就職力の秘密は、日々の授業や研究にあり 社会人基礎力を育む理工系大学の取り組みとは|大学Times

就職力の秘密は、日々の授業や研究にあり 社会人基礎力を育む理工系大学の取り組みとは

2011年に大学でキャリア教育が義務化されたことで、現在各大学は様々な取り組みを行っている。職業観の育成や社会人になってから必要な基礎的能力の育成など、正課の授業や正課外の講座で学生への支援を行っている。キャリア教育のあり方は、その大学によって、また大学の学問系統によって様々である。その中で、一般的に就職が良いというイメージの強い工学系の大学では、キャリア教育をどのように考え、またどのような取り組みを行っているのか。キャリア教育に実績のある電気通信大学と芝浦工業大学の2大学にお話をうかがった。

【電気通信大学】
キャリア教育の目指すものは就職ではなく、学ぶ姿勢の獲得

1年生と3年生の学年横断教育でチームワークを学び、社会を知る

電気通信大学 情報理工学研究科 竹内 利明 特任教授

電気通信大学では平成25年度に必修科目として1年生と3年生が同じ教室で学ぶ学年横断教育を導入、「キャリア教育演習(1年生)及びリーダー(3年生)」を開講しました。この授業は三つのステップから構成されています。最初のステップは、1年生が大学生活に慣れることです。自己紹介、相互理解から始まり、3年生が1年生に学業、生活習慣等をアドバイスします。第2に、3年生が指導的な立場で学内の研究室を1年生と共同で調査して見学します。ここでは、大学で身につける専門性を1年生の段階から考えます。第3のステップは、1年生と3年生がチームを組んでプロジェクト活動を行います。チーム活動を通してコミュニケーション力やチームワークを学びます。テーマは「他人の役に立つこと」という条件だけで、各チームが自由に課題を設定して、プロジェクト活動に取り組みます。

さらに別な授業になりますが、夏休みに、将来の職業を考えるヒントを得るため、1、2年生を対象に企業や公的機関の事業所見学会を実施しています。今年度は48社に協力していただきました。各社共、基本的に本学の卒業生と懇談する時間を設けていただきます。学生はここで多くの気づきを得ることができます。

本学のキャリア教育の特長のひとつは、主に企業で役員や管理職を経験した方を特任講師に任用して、キャリア教育に協力していただいていることです。有償ボランティア的な位置づけで、交通費と若干の謝金をお支払いするだけですが、全授業に出席、小教室での講義を担当、学生のレポートにチェックしコメントしていただきます。約65名の熱意ある方が集まり、熱心に指導しています。この仕組みは10年近くかけて築き上げてきたものです。

学びへの姿勢と大学の成績が就職につながる

キャリア教育のあり方は、大学によって違いがあると思います。本学が目指すものは、学問に対する学生のモチベーションを高め、学ぶ姿勢を作ることです。ある大学の調査で、興味深いデータがあります。それは、理工系大学では、大学4年間の成績は1年前期の成績にほぼ比例し、1年前期の成績は出席率にほぼ比例します。さらに、理工系大学の特長ですが、大学の成績は就職と密接な関係があり、大企業への就職率と比例します。理工系の学問は積み重ねが重要で、専門科目の理解には基礎科目の理解が必須です。基礎からこつこつ学んできた学生でないと良い成績はとれません。したがって学生が授業や学問に真摯に取り組んでいけば、結果として就職に結びつきます。なお、それだけでは不足しているコミュニケーション力やプレゼンテーション力は、キャリア教育の授業が補完する役割を果たしています。本学のキャリア教育の効果は、大学院進学率が高いことも踏まえると、検証には時間がかかりますが、少なくとも、チームで働く力、コミュニケーション力を早期に鍛えるという点で貢献していると思います。以前、専門科目を担当する教員から「授業でグループワークを行うときに、昔はリーダーなど役割がなかなか決まらなかったが、キャリア教育が始まってからスムーズに決まるようになり楽になった」という話がありました。

キャリア教育は就職支援より、学びの意欲や姿勢と人間性を高めていく教育を目指すべきだと考えています。1年次から学業にしっかり取り組むため、生活習慣の指導にも力を入れています。自己管理ができる人間になるよう学生を促していきたいと思います。

【芝浦工業大学】
高い就職力を支えるものは、正課の授業・研究と
卒業生の社会での活躍と協力との融合

正課の授業・研究から生まれる就職力

芝浦工業大学 キャリアサポートセンター長 矢作 裕司 工学部 教授

企業に就職し社会で長く活躍していくためには、専門性や社会人基礎力が重要です。芝浦工業大学は、正課の授業や研究を通して、そのための基礎力を育んでいます。それは、本学の教育の特徴である「工学リベラルアーツ教育」です。

工学リベラルアーツとは、工学の専門的な知識や能力を社会で生かすための教養であり、現在のエンジニアに強く求められている資質です。通常の教養教育では、低学年次で完結しますが、芝浦工業大学の工学リベラルアーツでは4年間を通して、「専門科目を学ぶ動機づけや理解」「自らの意見で判断・発言・行動できる素養」、「問題解決能力」などを育んでいきます。

工学リベラルアーツ教育と並行して、工学リテラシー教育をベースに学ぶ専門科目の教育も展開されます。この二つの教育の柱が融合することで、問題解決能力やコミュニケーション能力、プロジェクト遂行力といった、社会に出てから不可欠な社会人基礎力を築かれます。さらに専門分野の知識や応用力も身につけられるのです。

近年の就職活動は一層厳しいものとなり、企業説明会の参加など就活が大学の授業の妨げになるケースが聞かれます。しかし、本学では、大学の授業で身につけるべき知識や能力の獲得を第一に考えています。セミナーや本学が主催する企業説明会などの就職行事は正課の授業や研究に支障がでないように、授業時間を避けて行っています。これが本学の就職力につながっていると思います。

卒業生の社会での活躍と協力がささえる就職力

本学の就職力は、数字にも表れています。2012年3月の本学の卒業生の就職率(就職者数÷(卒業者数−大学院進学者数))は89.9%で、大学通信の調べでは、卒業生1000人以上の大学の中では全国9位、私立大学だけの比較では4位にランクインしています。著名400社の就職率は21.7%で、こちらはすべての大学の中で27位、私立大学の中では11位で、工科系大学に限定すると7位の順位となっています。この点からも、本学は大企業に絞った就職率に関しても実績があります。

現在のように厳しい就職状況下で継続的に大企業への就職実績を維持していくためには、卒業生の社会での活躍(評価)と協力が不可欠です。

例えば、本学が主催する企業説明会では、卒業生が在職している企業が多く参加し、当日も卒業生が説明に来校してくれます。学生はより職業観を養成しやすいメリットがあります。さらに学内ネットワーク上に開設した就職支援システムCASTを通して、「卒業生サポーター制度」を設け、メールを通じて卒業生サポーターが在学生からの就職に関する質問・相談に応じていただいています。CASTは、他にも企業情報、説明会セミナー、求人の閲覧や、SPI、TOEICの対策講座など、学生への様々な支援を行っています。

現在、大学卒業者の約3割が3年以内に離職しています。本学は、単に「就職に強い」大学ではなく就職後5年後、10年後と活躍できる人材を送り出す「仕事に強い」大学と評価されるように、学生を育てていきたいと考えています。