【「スーパーグローバル大学創成支援」特集】SGUが進路指導に与える影響と文化|大学Times

大学Times Vol.16(2015年3月発行)

【「スーパーグローバル大学創成支援」特集】SGUが進路指導に与える影響と文化

大学関係者に衝撃を与えた「スーパーグローバル大学(SGU)創成支援事業」の意図について解説する。またSGU採択校の顔ぶれは、高校での進路指導のあり方に対して変化を促すものでもある。いま高校生達に伝えておくべきことは何なのか、全国で高大接続の実践に関わる人間として、筆者の考えを示す。

なぜグローバル教育が必要なのか

あなたが高校教員だとして、いま「幅広く教養を学び、チームを引っ張るリーダー」を目指す生徒と、「専門的な技術を身に付け、地域で活躍する専門職」を目指す別の生徒、この二人の進路指導を担当していたとする。「グローバル人材」になるための教育が必要なのはどちらだろうか。

今後の日本は人口減少や産業構造の変化などの影響を受け、GDP順位を現在の3位から8位にまで落とすと予測されている。経済縮小に対する処方箋の一つとして、政府が毎年20万人という移民の大量受け入れの検討に入ったという報道もあった。世界を相手にするグローバル・カンパニーの幹部候補生から各地で技術者や医療スタッフとして働く専門職、飲食店の店員まで、少しずつ私達の周囲に外国出身の方が増えていくだろう。

同じ技術者や医療専門職の中にも、海外のウェブサイトから最低限の専門知識を拾い出し、外国人の同僚や顧客と一定のコミュニケーションができる者がいる。一方でまったくできない、あるいはそういったニーズへの対応を考えていない者もいる。前者のような専門職を育成しようという大学には、一定の需要があるだろう。観光や美容、医療といった日本の高度なサービス業や、アニメなどコンテンツ産業で活躍するスキルを学ぶために、海外から日本の大学や専門学校に留学してくる若者も少なくない。

グローバルリーダーになるための教育が求められるのはもちろんだが、地域に根ざした人材や専門職にも相応のグローバル教育が必要になってきている。――したがって、冒頭の問いに対する答えは「おそらくどちらにも必要」だ。ただし、この両者に必要な教育は、同じではない。

SGU創成支援事業とは

文部科学省が昨年9月に発表した「スーパーグローバル大学(SGU)創成支援事業」は、その趣旨や支援額の大きさなどから注目を集めている。「世界レベルの教育研究を行うトップ大学や、先導的試行に挑戦し我が国の大学の国際化を牽引する大学など、徹底した国際化と大学改革を断行する大学を重点支援することにより、我が国の高等教育の国際競争力を強化する」(文科省)ことを目的に掲げた事業で、「トップ型」の採択校には年約4億2千万円、「牽引型」には約1億7千2百万円の補助金が給付される。この2種類の意図は、少々異なる。

トップ型は、「もともと世界水準の研究力を持つ大学に、急いで国際化を進めてもらうための支援」と言える。東京大学、京都大学などの旧帝大や早慶など、日本屈指の研究実績を持つ大学13校が選ばれた。研究水準の高さのわりに、これまで世界の大学ランキング等で日本の大学の順位が伸び悩んできた、その大きな理由の一つが国際性に対する評価の低さだった。昨年10月に発表された「The Times Higher Education」2014年のランキング結果でも、たとえば59位の京都大学は「国際性」の指標が著しく低いために、43位の香港大学の後塵を拝している。外国人教員や留学生の比率を上げるとともに、日本から留学する学生の比率を高める。そのために英語での授業を増やす。全学を挙げてそうした環境を整備することで、世界全体における日本の大学の存在感を高めようというわけだ。したがってこのトップ型では、大学院レベルでの取り組みも多い。

一方の牽引型は、グローバル教育の分野で既に先進的な取り組みを行い、成果を上げている大学を支援する仕組みだ。こちらには千葉大学や岡山大学など地方の有力国立大学、上智大学や法政大学、立教大学などの総合大学などが名を連ねる。

すべての授業を英語で行い、一年間の海外留学を全学生に義務づけている国際教養大学や、外国人教員比率の高さで知られる会津大学など、牽引型に採択された大学の中には、以前から教育関係者の注目を集めていた地方公立大学も含まれている。東京芸術大学や芝浦工業大学、長岡技術科学大学といった単科大学が牽引型として採択されている点も興味深い。

SGU採択校の顔ぶれが意味する、
進路指導の変化

一般に「グローバル人材」と聞いて、高校生をはじめ多くの方が連想するのはグローバル・リーダー、またはグローバル・ゼネラリストだろう。留学経験があり、英語など外国語に堪能で、様々な国のメンバーとのコミュニケーションができ、未知の分野に飛び込んで新規の事業を開拓していくような人材である。その一方、冒頭でも述べたように、法律や科学技術、医療、経営といった専門分野の体系的な知識を持ち、実務面で国際的な仕事を担える「グローバル・スペシャリスト」の需要も確実に増えていく。

今回のSGUに選定された芝浦工業大学は、理系の大学がグローバル人材育成の観点で本格的な取り組みを始めるという点で象徴的だ。芝浦工業大学では2013年から2023年までの間に、教員における外国人等の比率を25.2%から60%へ、外国人留学生の割合を1.5%から29.4%へ、日本人学生に占める留学経験者の割合を1.5%から100%へ、それぞれ上昇させることを掲げている。「全員が留学を経験する工業大学」というビジョンは、高校教員にとっては衝撃的かもしれない。しかし実のところ、既に芝浦工業大学のような工科系大学の卒業生にはメーカーの技術者として海外の開発拠点で働いたり、海外工場でマネジメントにあたったりしている例が珍しくない。理系の大学がグローバル教育に注力するのは、そうした社会の実情に即したものと言える。

これまで「国際的な人材」と言えば、主に文系の高校生が「英語が得意だから」という理由で外国語学部や国際系学部へ進学し、留学するようなイメージだったかもしれない。逆に理系の生徒には、英語に苦手意識を持っていたり、他者とのコミュニケーションを避けたがったりする傾向も見られた。高校での進路選択のあり方と、実際の社会のニーズの乖離は、以前より少しずつ始まっていたのである。しかしSGU採択校の顔ぶれを見る限り、今後、高校側も少しずつ認識を改めて行かざるを得ないだろう。

筆者は年間を通じ全国の高校から依頼を受け、進路について生徒向けの講演を行っているが、昨年中にさっそく地方の公立進学校から「SGUに採択された大学について、生徒に話してほしい」というリクエストを受けた。前述のような社会の変化を見据え、生徒達の視野を広げたいと思い、その高校はSGUに着目したというわけだ。ゆくゆくは企業の採用活動などにも影響が出てくるだろう。すべての高校生にSGUを進めるわけではない。しかしSGUの取り組みが、進路選択に悩む高校生に対して気づきを与えてくれることは確かである。

倉部 史記氏

【プロフィール】

倉部 史記(くらべ しき)

進路づくりプロデューサーとして、高大接続の支援活動を展開。企業広報の企画制作、私立大学スタッフ、大手予備校の主任研究員などを経験。高校生および保護者への進学指導実績も数多い。現在は執筆・講演活動や教育プログラムの開発などを通じて、進路に関する課題解決に従事。平日の大学の授業に高校生が参加するキャリア教育プログラム「WEEKDAY CAMPUS VISIT」をNPO法人NEWVERYとともに展開する。著書に『看板学部と看板倒れ学部』(中公新書ラクレ)など。