【理工系大学特集】スペシャルインタビュー 文部科学省|大学Times

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理工系大学特集スペシャルインタビュー
科学技術立国・復権へ
大学の研究力強化に国がファンド支援
「国際卓越研究大学」制度始まる
~文部科学省~

大学Times Vol.46(2022年10月発行)

【理工系大学特集】スペシャルインタビュー 文部科学省

ノーベル賞の日本人受賞者(国籍変更含む)は2021年までで28名。特に2000年以降は20名で全員が自然科学分野から、大半が約30年前の研究成果に対する受賞だという。しかしスピーチ等で「日本の基礎研究に対する危機」を述べた受賞者は少なくない。脆弱な研究費体制によって負のスパイラルに陥る、自然科学分野の研究環境の厳しさが垣間見られる。昨年10月、岸田首相は国会の所信表明演説で「科学技術立国の実現」を明言し、本年5月、大学の研究力強化のための関連法案が可決された。異例のスピードで準備が進んでいる「国際卓越研究大学」制度および通称「10兆円規模の大学ファンド」とよばれる研究力強化に向けた取組とその背景について、文部科学省の馬場大輔 大学研究力強化室長に話を伺った。

文部科学省研究振興局 大学研究力強化室長
馬場 大輔(ばば だいすけ)

平成16(2004)年入省。理学修士・公共政策修士・ミシガン大学STPP・東京大学EMP修了。基礎研究推進室長、外務省在米大使館一等書記官、内閣府企画官等を歴任。令和3(2021)年10月、大学研究力強化室の発足に伴い、現職。

第205回国会における岸田内閣総理大臣所信表明演説
令和3年10月8日
 新しい資本主義を実現していく車の両輪は、成長戦略と分配戦略です。
 まず、成長戦略の第一の柱は、科学技術立国の実現です。
 学部や修士・博士課程の再編、拡充など科学技術分野の人材育成を促進します。世界最高水準の研究大学を形成するため、十兆円規模の大学ファンドを年度内に設置します。デジタル、グリーン、人工知能、量子、バイオ、宇宙など先端科学技術の研究開発に大胆な投資を行います。民間企業が行う未来への投資を全力で応援する税制を実現していきます。
 また、イノベーションの担い手であるスタートアップの徹底支援を通じて、新たなビジネス、産業の創出を進めます。
 そして、2050年カーボンニュートラルの実現に向け、温暖化対策を成長につなげる、グリーンエネルギー戦略を策定し、強力に推進いたします。
 第二の柱は、地方を活性化し、世界とつながる「デジタル田園都市国家構想」です。(中略)
 第三の柱は、経済安全保障です。(中略)
第四の柱は、人生百年時代の不安解消です。
(以下略)

日本の大学の研究力が低下?欧米大学は豊富な研究費を独自ファンドで調達

ポストコロナを見据えた技術の覇権争いが激化し、他国も科学技術への投資に力を入れています。相対的に日本の大学の研究力が低下、特に欧米の大学との研究力の差が広がっています(資料A)。その一因として、欧米の主要大学はかねてより独自基金に着眼し、その運用益で教育研究活動を下支えしています。現在は1大学だけで数兆円規模の独自基金を有する大学も存在しており、ハーバード大学では年間2000億円以上が運用益から配分されています(資料C)。

日本でも国際競争力の低下や財政基盤の脆弱化の現状を打破し、これまでにない手法として大学ファンドが構想されました。

文科省が大学研究全体を俯瞰し政策立案
「大学研究力強化室」発足

第6期科学技術・イノベーション基本計画において「大学の研究力強化を図るため、文部科学省における組織・体制の見直し・強化を進め、国公私立大学の研究人材、資金、環境等に係る施策を推進する」と明記され、2021年10月、新たに発足したのが大学研究力強化室です。大学の特色や強みに基づく研究の現状を踏まえ、研究全体を俯瞰した政策を企画・立案する、これまでの文部科学省では十分担うことのできなかった総合的な機能を持ちます。3つの部局を改組再編しましたが、危機感をもって本取組を遂行しています。岸田首相を座長とした「総合科学技術・イノベーション会議」および「科学技術・学術審議会 大学研究力強化委員会」の会議を重ねて、国際卓越研究大学制度に関する基本方針案がまとめられ、年内に公募を始める予定で進めています。

学生の理科離れは国の産業競争力にも影響
これからは幅広い教養教育が不可欠

大学教育における理科離れ、という言葉を耳にすることがありますが、今は理系文系という区分ではなく、あらゆる分野の教養教育が必要です。さらに、これから大学へ進学する中・高校生は教科・科目の苦手意識や学問分野の食わず嫌いを作らず、幅広く学ぶことが求められます。国の成長戦略の4つの柱(前掲)すべてが、これからの時代を見据えた“学び”に関係し、科学と向き合うことになるからです。

学生の理科離れは、国の産業競争力と相関関係にあるといわれています。チャンスがあれば博士課程へ進学して、より高度な専門知識を修得しようという意欲の高い国と、「博士課程に進んでも生活に困窮する※」と一部メディアで報道されてしまう進学に消極的な日本の違いが、研究力の低下(資料A)を招いている一因とも言えるでしょう。

