【建築学系大学特集】イベントレポート 文系でも理系でもない総合学問「建築学部」設立10年の歩みとこれから~建築学部10周年記念サミットより~|大学Times

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大学Times Vol.42(2021年10月発行)

【建築学系大学特集】イベントレポート 文系でも理系でもない総合学問「建築学部」設立10年の歩みとこれから~建築学部10周年記念サミットより~

日本の大学に「建築学部」が誕生したのは2011年4月。工学院大学と近畿大学が礎を築き、この10年で9校と着実に増加している。これまで建築学科は、理系の「工学部」や美術系の「芸術学部」等に設置され、その結果大学受験においては「理系」「美術系」のイメージが先行していた。しかし、実際の建築教育はその枠組みには収まらず、近年の社会のニーズに合わせる形で範囲が拡大しており、実に多くの分野にまたがる学問となっている。本年5月15日にオンラインで開催された「建築学部10周年記念サミット」では全大学が集い、各学部長が設立の経緯や学びの特徴を発表した。各大学プレゼンテーションから一部を紹介する。

「建築学部10周年記念サミット」
建築学部設置 全9大学

東北工業大学/日本工業大学/工学院大学/芝浦工業大学/明星大学/金沢工業大学/近畿大学/関西学院大学/武庫川女子大学(発表順)

地方・農村部の課題に向き合い災害復興なども実践的に学ぶ
東北工業大学 石井学部長

2020年設立。既存の工学部、ライフデザイン学部を繋ぐ横断的・学際的な学びを実践しています。この2年は定員135名に対し160名を超え、うち女子学生が約2割、工業高校で建築を学んだ生徒が3割です。東北各地から来た学生で地元愛が強く、小学生のときに東日本大震災を経験したことが学びのモチベーションになっています。建築を総合的に学び、仙台にある大学として地域や自治体、企業との連携を重視した地域密着型の建築教育で、本学OBの15名がオムニバスで講義を行う『建築プロフェッショナル論』が特徴的です。

実際に作ることの難しさと共同作業で作り上げる喜びを体験
日本工業大学 足立学部長

2018年設立。本学は工業高校出身者の高度教育の進学先として設立されたので、多様な学習背景を持つ入学者が混在しています。実体験と理論の両方を重視する“実工学の理念”を設立の背景に、建築コースと生活環境デザインコースがあります。『カレッジマイスタープログラム』では毎年小さな建物を自分たちで企画・設計・施工し、チームでプロジェクトを運営する力を身に付けます。また家具製作の工房を持ち、自分でデザインして作り使うプロセスを原寸で体験できるので、有効な建築教育となっています。

ハイブリッド留学制度など新しい建築教育を牽引
工学院大学 野澤前学部長

2011年設立。3学科にそれぞれ4つの分野を持ち、選択の幅が広く特化した専門家が数多くいます。建築学部として入学し、3年進級時に学科選択ができる入試制度もあります。建築は高校まではなかったジャンルなので、なんとなくしかわからない人が多く、入学後に幅広く知った上で専門を決める道を用意しています。ハイブリッド留学制度は、英国カンタベリーで過ごしながら本学の授業を日本語で受け、現地で英語の勉強をして外国の生活を体験します。

『建築』を再構築し次世代の建築教育をリード
芝浦工業大学 秋元学部長

2021年設立。母体は工学部建築学科と建築工学科、デザイン工学部のデザイン工学科建築空間デザイン領域です。学部誕生ともに、学部4年と修士2年はすべて東京ベイエリアの同一キャンパスになりました。この周辺は昔ながらの路地や運河、オリンピック施設など近代的な建物、神社仏閣があり、さまざまな構造物を身近に体験できるのが特徴です。建築学部建築学科にはAP(先進的プロジェクトデザイン)、SA(空間・建築デザイン)、UA(都市・建築デザイン)と3つのコースがあり、住宅建築をはじめ災害復興や街づくりなど幅広く、理解した上で将来何をやっていくのかを考えてほしいです。

