【対談】滋慶医療科学大学×香里ヌヴェール学院 中学校・高等学校|大学Times

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大学Times Vol.44(2022年4月発行)

【対談】滋慶医療科学大学×香里ヌヴェール学院 中学校・高等学校

2021年に開学した滋慶医療科学大学は、高度な医用工学機器の操作や管理を行う臨床工学技士を育成する単科大学だ。今後テクノロジーの進化とともに変容していく医療分野の未来と今後の人材育成について、学長・千原國宏教授と吉田靖教授、そして香里ヌヴェール学院 中学校・高等学校校長の池田靖章先生に大学側・高校側それぞれの視点で話を伺った。

千原 國宏 滋慶医療科学大学学長

千原 國宏 滋慶医療科学大学学長

大阪大学基礎工学部制御工学科卒業、大阪大学大学院基礎工学研究科博士課程修了(物理系制御工学専攻)。大阪大学助教授、奈良先端科学技術大学院大学教授などを経て現在に至る。専門は計測工学、医用システム、知識情報処理関連。

吉田 靖 滋慶医療科学大学教授

吉田 靖 滋慶医療科学大学教授

関西医療検査大学校卒業、大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻博士後期課程単位取得退学。大阪大学准教授、森ノ宮医療大学客員教授などを経て現在に至る。臨床工学技士の資格を持ち、専門は体外循環医学、人工臓器学など。

池田 靖章 香里ヌヴェール学院 中学校・高等学校校長

池田 靖章 香里ヌヴェール学院 中学校・高等学校校長

京都教育大学大学院卒業後、10年間の私学教員を経て現在に至る。これまでの枠にとらわれない進路選択やグローバル進学を提唱し、教育現場の改革に寄与。著書には『総合的な探究ワークブック』(学事出版)、『SDGs探究ワークブック』(noa出版)などがある。

コロナ禍における医療業界の変化と
臨床工学技士の重要性

池田 これから正解のない時代がやって来るにあたって、高校生は進路に対してどう考えていくべきか、岐路に立たされています。コロナ禍によって大きく変化しているであろう医療業界、実際はいかがですか?

千原 実際、最新の医療機器や救命装置の設置・操作・開発ができる有能な人材が不足している状況に変わりありません。ただ一つ言えるのは、今後さらに医療機器が膨大な数に増えていくということ。AI化が進むことで、機械の取り扱いは容易になると思われるかもしれませんが、異常が出たときや改良が必要なとき、中核であるコンピュータを理解する“人の力”が必ず必要になってきます。それが、私たちの育成する臨床工学技士が担う役割です。

吉田 臨床工学技士は医学と工学両方の知識を持ち合わせていて、取り扱う領域も広く、常に変化を続ける医療業界には不可欠な職能です。しかし、臨床工学技士自体の歴史はまだ30年と浅く、一般の方には認知が行き届いていないのが現状。医療施設に配置されている技士の数もまだまだ十分ではなく、最新機器はあるのに扱える人がいないため放置されてしまっているというケースも少なくありません。

池田 AI化が進むにつれて、ますます臨床工学技士のようなエンジニアが必要とされていくわけですね。例えば「ECMO(体外式膜型人工肺)」は少し前から耳にする機会が増えたように思いますが。

吉田 はい。コロナ医療で注目された「ECMO」ですが、大分県内では取り扱える人が10人に満たないと言われています。そういった状況を改善しようと、大分大学では臨床工学技士の育成プログラムを作る動きが始まっています。

千原 臨床工学技士は資格を取って終わりではないんですよね。新たな医療機器が開発されるたびに、それに伴う知識を習得する。医療職種はすべてにおいてそうですが、臨床工学技士は特にその習得速度が求められていると思います。なぜなら、自分が習得するだけでなくその知識を人に伝えていく必要があるから。チームに共有する力も重要な能力なんです。

テクノロジーが進む医療分野で
治療に関与できる数少ない存在

池田 高校生は最新の医療現場というものを知る機会がなかなかなく、職業イメージも昔のままです。今後はさらに高齢化が加速していって、“2040年問題”なども叫ばれていますよね。医療技術や臨床工学技士の存在はもっと身近なものになってくるでしょうか。

