データサイエンス特集スペシャルインタビュー
10年後は「なりたい職業」No.1に?将来性のある仕事・データサイエンティストとは
~データサイエンティスト協会~

大学Times Vol.49(2023年7月発行)

【データサイエンス特集】スペシャルインタビュー データサイエンティスト協会

データサイエンス特集

「データサイエンス」という言葉が世間に浸透しつつある。2025年度の大学入学共通テストから「情報Ⅰ」が加わり、東京23区の私立大学に課せられていた定員厳格化もデジタル分野は対象外となった。文理融合の学問領域であり、データ分析人材の育成が急務とされている。今回は(一社)データサイエンティスト協会の3名に、職業としての魅力や将来性について伺った。

一般社団法人データサイエンティスト協会

●理事 調査・研究委員長 塩崎潤一(株式会社野村総合研究所)
●企画委員長 倉本秀治(TIS株式会社)
●学生部 関根伸吾(ネイチャーインサイト株式会社)

2013年設立。データサイエンティストに求められるナレッジやスキルの定義、実態調査、ガバメントリレーションを含む情報発信、セミナー・トレーニング・検定プログラム等の提供、他団体との協業などを通じて、データサイエンティストを取り巻く環境の整備を実施。コミュニティ活動などを通し、データサイエンティストやそれを目指す学生や採用する企業、育成する教育機関交流し、業界の発展に貢献する。129企業・団体・大学で構成。

データサイエンティストの認知は大学1年生は「高校時代から」

塩崎「当協会では毎年、日本国内の大学生・大学院生600名を対象としたデータサイエンティストについてのアンケートを実施しています。認知度について、最新の集計データは前年を5ポイントアップし、高まりつつあることが解りました。特に文系学部の学生でも「よく知っている」との回答が上昇しています。さらに、データサイエンティストを知ったのはいつ頃からか、との問いに対し、大学1年生の「高校時代から」との回答が43%と、上級学年と比較して最も多くなりました(下図参照)。データサイエンティストという職業が、浸透しつつあると認識しています」

「将来性がある」職業イメージをデータサイエンティスト自身が実感

塩崎「その一方、データサイエンティストの職業イメージを、大学生と当協会の一般会員に尋ねて比較したグラフ(下図参照)では、「将来性がある」というデータサイエンティストの回答(60%)と大学生の回答(14%)に開きがありました。実際に就業しているデータサイエンティストが実感する“未来は明るい”というイメージが、今後大学の【統計学】や高校の【情報】の授業を通じて学生の皆さんにも伝わるといいなと思います」

中学生が“データサイエンスの使いこなし”に触れる取り組みに協力

倉本「『夢★らくざプロジェクト』からの依頼を請け、当協会の学生部が中学生向けのセミナーを企画し、実施しています。データとは?から始まり、データを扱うとこんないいことがあるという具体例として、“コンビニエンスストアの出店条件”を一緒に考えるグループワークを行っています。現在は首都圏中心に、当協会の学生部メンバーが月2回程度、ボランティアで訪問していますが、高校生向けのセミナーについては今後、当協会でも検討したいと思います」

関根「本セミナーは、データサイエンティストの職業体験として実施しています。プログラミングを教える前に、「なぜ、データ分析が必要か?」の事例として、“コンビニエンスストアをどこに建てれば売り上げが上がるか?”について、仮説をもってデータを見て、グループで検証してもらいます。たとえば「駐車場が広い」「駅から近い」といった仮説に対し、データを一つずつ見ていくと、中学生も“仮説思考して正解にたどり着くこと”が出来るようになります」

データサイエンス=数学ではない
データ分析なくして世の中は回らない

塩崎「データサイエンスは文理の垣根を越え、理系の学問ではないことを先ず理解してほしいです。統計学だけでなく、文系の法学や経済学、最近はスポーツアナリティクスでも活用されています。私が学生の頃はSE(システムエンジニア)という仕事はなかったのですが、10年後には人気職業の1位になりました。データサイエンティストも10年後、確実に上位になると確信しています」

倉本「データ分析は難しい、と思うかもしれませんが、今やデータなくして世の中が回っていかないというくらい、たくさんのデータが存在しています。私の職場はSIer(エスアイアー:システム構築サービスを行う企業)ですが、データサイエンティストの3~4割は文系出身者です。社会で働くには文系理系の区別などありません。身近に感じて勉強することが重要です」

関根「データ分析はチームで行います。ビジネス力、データサイエンス力、データエンジニアリング力といろいろな領域があり、数学以外でできることがたくさんあるのです」

データサイエンティストは女子力と親和性
居住地域に関係なくクリエイティブ

塩崎「現在、データサイエンティストの女性比率は1割ほどですが、女子力が活かせる仕事でもあります。たとえば、化粧品の消費者分析などは利用する女性の視点が不可欠であり、仕事にきめ細やかさが求められるケースも少なくありません。コロナ禍以降、データサイエンティストの仕事量の増減についてアンケート調査を行いましたが、テレワークになっても仕事自体は増加していることが分かりました」

倉本「データサイエンスの課題を解くコンテストを開いたとき、地方在住の大学生で優れたデータ分析を行える人がいました。データさえあれば、どこでもできる職業です。中央に住む必要もありません」関根 「私の職場はフレックスタイム制(1日の労働時間をクリアすれば始業を早めたり遅くできる働き方)です。データ分析の結果が出せず、夜遅くまで仕事をするなど大変なこともありますが、それだけに醍醐味もあり、やりがいを感じます」

高校の「情報教員」不足問題もデータサイエンティストが解決可能に

倉本「高校の情報科目の教員不足について、データサイエンティストが企業に在籍しながら教えることもできると思います。クロスアポイントメント制度を上手に活用して、高校生にデータサイエンスの魅力を伝えたい。その前提として、先生方もテスト結果などのデータを扱ってほしいです。それが教育現場の資本となり、高校生にデータ分析の楽しさが伝わると思います」

塩崎「先生方もデータサイエンスについて学んでほしいです。今後、人気が高まる職種になると思うので、データを分析する楽しさを知っていただきたいです」

関根「データサイエンスの身近さ、おもしろさを、先生方に率先して伝えてほしいと願っています。」

データサイエンティスト養成は喫緊の課題だが、教育現場は今、どのように取り組んでいるのだろうか。2面からの各大学のインタビューを御覧いただきたい。