロボットなどといった領域を学べるとともに、研究・開発を行うこともできます。

「生体医工学」を学んだ人の進路には、どのようなところがありますか?

林氏:進路の一つは、「医療機器をつくる」というコースです。これは、企業や研究機関に入って、生体医工学の技術者や研究者として、医療機器の開発や製造に携わるという進路です。わが国は、世界有数の高齢化社会に入っており、この状態は将来も続くことから、医療費を低く抑え健康増進をはかることが非常に重要となります。そのためには、病気を早期に発見し、効率的に治療する必要があり、これに応えるような診断・治療機器を開発し、利用しなくてはなりません。また、一方では、がんや心臓病などのような難しい病気に対応できる高度な医療機器の開発も必要です。実際に、これらを利用する医用機器産業は急速に、しかも大きく伸びてきています。

もう一つの進路は、「医療機器を使う」というコースです。臨床工学技士(国家資格)、ME技術者(学会認定)として、病院などの医療機関に入って、医療機器や装置を操作・管理しながら、医師や看護師たちとチームを組んで患者の治療や診断にあたります。近年の医療機器・技術は飛躍的に高度になってきており、医師や看護師では対応することが難しく、医療現場では臨床工学技士やME技術者といった専門家が不可欠な状況になってきています。

実際、多くの病院や企業で、これらの技術者を採用する動きが活発になってきていますが、まだ技術者の数が不足しているというのが現状です。医学・工学両方の専門知識を持ったエンジニアは、今後さらに医療現場や企業から求められることとなるでしょう。

【プロフィール】

林 紘三郎(はやし こうざぶろう)

大阪大学大学院基礎工学研究科教授を経て、2005年岡山理科大学工学部教授、2006年医用科学教育センター所長、2007年工学部に生体医工学科が開設されると同時に学科長、2010年工学部長、日本生体医工学会生体医工学連絡委員会委員長。