連載シリーズ高等学校インタビュー③
セカンドキャリアを見据えた“女性アイドル”“ゲーム制作者”への道を高校が応援。長野発・世界で活躍する人材育成とは
~佐久長聖高等学校~

大学Times Vol.47(2023年1月発行)

【連載シリーズ】高等学校インタビュー③ 佐久長聖高等学校

2023年4月、長野県の佐久長聖高等学校に新しいコースが誕生する。ゲーム制作者を養成する「ゲームプログラミングコース」(Gコース)と、「パフォーミングアーツコース」(Pコース)の初年度は女性アイドルに限定し育成に乗り出す。これまでも駅伝や野球など、スポーツ分野の活躍で全国的に知られる同校の挑戦はどこにあるのか、佐藤康校長に話を伺った。

佐久長聖高等学校 校長
佐藤 康(さとう やすし)

「頑張って努力すれば世界が手に届く」
卒業生の活躍が生徒たちの刺激に

世界の時価総額ランキングの推移などから日本の国力の低下が指摘されて久しいですが、今日、経済を動かすためには日本のどこにいても“外国人との接点”が不可欠です。本校では人材育成を通じて地元・長野県を盛り上げ、ひいては日本を盛り上げるべく、「世界で活躍できる人材を育成したい」という目標がまず根底にあります。これまでもスポーツを通じて世界に挑戦する卒業生の活躍があり、マラソンの日本記録保持者・大迫傑選手や平昌五輪金メダリストの菊池彩花さん(スピードスケート女子団体パシュート)など、生徒たちは目標となる先輩の存在から良い刺激を受けてきました。すでに今年度、柔道部からは「柔道グランドスラム東京2022」に日本代表選手として1名、留学生1名がモンゴル代表として出場しています。本校のスローガン“世界の佐久長聖へ”という目標を、全校挙げてめざしていきたいという思いです。この度新たに「ゲームプログラミング」と「パフォーミングアーツ」の2つの分野から、将来的に世界で活躍できる人材を育成するべくコースを新設いたしました。

人生100年時代はセカンドキャリアが必然に
“学業”と“専門教育”の両面で生徒を支援

日本のエンターテインメント業界は大きな変革期にあり、その中核を担っていたCDなどのレコード産業は、2000年代から業績が下降しています。楽曲購入はダウンロードが売上を伸ばし、多くの若者はCD購入をしていません。一方で韓国が国策として取り組んでいるK-POPは成功事例が相次ぎ、世界的なビッグビジネスに成長しています。一般的に華やかな世界で活躍できる年齢には限りがありますが、多くのK-POPタレントは語学教育など学業をしっかりと修めたうえで、音楽活動を行っているのだそうです。人生100年時代を鑑みても、セカンドキャリアを見据えながらエンタメ業界で活躍できる人材を育成することが重要であり、そのためには学校での勉強をしっかりと身に付けたうえで、ダンスや歌唱レッスンなど専門教育を支援すべきではないか、という思いに至りました。このように本校が新たな一石を投じることで、ひいてはエンタメ業界の活性化に寄与できればと考えています。

ゲーム業界も変革期という点では同様です。TVに繋いだ専用機器に専用ソフトを購入する初期のゲームから、スマートフォンによるダウンロードゲームが主流となった背景は、音楽ソフトの変遷と似通っています。IT技術の発展と共に、今後も変革を繰り返すことでしょう。現在はさまざまな産業においてプログラミング人材が不足する中、セカンドキャリアを見据えた学校教育と共に、ゲームプログラミングが好きな生徒、得意な生徒の可能性を育てていきたいと考えています。

GコースはⅠ類・Ⅱ類の両方で生徒募集
進路の幅を広げて具体的な将来像を育む

「ゲームプログラミングコース」については、Ⅰ類、Ⅱ類の両方で募集を行います。Ⅰ類は従来の「最難関大学への進学」を目標として、情報系学部・学科を視野に入れ、Ⅱ類はゲーム制作やプログラミングの仕事に就きたい生徒を支援することを想定しています。放課後には毎回専門家(株式会社フィーニックス)の指導を受けながらゲーム制作に必要な知識を身に付け、3年間で全員がインディーゲーム開発をゴールに設定しています。卒業後はさまざまな選択肢があり、海外大学への留学や、3年間の学びを足掛かりに大学で成果を挙げる生徒もいるでしょう。各々の設定したゴールに向かって、本校では最適な環境を提供できればと考えています。専門教育については、高校の授業終了後、部活動の時間に行う予定です。

さらに数年後には、小学校でプログラミングを必修科目として習った子どもたちが入学する時期を迎えます。その授業が楽しかったという生徒の受け入れ先として、本コースが順応できればという展望も持っています。

高校内での女性アイドル育成は安心感などのメリットが大きい

近年、日本のエンタメ業界においていわゆる女性アイドルグループの隆盛が続いています。“AKB”グループから“坂道”グループへの広がりは、一時のブームに留まらず、「推し活」の言葉とともに「皆で楽しめるもの」として市民権を得たという認識を持っています。男子よりも女子の方が希望者も多いのでは、という考えから、「パフォーミングアーツコース」初年度は女子20名の募集といたしました。放課後の時間に専門家(コースの運営は、総合エンターテイメント企業オルファスと連携)を招き、高校内でのレッスンを予定していますので、保護者の方にとっても「高校で活動できる安心感」を得ていただけるのではないかと期待しています。放課後や休日に個人で民間スクールへ通うよりも、「やってみたい」という、潜在的に興味を持っていた生徒にとっても参加しやすい環境ではないでしょうか。首都圏まで新幹線で1時間という地の利を活かし、具体的には、地域に根差した「ご当地アイドル」の活動なども想定していますが、将来的に長野県から「TEAMNACS」のようなユニットが誕生すれば、と期待しています。大学進学を視野に入れ、女性アイドル育成のレッスンと両立させていきます。

学校生活を楽しみながら視野を広げ多くの選択肢から活躍の道筋をつける

本校ではこれまでも「スペシャルカジュアルデー」など、生徒が学校生活を楽しむための催しを行ってきました。本校生徒ひとりひとりに「楽しい」と思ってもらえることが何よりも大事、という思いからです。次年度からの2つの新コースは共に、高校生にも身近で興味深い分野であり、本校全体に良い効果を与えてくれると確信しています。進路選択が増えることで将来像の視野が広がり、自らの可能性と向き合ってくれることを期待して、支援してゆく所存です。

勿論、在学中に成果を挙げられればそれに越したことはありませんが、本校卒業後の道を高校でつけていくことも重要です。高校卒業がゴールではないという点は、駅伝や野球などの強化スポーツ部と同じです。生涯のキャリアを考えて広く進路選択ができるように、本校がその環境を提供できる場でありたいと考えています。

これからは、ますます自主性や自律心をもつことで人生を楽しく、活動も変わっていきます。「目的を持つこと」で、目前のつらいことも楽しく乗り越えられるかもしれません。そのためには、自分自身で目標を設定することが前提となりますが、本校はその目標を応援していこう、その先に世界が見えてくればと考えます。さらに新しい2コースが、地元小中学生のキャリアデザインや目標のひとつになれば、と願っています。