【これから注目の大学の新制度】学生同士の支援や、学習・生活習慣管理で 質の高い学生を育てあげる仕組みが充実|大学Times

大学Times Vol.11(2013年12月発行)

【これから注目の大学の新制度】学生同士の支援や、学習・生活習慣管理で
質の高い学生を育てあげる仕組みが充実

大学全入時代を迎えた今日、大学は入学した学生をいかにして優秀な人材に育て上げ、社会に送り出せるかが一つの使命となっている。各大学は様々な制度により、学生の生活面や学習面の支援を行っている。今回は、面倒見のよい教育を実現する取り組みとして近年導入する大学が増えている「学習ポートフォリオ」、「ピア・サポート」の制度について改めて注目した。

学習ポートフォリオによる学習管理

従来の大学は、4年間で学んだ成果を、目に見える形で保存、あるいは確認するような仕組みがなかった。ただ授業を受けて単位を取得しただけでは、自分が本当に大学での学びを体系的に身に付けたかどうかが分からない。そこで、学習の成果の積み重ねを目に見えるようにし、しかも、学生本人だけでなく教員もそれを共有できるようにしたものが「学習ポートフォリオ」だ。

ポートフォリオとは、書類入れやファイルを意味する言葉だが、近年の大学では、学習の評価方法として用いられている。すなわち、学習成果であるレポートなどをパソコン上のファイルに入れて保存しておき、教員と共有するのだ。例えば、山形大学では、学生は「学習ポートフォリオ」により、Web上で履修状況を確認し、達成目標を参考に日々の学習を進める。各学期の始めに、「学習チェックシート画面」により前の学期の学習の振り返りと、各期の目標設定を行う。大学側は、これらのデータを把握し、学習目的に沿った適切な修学指導を行う。学生は学習ポートフォリオを完成させることで教育プログラムの修了要件を満たし、卒業が認定される。このように学習成果を可視化しながら学習を進め、学習意欲向上につなげる学習システムとなっている。授業科目ごとの目標を理解し、学習ポートフォリオによって学習到達目標を達成していくため、学生時代に学んだことが蓄積、発展していくのが自分で分かるのが特徴だ。教員にとっても、学生たちの学習到達度が分かり、学生に合った指導ができる利点がある。このような学習ポートフォリオは電子化も進んでおり、徳島文理大学では2013年度より、パソコンやスマートフォンを通じて入力・閲覧ができるようになった。

プライベートの管理を行う大学も

日々の学習だけではなく、学生のプライベートまでも含めた管理を目指す試みもある。金沢工業大学の「修学ポートフォリオ」だ。同大学では、新入生は入学直後から一年間、その週の優先順位や達成度、一週間の行動履歴や満足したこと、努力したことなどを記録し、修学アドバイザー(クラス担任)に毎週提出する。修学アドバイザーはコメントをつけて返却。これにより、自己目標の達成度を確認できるとともに、能動的な学習スタイル・生活スタイルを早期に身につける。「出欠席遅刻」の場合は科目名と理由、「学習」は科目名、資格名、時間数、「課外活動」は教育施設、クラブ活動、アルバイト、時間数、「健康管理」は朝昼夜の食事摂取、睡眠時間、積極的な運動時間、1週間で満足したこと、努力したこと、反省点、日常生活で困ったことなども事こまかに記入する。大学が学生を厳しく管理しているようにも見えるが、これは社会人になって自律した生活を自発的に送れるためであり、1年次にこれを実施した学生たちは、2年次以降は言われなくても規律正しい大学生活が送れるようになるという。こうした学習ポートフォリオの成果は、キャリア教育にも生かされており、就職活動の際に、自分が大学1年生からどう体系的に学んできたのかを、本人が正確に把握し、企業にPRできる。

従来、大学の科目履修は、大学側はほったらかしであり、学生は先輩や友達から「楽勝科目」を聞いてはそれを履修している例もあったが、それでは大学で本当に必要な知識が身に付く可能性は低い。過保護という声もあるが、全入時代の学生は全員が入学時に自発的な学習習慣を持っているとは言い難く、このように大学側が学生の学習を管理する必要性に迫られている。