※2020年12月、萩生田文部科学大臣(当時)よりメッセージが発信され、大学ファンドに先駆けて大学院博士課程の学生に対し、研究費や生活費相当額を支給する経済的支援を大幅に拡大している

欧米の寄附文化が好循環を生み大学を着実に成長させている

諸外国、特に欧米の大学は、この20年で着実に成長しています。東京大学や京都大学について、かつてはオックスフォード大学、ケンブリッジ大学、と似通った位置付けにありましたが、今は水を開けられています(資料B)。欧米の各大学は研究等の発展が成長を後押しし、日本の大学は成長しないまま、という状況です。

今回、大学ファンドを創設する背景には、“エンダウメント(Endowment)“とよばれる欧米の主要大学による充実した独自基金と、日本の大学基金の桁違いの差という事実があります(資料C)。欧米の大学は主に卒業生からの寄附が潤沢にあり、20年間で広がった差がこの先さらに広がると、日本の大学は二度と太刀打ちできません。

世界中の学生に選ばれて世界と勝負する大学を選ぶ「国際卓越研究大学」制度

さらに、日本の優秀な学生が海外の大学に進学すること自体、望ましい流れではありますが、その理由が日本の大学に満足していないことであれば、とても残念に思います。海外の優秀な学生が日本に来て学ぶ環境があれば、海外に行かなくとも日本の大学で切磋琢磨できるからです。そのような状況を打破し、世界最高水準の研究大学を実現するために作ったのが、「国際卓越研究大学」制度および大学ファンドでもあります(全体像は資料D参照)。

我々が実現したい「国際卓越研究大学」の将来像は、世界中から多様な学生が来て学び、日本の学生も海外に行く、スタートアップなどの支援も行い、卒業生からの寄附も拡大することで大学独自基金を拡充し、経済的不安がなく博士課程に進学できるなどの好循環を生む仕組みを想定しています(資料E)。

現在の日本の大学は、教授の給与や職員数、女性研究者や外国人教員の割合などさまざまな点で海外の大学に水を開けられている状況にあります。「国際卓越研究大学」制度によって、そういった状況も改善されることも期待しています。

大学ファンドの成功は学生の幅広い経済的支援から

大学の独自基金を充実することで、学生への経済的支援も今以上に行えるようになり、競争力も上がって好循環になると予測しています。大学が卒業生から感謝される教育を提供できれば、より多くの寄附を受けることもできるでしょう。欧米の名門といわれる大学は、経済的な状況に関係なく学生を受け入れる体制が整っており、独自基金で賄われています。学生は大学に感謝をして、卒業後に寄附を行うという好循環が出来上がっているのです。

大学は社会の公共財
卒業後も愛着を持ち共に発展できる場に

この大学ファンドが認知され、大学の独自基金に関心を持つ人を増やすには、大学と卒業生の距離を近くする工夫も必要です。今は出身大学を「18歳から22歳までの通過点」と思っている人が少なくありません。卒業して終わりではなく、これからはリカレント教育などの“学び直し”や、“教え直し”などがあってもいいと思います。卒業生が母校に出入りする機会を持つことで、大学に対する愛校心を末永く持ち続ける、いつでも歓迎する体制づくりを各大学が行うと良いのではないでしょうか。そうすれば大学は社会の公共財として関係者から共感を得て、共に発展する場に変えていくことができるのではと考えます。

今は高校生の進学先候補として、海外の大学も同じテーブルに乗る時代です。コロナ禍を経てオンライン授業の環境も整備され、世界中で授業を受けることが可能になりました。高校生をはじめとした世界中の受験生に選ばれる、魅力ある大学づくりのきっかけとして、最初の後押しを国が行うのが「国際卓越研究大学」制度であり大学ファンドです。

多様な研究大学群を作りたい
地域で輝く大学の魅力を見える化

「世界と勝負する大学」というと、旧帝大のような総合大学をイメージするかもしれません。しかし、我々は地域の特色を生かした、多様な研究を行う大学が必要だと考えています。諸外国では、中堅大学の多くは得意分野を持ち、その分野で優秀な学生や教員獲得の努力を行い、それが大学の研究競争力の原動力となっています。

長年にわたる独自の研究・教育が地元社会に根差し、地域で輝いている大学もありますが、その魅力を見逃されているケースも少なくありません。次の世代への投資として、魅力ある大学の“研究の見える化”に注力することも必要です。こうして、世界で選ばれて優秀な研究・教育で持続的に発展する大学を目指さなければなりません。

大学ファンドは最長25年

今年中に基本方針を策定し、対象大学の募集を始める予定です。その後1年かけて選考し、2024年度から大学ファンドによる支援を開始します。支援期間は最長25年で、独自基金を作り上げていきます。対象の大学は、この間に卒業生の寄附や研究収益など基金の運用サイクルを構築することが必須となります。潤沢な大学独自基金を通じて、長期的視野に立った新たな学問分野や若手研究者への投資など、次世代の知・人材の創出に取り組んでいきます。