千原 携帯電話を想像してみてください。30年前には考えられませんでしたが、今では一人一人が端末を持って自由に電話をかけられるのが当たり前の時代。医療機器も同じく小型化し、個人用になり、臨床工学技士の存在が身近に感じられるようになるでしょう。

吉田 例として、植込み型の人工心臓というものがあります。これまでは体外式で、洗濯機ほどの大きさがある機械を使っていたので、入院が必須でした。ところが植込み型はバッテリーと操作パネルが付いていて、患者さんは機械を繋いだまま自由に生活することができます。同時にご自身で操作や管理をしてもらわないといけないので、機器としてはより簡便に、そして安全性を高めていくのもエンジニアの重要な仕事です。機器の発達や進化によって、医療の幅を広げられること、一人でも多くの患者さんの生活を支えることが臨床工学技士のやりがいと言えますね。

千原 これがまさに遠隔医療です。医療現場は、いまや病院だけではなく社会全体なのです。臨床工学技士の中には、その専門知識を活かして、医療機器メーカーに勤めてその開発に携わっている人もいます。

池田 医療関連施設だけでなくメーカーという進路選択もあるんですね。臨床工学技士が医療機器の開発に携わるというのは、よりニーズに沿った的確なものが作られるような期待感があります。あまり馴染みがない職業だと思っていましたが、私たちの生活や将来に大きく関わっていることがわかってきました。

千原 臨床工学技士は治療に関与できる数少ない存在なのではないかと思っています。他は検査や診断、リハビリの分野が多いですからね。実際に病気を治す過程だからこそ、今はまだほとんどの人に馴染みがないのではないでしょうか。

医療業界を目指す高校生へ
臨床工学技士という進路選択

池田 高校では、資格を取りたいという生徒に対して、医療分野について完全に把握しているわけではない教師がアドバイスをしていくので、進路感が漠然としてしまいがちです。まず、学びの場として専門学校ではなく大学である意味や強みを教えてください。

千原 アメリカでは、メディカルエンジニアは大学院を卒業しないと取得できない分野です。それほどに知識も能力もいる仕事で、医療現場では医師を差し置いてチームのトップに立つこともあります。日本でもその水準を目指したい。実際のところ、専門学校や職業訓練校として臨床工学技士の育成を行なっていた頃よりも、国家資格取得に必要な履修単位数が増えました。医療技術の向上や扱う機器が増えたのだから当然ですよね。

吉田 学校教育で機械の知識を身に付けるだけではただの操作者になってしまいます。そうではなく、そのときに合った機器の使い方や応用ができるようになるためにも、周りの環境や医療全体を把握するには専門学校ではなく大学である必要を感じています。

池田 なるほど、テクノロジーを扱うための学問領域が必要で、大学院も含めた大きな視野で捉えることが20~30年後の医療現場にとって重要なんですね。では、どんな学生が臨床工学技士に向いていると思いますか?

吉田 臨床工学技士は、多職種の中で業務を遂行する仕事です。医療現場ではコミュニケーションが必須で、現状を伝える力、伝えられたことを把握する力、気付ける力が大切。一つのことに集中する力ももちろん必要ですが、周りのことに対しても興味を持てる方が向いていると思います。

千原 高校生の時点で“将来こうなりたい”というクリアなイメージがなくてもいいです。なにが大事かというと、くじけない心。医療職や臨床工学技士に興味さえあれば、必要な知識や能力は本学で教えます。高い壁だと思わずに、挑戦してほしいです。名前に“工学”と付いていますが、文系・理系も関係ありません。いわゆる文系生徒が学んでいるような対話力・コミュニケーション力も活きるし、機械好き・ロボット好きな理系生徒も大歓迎です。

池田 大好きなロボットを開発したり動かしたりして医療に役立てるなんて、素敵な仕事ではないですか。テクノロジーが発達する未来の医療業界、臨床工学技士はもっと注目されるべきですね。