「地域志向」の大学を評価する仕組み 大学COC事業の意義と、高校生に与える影響|大学Times

大学Times Vol.12(2014年3月発行)

「地域志向」の大学を評価する仕組み 大学COC事業の意義と、高校生に与える影響

文部科学省により、52件の事業が地域活性化の拠点として採択された。拠点となった大学では今後、地域と連携した教育・研究が重点的に支援されていくことになる。進路を選ぶ高校生にとって、この事業にどのような意味があるのか。進路指導上、どのようにこれらの取り組みを活用できるのかを、制度の背景を含めて解説する。

大学COC事業とは?

「グローバル人材の育成」というフレーズが教育現場で流行している。例えば製造業を例にあげると、いまや商品をつくる工場も売る相手も開発途上国だ。モノやサービスがグローバル化していく世界で活躍する人材(=グローバル人材)がこれからは必要で、これを育てるためには語学力やコミュニケーション力の向上など、これまでとは違う教育が必要だと言われている。日本の市場が縮小する中、IT・情報産業や金融業、書籍や映像、ゲームを代表とするコンテンツ産業など、様々なビジネスが積極的に海外へ展開している。

このようなグローバル人材育成にスポットが当たる一方で、日本の国内も問題が山積みであることを忘れてはならない。経済のグローバル化に伴う産業の空洞化、少子高齢化、地方の過疎化など、様々な課題を解決できる人材が求められている。しかし地域と言っても経済状況、歴史や文化的な背景、立地的な要因など、各地で抱える事情は異なる。したがって解決には、地域に根ざし地元の企業や行政などと連携しながら、息の長い取り組みを続けられる教育機関が求められる。

後者のような地域の問題解決、地域活性化を担う大学(および短期大学、高等専門学校)を支援しようというのが、文部科学省が平成25年度から始めた大学COC事業だ。正式名称は「地(知)の拠点整備事業」。COCとはCenter Of Communityの略である。地域と連携して教育や研究を行い、地域の活性化に貢献する大学を補助金で支援するというものだ。もともと大学の役割は教育、研究、社会貢献の3つとされてきた。これらの活動を「地域との連携」という観点で評価しようというのが事業の趣旨だ。

事業の発端は、平成24年6月に文部科学省が発表した「大学改革実行プラン」にさかのぼる。これは少子高齢化や国際競争の激化、地方の過疎化など社会の展望を踏まえ、今後の日本の大学のあるべき姿について言及したものだ。この中で大きな柱の一つとされていたのがCOC構想だ。政権交代の後もこの構想が引き継がれ、大学COC事業として実現に至ったというわけだ。かなり長期的な視座に基づく計画なのである。

この事業の背景には、800校近くにまで増えた日本の大学に対し、個性に応じた役割を与えようという「大学の機能別分化」という考え方もある。世界的な研究成果を狙う大学や、高度な専門職業人を育成する大学、また教養を幅広く教える大学など、大学も役割を絞って個性化しなければ、少子化が続くこの先に生き残ることは難しい。今後時間をかけて各大学が自分達の歩む方向性を決めていくことになるわけだが、大学COC事業は「地域の拠点となる大学」として存続していくかどうか、大学自身が決めるきっかけにもなると期待されているのである。

大学COC事業は、今後の大学の存在意義を考え直すという、大きな意図を持った計画なのだ。
初年度となる平成25年度は、国公私立の大学・短大、高専あわせて合計319件の申請から52件が採択された。国立24件、公立15件、私立17件と、国公立機関の採択件数が際立っている。今回の審査では、パートナーとなる自治体との連携や、過去の取組実績などが重視されたという。そもそも各地域の教育・研究拠点という目的で設置された経緯を持ち、従来から地域で産学連携による教育や研究に力を入れてきた多くの国公立大学は、大学COC事業によって改めて存在感を発揮した形だ。

採択された大学の一例を下記にあげる。京都大学のように世界的な研究機関として知られる事例もあるが、多くは以前より地域密着型の教育を展開してきた大学だ。そして各大学が掲げているのは、いずれも地域の特色を活かした、あるいは地域が抱える課題解決のための取り組みである。

