【これからの日本を変えるこの分野 女子美術大学 芸術学部美術学科芸術文化専攻】|大学Times

大学Times Vol.13(2014年6月発行)

【これからの日本を変えるこの分野 女子美術大学 芸術学部美術学科芸術文化専攻】芸術を制作ではなく、理論を学ぶことで表現力を高める

開学から100年以上に渡り、アートシーンの最先端へ人材を輩出し続けてきた女子美術大学。今年4月に開設された「芸術文化専攻」は、創作ではなく芸術理論を多角的に学び、その知識を応用させ異分野においても活躍できる人材の育成をめざしている。この専攻の目玉である色彩学をご専門の坂田教授に心理学的見地から学ぶ興味深い“色”の効力について伺った。

美術を作品から捉えるのではなく作り手の背景、時代、文化を学び心眼で味わう

美大への進学者が減っている!?
今、求められいる色彩学の知識

美大への進学者が減っている!?今、求められいる色彩学の知識

今年4月に開設された「芸術文化専攻」は、従来の美術理論系の学科とは一線を画すという。現在、文部科学省の方針で美術を課程からはずしている高等学校が多く、美大への希望者が減っているのが現状である。芸術系に進む人は工学系のデザイン科や家政系の工芸デザインなどは進むことが多い。しかしながら、工学系や家政系の大学では美術を理論的に教えられる教師が少ないそうだ。美術を理論的に教えられる人材の育成という背景がこの学科専攻にはある。さらにこの芸術文化専攻の大きな特徴は、色彩学を専門的に学べるということだ。現在、色彩検定やカラーコーディネータの資格取得があらゆる部門で重宝され、学びたいと考える人は多い。

芸術文化専攻はこの色彩学と美術史、美術理論の3つの柱に学んでいく。コアとなるのは作品を作る技術や材料ではなく、作った人を中心にして、その時代背景、風土、文化を学び、現地に行ってその空気を感じ、総合的に理解を深めていく手法だそうだ。

作家の足跡を追って現地へ
研修旅行で学ぶものは

坂田教授はこの学科で作品に限定した教え方を極力排し、その作品を生みだした作家の色づかいから、どのような時代を生きて、どういった文化背景があったのかということを学生たちに伝えようとしている。

「たとえば英国ではじめて赤紫の人口染料ができたのは19世紀で、ビクトリア女王は自分の戴冠式にその人口染料で染めたマントをまとって参列したとか、そのような史実を踏まえていくと、色彩が世界や社会に対してどのような影響を与えてきたかがグローバルに理解することができるんですね」と話す。また、主に視覚に頼って生きている人間にとって色は、世界的にも様々な意味を持つ、と坂田教授は言う。

「たとえば同じスープを何人かが飲んで、味の印象が違うように、太陽や照明の光の 色もみんなが同じように見えているとは限らないのですね。欧米人と日本人では青の見える色合いが違うと言われています。実際にサンプルを採ってみると欧米の青は緑寄り、日本の青は染料の藍をよく使っていたから若干バイオレット寄りになるとのデータがあります」

こうした違いなども確かめに、作家の足跡が残る土地へ行き、言語や文化などに直接触れて美術を学ぶことが「海外芸術研修」である。座学だけに留まらないメソッドが学生たちの理解を深めるだろう。

色はあくまで人間の感覚
色で心理的コントロールできる

色はあくまで人間の感覚 色で心理的コントロールできる

色彩学はニュートンとゲーテの二大巨頭によって研究がはじめられた学問で、色彩工学と色彩心理学のふたつに大別できるという。ニュートンを原点とする色彩学は主に印刷や塗料、照明などの色彩工学とゲーテに端を発する色彩心理学である。色彩心理学が専門の教授は"色は心理現象である"とおっしゃる。

色彩学のオーソリティである教授は、色が人間に与える影響を、カラーデザイナーとして企業で研究し、道路標識やインフラ施設の操作パネルなどの色を心理学の調査に基づき考察し、災害や事故を防止するための効果的な色を抽出してきた実績もある。「色は様々な情報を発信しますが、色というのは、物体の属性ではなく、私たちの頭で感じている感覚なんですね。ある物体があって、そこに色が付いているように見えるのですが、実は物体に色はありません。色は光が当たって反射して私たちの眼に入って脳で感じているんですね。だから照明が変わると色が変わってみえるわけです」と、色の意外な本質に言及する。常に人間の意識とつながっている色は、洋服や家電製品などのマーケットの売上も左右するという。

「色は感覚ですから、人の心に直接アプローチすることができます。だからある色を見て、機能やデザインが少し劣っていてもカワイイ、カッコいいと思うことは、その人の心を直接コントロールすることになるので、非常に価値が高いんです」。こうした現象は教授の研究領域で、一般的にも認知されてきており工業、医療、教育の分野からも色彩学の知識を持った人材が求められている。

「美術やデザインに関わる人たちにとって感性に訴えかけることは最も重要な要素です。だからこそ、感性に訴えかけるために色が見える仕組みを理解しておかなければならないのです」と教授は色彩学を学ぶ意義について説明された。

美術理論系は就職が難しいのではないかという懸念もあったが、教授の色彩学の話を伺い、企業や店舗、学校、役所、警察などのあらゆるところで色彩学の知識は大いに役立ち、世界の歴史や文化を学ぶことで今求められているグローバルな感覚も磨かれるということが理解できた。

日本のココが変わる

久保正秋博士

どちらかというと日本人にとって、芸術は趣味の領域で、災害や有事の際に役に立たないという考え方の人がいる。しかし、太古の歴史を紐解けば、政府や軍事,経済という概念が生まれる前から人間は絵を描いてきたことがわかる。色覚とか視覚というものは人間が人間たる根源的な意味の一つではないかと。災害や戦争で人間が生死の境にいる時、何をするかと言ったら絵を描くのである。人間が人間らしく豊かに暮らすために日本人はもっと芸術の文化的意味を理解するべきだと思う。

坂田勝亮 教授 (学位:文学修士)

1982年横浜国立大学教育学部心理学科卒業、1985年早稲田大学大学院文学部研究科博士前期課程修了、1986年財団法人日本色彩研究所、1995年秋田大学公立美術工芸短期大学を経て、女子美術大学教授(現在に至る)