【新しい看護・医療の教育を目指す大学 足利工業大学】学士看護師の普及、特定行為に係る看護師も視野に捉えた日本の医療を看護から変える教育|大学Times

大学Times Vol.13(2014年6月発行)

【新しい看護・医療の教育を目指す大学 足利工業大学】学士看護師の普及、特定行為に係る看護師も視野に捉えた日本の医療を看護から変える教育

足利工業大学の前身である足利実践女学校が設立されてから来年で90周年を迎える。その節目を前にした今年4月、同大学に4年制看護学部が併設された。足利短大で18年間培ってきたノウハウに加え、優秀な学士看護師を輩出するための講師陣も充実させている。工業大学の看護学部として動き出した現状について、日本の将来の医療を支える人材育成に情熱を傾ける山門学部長に話を伺った。

貴学の教育方針についてお話ください

日本の医療レベルは世界と遜色なく、むしろリードしていると言っても過言ではありません。ただ、看護師のレベルがそこまでに達していないのが現状です。私たちは質のよい人間性豊かな学士看護師を養成して、看護から日本の医療を変えていきたいと考えています。

従来の看護師と4年制大学で学んだ学士看護師の違いですが、欧米では、病院に学士看護師が100人のうち10人いれば、その医療の現場では死亡率を7パーセントも減少させることができると言われています。それほど学士看護師のレベルは高いということです。私たちはそのような質の高い看護師の養成を行っていきます。欧米にはレジスタードナースという医師に近い判断と医療行為が認められた看護師が存在します。現在、国会で審議中の特定行為に係る看護師がそれにあたり、審議が通ればそれを見越した看護師の研修が本格的にはじまると思われます。本学はそれも視野に入れて、今年、4年制へ移行しました。私たちが文科省で何度も折衝して、最終的なヒアリングで認めてくれたのは、質の高い看護を地域に提供するということで認可が得られたのだろうと思います。4年制に移行したもうひとつの理由は地域からの強い要請で、良質な看護を提供してほしいということもありました。栃木県の北部や中央部には看護大学があるのですが、ここ南部において、ことに工業大学4年制の看護大学は本学がはじめてのことになります。また、養護教諭一種免許状を取得できるのも県内で本学だけであることも大きな特徴と言えるでしょう。

これからの看護師にはどのようなことが求められるのでしょうか?

看護における技術を我々は"アート"と呼んでいます。病気は治療すれば治りますが、健康は肉体的、精神的、社会的にすべて調和が保たれて、はじめて健康といわれるのです。例えばがんの患者さんのがんを治すだけでなく、患者さんのクオリティ・オブ・ライフ、つまり患者さんの生活の質を高めてあげる、社会におけるポジションを保つところまでサポートしてあげようというのが今後の医療の基本になるわけです。ですから、高い知識と人間性豊かな看護師が求められてくるのは必然的なことなのです。質の高さだけでなく精神面もサポートできる人材。"アート"癒しの技、アート・オブ・ヒーリングですね。病気は治せても精神的、社会的な生活の質を上げなくては健康を取り戻せませんから、癒しというのは必要になります。要するに心のケア。これは増々求められてくることなので、学生たちに「君たちは専門職になるんだよ」ということを、徹底して意識させることが重要だと思っています。

本学では保健師の受験資格も取得可能です。保健師も今後の医療に重要性を増してきます。いままでは病気を治すことと重症化の予防、死なせない医療が医療の中心だったのですが、これからは寝たきりにならないような予知・予防、発症予防がますます重要視されています。自分ひとりで生活できる年齢のことを"健康寿命"と言いますが、その平均年齢は75歳くらいまでで、あとの10年は誰かの助けをかりなくては生活できない、あるいは、寝たきりということで生命を持続していくわけです。その健康寿命を延ばすというのが今後の医療の目標です。それに伴い、予知・予防が極めて重要になり、保健活動を行う、保健師の役割りが今よりさらに求められてきます。寝たきりになる大きな理由は脳卒中、認知症、それとロコモコティブシンドローム(運動器症候群)といわれる、関節、筋肉、骨が弱くなる病気群が三大要因といわれています。こうした病気は普段からの生活を改善していかなくてはいけないので、地域を訪問する保健師にも期待がかかっています。

工業大学の看護学部として、特色ある取り組みはありますか?

工業大学に併設されているメリットを活かした最大の特徴は第2種ME(メディカルエンジニア)技術者の資格が取得可能なことです。それに加えて、医療工学に関連した看護人間工学、医用工学の基礎などを学ぶことができます。これは最初にお話した特定行為に係る看護師の認定を見据えて、血液透析や生命維持のために使っている機械を自由に使いこなせる技量を身に付けておいてほしいとの意図があります。また看工(看護・工学)連携により、介護ロボットや医療機器の共同開発なども今後の目標としています。工学部には睡眠研究の第一人者の先生がいますので、睡眠と健康をこの連携で発展できるようにもしていきたいですね。

最後に貴学が求める学生像をお聞かせください

本当に看護師を志す人を受け入れたいですね。私たちの大学は人に対して思いやりを持って看護することを掲げています。学校や親から薦められて入学するのではなくて、本当に自分から看護師になりたい人だけを求めています。そうでないと四年間を全うすることはできませんし、看護師になったあとも自分のキャリアというものが考えられないと思うのです。私が看護師の養成に携わろうと思ったのは医者の養成よりも、看護から日本の医療を変えなくてはならないとの思いからです。今後、どのような学生が入学してくるのか楽しみにしています。

山門 實氏

【プロフィール】

山門 實(ヤマカド ミノル)

社会福祉法人三井記念病院総合健診センター特任顧問、昭和大学医学部衛生学教室客員教授。医学博士。高血圧専門医、総合内科専門医、人間ドック専門医。
1972年群馬大学医学部卒業。同年三井記念病院内科研修医を経て、78年東京大学医学部第二内科等、勤務。83年三井記念病院腎センター科長、91年同健康管理科部長、94年同総合健診センター所長、2012年同特任顧問。日本人間ドック学会理事をはじめ、日本内科学会、日本高血圧学会、日本動脈硬化学会、日本肥 満学会、 日本抗加齢学会の評議員とともに、日本腎臓学会学術評議員、日本内分泌学会代議員、米国高血圧学会会員として幅広く高血圧診療に従事。