建築学は人間学
建築の力で世の中にもっと笑顔を
明星大学 村上学部長

2020年設立。2005年理工学部土木学科を土台に建築学科が誕生、2010年総合理工学科建築学系に改組。建築学部化構想は「デザイン学部に建築を統合できないか」から発足しています。9学部12学科の中規模総合大学の強みを活かし、学際的に学べます。実践的なプロフェッショナルを育成するため実務家教員を充実させ、必修科目だけで全員が一級建築士の受験資格を得られます。建築は人のためにあるものなので、人が幸せになれる空間を提供できる、人に興味のある人を求めています。文系・理系の人も大歓迎しています。

他学科改組で単独学部へ
既存と異なる入試・教育が可能に
金沢工業大学 蜂谷学部長

2018年設立。工学部建築学科から2004年に環境・建築学部が発足し2012年に化学系が独立、建築と土木の学部になり、2018年土木が工学部に戻る形で結果として単独の建築学部になりました。新入生は毎年230~240名、全員の設計案を毎週教員が分担して指導しています。金沢には歴史的街並み、近代的建物、伝統的日本家屋が多数あり、教材に溢れています。建築学は理系・文系・芸術系の総合でできており、既存の枠とは異なる入試・教育プログラムが必要で、それが可能となる単独学部です。

学部化で受験者数3倍
女子学生倍増 受験偏差値5ptアップ
近畿大学 岩前学部長

2011年設立。本学は理系9学部、文系6学部の総合大学です。1学科4専攻で『守り育てる建築』をキャッチフレーズに、作ったものをいかに育てていくか、今求められている人材だけでなく先に変化する世の中に役立つ人材育成が重要という考え方を基にしたのが「住宅建築専攻」と「企画マネジメント専攻」です。学部化によって、学習プログラムの微調整や受験科目の設定調整が容易になりました。文系科目の受験を可能にし、前面に打ち出しました。就職も各専攻に一致する分野が一番多く、狙い通りの出口になっています。

総合政策学部から独立
人文学的な視点から視野を広げる
関西学院大学 角野学部長

2021年設立。前身は総合政策学部内に二級建築士プログラムを、2009年に一級建築士プログラムを開設し学部独立となりました。建築の三要素『用』『強』『美』を踏まえ、その先にあるものを考えようと受験生に話しています。今年は改組で理系4学部(理学部、工学部、生命環境学部、建築学部)が発足し、相互が情報交換しながら運営しています。近年は建造物を都市環境・地域環境の中でどう活かしマネジメントしていくかが関心を持たれ、都市や建築に興味を持って海外で建築関係の仕事に就きたいという文系学生も増えました。

6年教育が世界の常識
恵まれた環境で演習を多く実施
武庫川女子大学 岡崎学部長

2020年設立。生活環境学部から独立し、建築学科45名、景観建築学科40名の徹底した少人数教育で学習環境も充実しています。日本で5つしかない『UNESCO-UIA建築教育憲章対応大学』で、大学院を含めた5年以上の建築専門教育と外国の大学のように演習中心のスタジオ教育が特徴です。大学院進学が80%以上と高く、大手ゼネコンや住宅メーカー、設計事務所に多数就職します。キャンパスは歴史的建造物の甲子園会館など3か所にバランスよく配置、生きた教科書になっています。土曜日はフィールドワークに充てています。

以上は発表内容の一部だが、同じ建築学部でも設立の経緯や前身の学部によって各大学のカラーが異なるようだ。建築教育は年々その領域が広がり、単に「建物を作る」だけではない、さまざまな課題に取り組む人材を育成している。本サミットでも言及されたが、「建築教育」に対する認識を改めることは、高等学校の先生方には新たな視点での生徒の進路指導の参考にもなるだろう。2面は『建築学部10周年記念サミット』で司会を務めた工学院大学・筧学部長、3面は歴史ある美大の建築教育について武蔵野美術大学・布施教授のインタビューをお読みいただきたい。