COC事業採択学校の一例 ※(株)さんぽうアンケート協力学校

COC事業採択学校の取り組み※(株)さんぽうアンケート協力校

地域や学生に与える影響

採択された大学では、学生が地域の様々な方と接しながら学ぶ機会が増えるだろう。

例えば小樽商科大学の「最低1週間の滞在を目指した総合観光地域の創出(仮称)」の場合、連携先となっている札幌市、小樽市、倶知安町、ニセコ町のエリアは、観光資源が各地に散在しているため観光産業が活性化されず、過疎化によって経済も停滞している。北海道が抱える課題が顕著に見られる地域だ。そこでこの事業では、これらのエリア全体を総合的な観光地域としてコーディネートし、1週間は滞在してもらうための施策を、地域間連携で創り出すと謳っている。そのために様々な課題研究や社会実験を通じて観光資源を発掘したり、観光客の長期滞在を促したりする仕掛けをつくっていくとのことだ。また人材育成のため、体系的な地域教育カリキュラムを学生に提供することも掲げられている。まさに大学が持つ研究・教育機関としての特徴を、地域の課題解決のために活用する事業であることがわかるだろう。

このように大学COC事業採択校の多くでは、地域で活躍する人材が学内で教育を担当するなど、地域への理解を深める授業が充実する。また学生が地域の課題解決のプランを企業や行政機関に提案したり、地域振興のためのプロジェクトを学生達で運営したりと、キャンパスの外に出て、地域の中で学ぶ機会も多くなることが見込まれている。

高校生・高校教員にとっての意味

ところで高校生や高校教員にとって、大学COC事業はどのような意味を持つのだろうか。この事業に採択された大学を進学先に選ぶことは、二つの点で大きな意味を持つ。

第一に、その地域への理解が深まるということだ。「できれば地元で働き続けたい」「公務員や専門職として地域に貢献したい」「地域が抱える問題を解決できる人になりたい」など、地域志向の高校生は以前から少なくない。都市部の出身だが地方の現状に興味がある、という高校生もいる。彼らにとっては、大学COC事業の取り組みを通じて地域に飛び込み、地域そのものを深く学ぶ経験は、仕事や生き方を考える上でも貴重な財産となるだろう。

第二に、学問と実社会の関わりを理解する機会になるというメリットがあげられる。上で紹介した小樽商科大学の事業をとっても、実際には地域経済、観光経営、物流や交通、行政との連携、広報やPR、マーケティングなど様々な学問分野が関係している。社会の問題を解決するためには、自分の専門分野だけ知っていれば良いというわけではない。立場や能力が異なるメンバーとチームを組み、力を合わせて物事にあたる力も必要だ。大学COC事業は地域というキーワードを入口にして、様々な学問の繋がりを理解し、他者との協働を学び、問題解決の力を身に付ける場でもあるのだ。

「やりたいことがない」「大学や学部の、中味の違いがわからない」などと進路選びに悩む高校生にとっても、大学COC事業で行われている授業や研究、社会貢献活動の内容は、具体的な取り組みとして理解しやすいものであるはずだ。漠然と学部・学科のリストを眺めるよりも、地域の中での学生の取り組みを説明されることの方が、自分の興味・関心や、将来のキャリアイメージを描く上で刺激となるかもしれない。大学COC事業の成果は学生の研究発表や地域公開講座、各種シンポジウム、ほか大学が発行する広報誌などで随時、発信されている。こうした機会を進路指導に活かすのも効果的だろう。

大学COC事業は、全国各地の都道府県でバランス良く採択されている。まずは地元の事業について調べてみる、あるいは学習の一環として生徒にリサーチさせてみてはいかがだろうか。

倉部 史記氏

【プロフィール】

倉部 史記(くらべ しき)

進路づくりプロデューサーとして、高大接続の支援活動を展開。企業広報の企画制作、私立大学スタッフ、大手予備校の主任研究員などを経験。高校生および保護者への進学指導実績も数多い。現在は執筆・講演活動や教育プログラムの開発などを通じて、進路に関する課題解決に従事。平日の大学の授業に高校生が参加するキャリア教育プログラム「WEEKDAY CAMPUS VISIT」をNPO法人NEWVERYとともに展開する。著書に『看板学部と看板倒れ学部』(中公新書ラクレ)など。