学生同士で学び合うピア・サポートを教育カリキュラムに生かす

大学の授業は従来、教授が話すものを学生が黙って聴く講義形式が中心であったが、こうした授業のあり方に変化が生まれている。そのキーワードが「ピア・サポート」だ。ピア・サポートとは、学生同士で学習などを支援しあう仕組みのことで、特に2000年代以降、多くの大学で導入が進められている。愛知学院大学では2013年度より多くの学部でこのピア・サポートの仕組みを導入。鹿児島大学では、2012年4月から、学生の学生生活および修学上の支援を図ることを目的に、上級生が学生の目線で下級生にアドバイスを行うピア・サポート制度を実施。各学部から集まったサポーターが、ピア・サポートルームでの相談業務に加え、各種支援活動の企画・運営を行っている。

ピア・サポートなど学生同士で支援する制度の実施状況

正規のカリキュラムの中に活かされるピア・サポート

こうした動きは全国の大学に広がっているが、正規のカリキュラムに導入している事例が、徐々に増え始めている。例えば大阪経済法科大学では、必修の1年生のゼミは1クラス20人だが、専任教員のほかに、メンターという2年生以上の先輩2人と、サブチューターという専任職員が必ず付く。20人のクラスに4人の先生がいるわけだ。メンターの学生たちは合宿や研修もして、後輩を指導するノウハウを身に付けている。昨今は1年生からゼミがあると強調している大学が多いが、1年生の多くは割り当てられた教員から教育を受ける。その際に、自分に合わない教員のゼミに所属してしまうこともあるだろう。こうした際に、2年生の先輩が2人クラスにいることで、多様な人と接する経験ができ、学生の退学や留年といった学業不振に陥るのを防ぐ効果がある。

2・3年生の先輩学生を、1年生に対するSA(スチューデント・アシスタント)として授業で活用する仕組みも注目される。全員が1年次前期に「経営基礎演習」(1クラス16〜17人)というゼミに所属する創価大学経営学部では、2・3年生の先輩SAがグループ活動のサポートなどをする。さらに、1年生の個人ポートフォリオに、SAの学生がコメントを書き込むことも行っている。

ゼミごとに4〜5人のグループでプロジェクト学習をし、必ず2年生以上の先輩がSAとしてグループワークをサポートするのが、立教大学の経営学部だ。18人の先輩SAは毎年2月、3月に集まり、4月からの新入生ゼミでの教育のための合宿をして、教育内容の向上に努めている。教える体験をしたSAに対する企業からの評価は高く、就職活動でも高い実績を上げているSAが多いという。

近年の大学生は部活・サークル活動への参加が減っており、先輩・後輩と言った上下関係が少ないまま就職活動を迎えがちである。兄弟や親せき、地域の人々などとの人間関係も不足しがちだ。これらの大学で、ゼミにおいて先輩との交流があることは、新入生に社会的素養を持たせる効果がある。このような学びの環境を整える大学が増加しつつある。私立大学の多くは専任教員が少なく大規模な講義が多くなりがちだが、こうした学生活用型の授業はそれを補完する役割を果たしている。

学習ポートフォリオやピア・サポート導入の背景には、企業が求める人材像の変化がある。言われたことをやる社員から、自ら問題を発見し解決できる、言われたこと以上の仕事ができる人材へと、企業ニーズが変化しており、受け身ではなく能動的な学生でなければ就職はおぼつかない。こうした世相の変化に敏感に対応し、大学教育も様変わりしつつある。各大学の取り組みにはかなりの温度差があり、教育内容の差異化が進んでいるのが現状であり、教育内容で大学を選ぶ時代が、まさに到来してきているといえる。

渡辺敦司氏

【プロフィール】

山内太地(やまうちたいじ)

大学研究家・フリーライター・教育ジャーナリスト。理想の大学教育を求め,47都道府県14か国及び3地域の874大学1164キャンパスを見学。日本国内の4年制大学783校をすべて訪問(2012年度現在)。教育問題を専門に執筆活動等をする。高校生・大学生の進路指導から大学の経営・入試広報まで講演を多数実施。著書に『真実の大学案内』(東京図書出版会)、『下流大学に入ろう!』(光文社)など。
ブログ「世界の大学めぐり」
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